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卒業テストは一筋縄ではない 4



『リリス・アリスタルフさん。召喚獣を召喚してください』



 アナウンスが流れ、コロッセオの観客中の視線がわたしへと注ぐ。

 その視線は決して気持ちのいいものではなく、「どうせ召喚出来ないんだろう」という嘲笑や、蔑みを感じる冷たいものばかりだ。



『……リリス・アリスタルフさん? 召喚獣を』



 固まったまま動かないわたしを訝しんで、アナウンスが再度繰り返される。

 それに促され震える体を叱咤して、わたしは特別観覧席に座る学園長達の方を見上げた。



「はい、わたしの召喚獣は――〝この子〟です」



 そう言って腰に差してあるあるもの(・・・・)――短剣をシュッと抜いて頭上高く掲げてみせれば、会場中がザワッと大きく揺れたのがわかった。



「……アリスタルフさん。言っている意味がわからないのでご説明頂けますか?」



 学園長と同じく特別観覧席に座るマグナカール先生が、わたしの発言に青筋を立てて言う。

 普段ならすぐさま怒鳴り散らしていただろうが、兄様が隣にいるので堪えているみたいだ。



「だから、短剣こそがわたしの召喚獣なのです」


「あなっ……!」


「――――待ちなさい」



 怒鳴られないならこれ幸いと、わたしが澄ました顔で答えれば、先生は我慢しきれなくなったのか隣に兄様がいることも忘れて、真っ赤な顔で口を開く。

 しかしそれを学園長が静かに制した。そしてその金茶色の瞳でじっとわたしを見て、考え込むような仕草をする。



「ふむ、マグナカール先生の言う通りだアリスタルフ嬢。君がその短剣を召喚獣だと主張する根拠はなんだい?」


「…………!」



 予想外にも学園長がわたしの荒唐無稽な話に食いついてきてくれた。ならばと、わたしは事前に考えてきた台詞をスラスラと述べる。



「学園長もご存知のとおり、わたしは生まれてこのかた召喚獣を召喚出来た試しがございません。しかし魔法王国ラーには魔獣が多く、召喚獣による魔法が扱えなければ、自衛の手段がありません。


 ならばと、わたしは幼い頃よりこの短剣で我が身を守ってまいりました。これは即ち、幼い頃より肌身離さず持ち歩いていたこの短剣こそが、わたしの召喚獣と言えるのではないでしょうか? 


 ――なのでわたしはこの短剣と共に、テストに挑みたいと思います」



 我ながらとんでもない屁理屈だ。コロッセオ中がザワザワと騒つく。その中には目を丸くしてこちらを見ているアダムの姿も見えた。


 しかしここを乗り切らなければ、テストは受けられない。なんと思われようと、わたしは懇々とこの短剣こそが召喚獣なのだと主張する。


 そんなわたしの主張に真っ先に意を唱えたのは、マグナカール先生だ。



「貴女本気で言ってるの!? そんなこと認められる筈が……」


「――いや、面白い。アリスタルフ嬢の主張も一理ある。いいじゃないか、その短剣が君の召喚獣と認めよう。テストを受けてみさない」


「は???」



 音響魔法によってコロッセオ中に響いた言葉に、全員が学園長へと釘付けになる。特にマグナカール先生は、学園長の予想外の返しに口をあんぐりさせていた。

 そんな周囲の様子など意に介さず、学園長は瞳と同じ金茶色の長い髭を撫でながら楽しげに「ははは」と笑う。



「いや失礼。実は私が学園長会議でアリスタルフ嬢の退学を提案したのは、ちょっとした老婆心のつもりだったのだよ。

 てっきり私は、君がアリスタルフ家の人間だからこの学園に入学したのだと思っていた。


 ……でもそうか、君は自分の意思でここに居るんだね。うむ、召喚以外の成績は常に学年トップと聞くし、今の啖呵といい、エルンスト君の言う通り本当に心の強い娘さんだ。――ねぇ、エルンスト君」


「勿体無いお言葉です」



 今まで事の成り行きを黙って見ていた兄様が、学園長の言葉に恐縮して頭を下げる。


 ……でもちょっと待って! 良い話みたいに終わりそうだけど、つまりわたしが退学になりそうになったのは、学園長の余計な心配のせいだったってこと!?


 悪意から言い出した訳ではなかったのは良かったけど、正直急な退学通知に振り回された身としてはモヤモヤする。



「まぁそんな訳で、アリスタルフ嬢の召喚獣は特別に短剣ということでテストは続行だ。いいね、マグナカール先生」


「ええ……。学園長がそう仰るなら」



 マグナカール先生は渋々といった感じだが、そう言って学園長に頭を下げる。


 その様子を見て、モヤモヤは残るが、結果的にはこうなって良かったのかも知れないと思った。


 どの道、卒業テストは必ず受けなきゃ卒業出来ないのだ。

 もし今回のことが無ければ、短剣が召喚獣なんて無茶な主張がすんなり通せたかは分からないんだから。



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