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桜花 ~社会秩序庁の事件簿~  作者: 高井高雄
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第6章 婦女暴行事件 2

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 高松市にある、とある喫茶店で、木本は相手方の弁護士である川松と、相対した。


「弁護士の木本です」


「弁護士の川松です」


 お互い名刺交換を行った。


 相手方の弁護士である川松は、馬田綾香たちが弁護士を雇ったという事がわかると、明らかに嫌な顔をした。


「馬田さん。弁護士を雇ったのですか?無駄ですよ。非があるのは貴女方なのですから、無駄に費用がかかるだけですよ」


「川松先生。話でしたら、彼女たちでは無く、私が伺います。私の許可無く、彼女たちに話かけないで下さい」


 木本が、ピシャリと言い放つ。


 弁護士同士の言葉の戦いは、すでに始まっている。


「ちっ」


 川松は、舌打ちをした。


 あからさまに舌打ちをしたのでは無く、コッソリと言った感じでの舌打ちだ。


「黒湧和樹さんの主張に付いては理解しております。しかし、訴訟を起こすのは、かなり無理があるのでは無いですか?」


「何故ですか?木本先生。和樹氏は、正当な主張をしただけですよ。彼女たちは、バーベキュー中に体調を崩し、テントで休んでいた。和樹氏たちは、彼女たちの介抱をするために水やお茶等を提供しただけです。彼女たちが飲んだドリンクの中に何かの薬を入れた覚えはありません。彼女たちが誤ってアルコール飲料等の類を飲んだだけです。それを強姦された等、被害妄想もいいところです」


「確かに、その可能性もあります。しかし・・・1人なら、その主張も通りますが、3人全員となれば、おかしい話です。当時のバーベキューに出されたドリンクですが、ドリンクはすべて炭酸の入っていない飲料だったそうですね。アルコール飲料にも炭酸の入っていない物もありますが、そういった物のアルコール度数は低い。確かにアルコールに弱い人は一滴でも口にしたら潰れる可能性があります。しかし、彼女たち3人が、一度に体調を崩す可能性は低いです」


「・・・・・・」


「さらに、彼女たちにはアルコールの耐性についての検査をしましたが、3人共人並程度のアルコール耐性があるという結果が出ました。貴方と和樹氏が主張するようにアルコール飲料を誤って飲んだという点に付いてですが、アルコール飲料であれば一口飲んだだけでも違和感を覚えるはずでしょう。特に酒の味を知らなければ、なお更です」


「・・・・・・」


 川松の額から、汗が流れる。


 彼は、ハンカチで額の汗を拭く。


「先生が来る前に、所轄の警察署で、被害届を受理してもらうよう、お願いして来ました」


「!?」


「警察は、私の主張に従い被害届を受理しました。今後は家宅捜査等が実施されるでしょう。その際、薬等が発見される。その薬を販売した業者等の電話履歴、メール等が見つかれば、逮捕するに足る証拠が見つかります」


「そ、それは、ちょっと・・・」


 川松は、狼狽える。


 国会議員や県議会議員を務めるだけの名家に、専任弁護士として雇われるだけの実績を持ち、凄腕と言われるだけの名声もある川松ではあるが、自分と相対している木本の実績も知っている。


 刑事事件及び民事事案に対応した弁護士だけでは無く、国際弁護士、アメリカ・ニューヨーク州の弁護士としての資格を有し、刑事及び民事での裁判での勝利する確率は、90パーセント以上である。


 全国規模どころか世界規模に弁護士事務所を有し、その事務所には、500人ぐらいの弁護士が所属しているそうだ。


 木本の弁護士の能力は、超一流である。


 川本は、依頼主の息子たちの弁護を任されるに当たって、相手側の家庭事情もある程度には把握している。


 とてもでは無いが、木本レベルの弁護士を雇える程の資産は無い。


 木本を引っ張ってくるだけの、力を持った者が彼女たち側にいるとなれば、その黒幕は只者では無い。


 自分の雇い主には、敵が多い。


 それは知っているが、その敵も自分の雇い主同様に、清廉潔白では無い以上、迂闊に手出しをしては来ない。


 そう高を括っていたのだが、その認識は甘かったようだ。


 もしかすると、自分の雇い主は知らず知らずのうちに、敵に回してはいけない相手の逆鱗に触れてしまったのかも知れない・・・


「そ、相談させてください・・・」


 川松が、改めて話をしたいと主張した。





 その日の夜。


 高松市にある、とある1等地マンションの一室。


「何、俺たちが、逮捕されそうだって・・・?」


 川松から、事情を聞いたブランド物のシャツを着た青年が、問い返す。


 彼の名は、黒湧和樹である。


 県内の、大学の法学部に通う、3年生である。


「はい、相手方の女性たちに、腕のいい弁護士が付きまして・・・」


「はぁ~、あんな頭の悪い女どもに、そんな弁護士が付く訳が無いだろう。君が色々と手を回して、そんな事態にならないようにしたんじゃないの?」


「そうなのですが・・・?どうやら、私の認識不足で・・・その・・・」


 川松は、額の汗を拭きながら、狼狽える。


「アンタってさ。僕のパパに雇われた凄腕の弁護士でしょう?頭の悪い女どもが雇う弁護士なんて、大した事ないよね?」


「そうなのですが・・・」


「それに、金も無い専門学生が、弁護士を雇えるはずが無いよね?」


「黒湧さん。もしかしたら、誰か・・・金のある女が、金を出したじゃねぇの?」


 黒湧の取り巻きである青年が、告げる。


「そうか。そう言えば、あの日、1人のバカ女が欠席したな・・・」


 黒湧が、記憶を辿る。


「そうですね。確か・・・女のツレの話では、そのバカ女の姉2人は、地方検察局の検事と、県警の警察官だとか・・・」


「なるほど、その女どもの入れ知恵か・・・」


 取り巻きの言葉に黒湧は、赤ワインを飲む。


「それで、どうなの?」


「へ?」


 黒湧が、川松に顔を向ける。


「へ、じゃないよ。僕たち逮捕される可能性があるの?僕たちの訴えも退けられそう?」


 黒湧の言葉に、川松が怯えた表情で、告げた。


「は、はい・・・このまま行けば、坊ちゃんたちの訴えは退けられ、強制性交等罪の容疑で逮捕されます。もちろん、刑事裁判でも全力で弁護します!だから、ご安心を」


「当たり前だよ。パパがアンタに、いくら払っていると思っているの?僕たちを無罪に出来なければ、パパに何をされるか、わかっているよね?」


「は、はい!もちろん!」


 川松は、狼狽える。


「でもさ、黒湧さん。俺たちは、法学部の学生だぜ。こんな事が表沙汰になったら、最悪、退学。そうでなくても停学処分になっちゃうよ。それどころか、俺たちの進路に影響する事になるかも・・・」


 手下の言葉に、黒湧が赤ワインを飲む。


「そうだね・・・」


 黒湧は、少し考える。


「だったら・・・さ」


 黒湧が、川松を見る。


「その弁護士。買収出来る?いくら積めばいい?」


「それが・・・」


 川松は、難しそうな表情を浮かべる。


「彼女たちに付いている弁護士は、賄賂は一切受け取らない、厳格な人物なんです。元々、特捜部の検事で、20年ぐらいのキャリアを積んだ人物です。決してお金には心を動かされない人です」


「そんな人間がいるの?」


「はい、彼が特捜部の検事だった頃、政治家と企業の癒着を捜査していたでのす。その際、その際、容疑が掛った企業の役員から、1億円の賄賂を現金で積まれたそうですが・・・まったく、動じず、それどころか、買収の罪で、その役員を再逮捕しました。その時、彼の1人息子が命にかかわる病気になっていて、治療には莫大な医療費が必要だったようですが、それでも動かなったと・・・」


「その息子は、どうなったの?」


「死んだ・・・そうです」


「・・・・・・」


「黒湧さん。だったら、女どもの方を脅したらどうだ?金さえ払えば、何でもやってくれる、あの連中を使えば・・・そうすれば、バカな女な事だ。少し痛めつけたら、黙り込むじゃねぇの?」


 取り巻きが進言した。





 竹本は、妹の霞と共に、久々に姉妹一緒に過ごしていた。


(もえ)お姉ちゃん。高松地検に配属されるんだって」


「うん。聞いた。お姉ちゃんも新米検事として、初の勤務先が高松地方検察庁って、何か運命を感じるよ」


 霞の言葉に、竹本は頷いた。


「お姉ちゃんは?」


「ん?」


「刑事として、どうなの?」


「覚える事が多いかな。でも、出来る上司がいるから、私は側にいるだけのような感じ・・・」


「月詠さんだっけ?」


「うん」


「月詠さんって、すごいね。腕のいい弁護士を顧問に持っていて、費用持ちで、私たちの力になってくれるなんて・・・」


「常に犯罪者の先を行く人なの。短い間だけど側で、それを見ていて、実感した」


「へぇ~月詠さんか・・・一度、会ってみたいな。ねぇ、お姉ちゃん。月詠さんを、私に紹介してよ」


「いいよ」


「へぇ~いいの?私が彼氏にしちゃうかも」


 霞が、何かを期待する表情で、つぶやいた。


「別にいいよ。仕事上の関係だし、恋人なんて、今は考えられない」


「えぇ~・・・彼氏の1人や2人、作ったらいいじゃん。減るもんじゃないのに~」


「2人は、多いかな・・・」


「仕事が出来るだけじゃなく、人に優しく接する事が出来る人は、貴重だよ」


「そうなんだけど・・・」


「おばあちゃん。早く曾孫が見たいって、言っていたし、お母さんもお父さんも、手に職をつけるのはいい事だが、これでは、いつまで経っても嫁に行けないって嘆いているよ」


「別に今どき、結婚なんて30代でも珍しく無いじゃない?」


「そうだけど・・・」


 その時、突然、ワゴン車が目の前で、乱暴に停車した。


「何?」


「霞、下がって!」


 状況を掴めない霞に、竹本は妹の前に庇うように出る。


 ワゴン車のドアが開き、3人の男たちが外に出る。


 手には金属バットや、鉄パイプを持っている。


「霞。すぐに警察に通報して!」


「うん。わかった」


 霞は怯えた表情で、スマホを取り出した。


 しかし・・・


「あっ!」


 手が震えて、スマホを地面に落としてしまった。


「早く拾って!」


 竹本が、構える。


「オラァ!」


 金属バットを持った男の1人が、叫ぶ。


 それを合図に、3人が竹本に襲い掛かろうとした時・・・


「ぐはぁ!?」


 突然、スーツを着た1人の男が現れ、金属バットを持った男を殴り飛ばした。


「何だ!てめぇ!?」


 スーツを着た男は、無言で他の2人も殴り飛ばす。


「無事ですか?」


 同じ様なスーツを着た、別の男が声をかけてきた。


「あ、貴方は?」


 竹本が警戒した表情で、声をかけた男を見る。


「大丈夫っス。俺たち、月詠さんの指示で、貴女方の警護を任されていたんス」


「貴方、警察の方ですか?」


「いえ、ヤクザっス」


「え!?」


 霞が驚く。


 竹本が、まじまじと、声をかけてきたスーツの男の顔を見た。


「あ、貴方。柿澤会の?」


「そうっス」


 そうこうしているうちに、3人の男は、スーツを着た男に叩きのめされて地面に伸びている。


「おい!牧沢。他の連中を呼んで、こいつらを運べ」


「へい!兄貴!」


 牧沢と呼ばれた、柿澤会の男が挙手の敬礼をする。


 すぐにボックスカーが到着し、3人の男を、貨物室に放り込んだ。


「我々は、これで・・・襲われる心配は、もう無いと思いますが、早く家に帰って下さい」


 男3人を、ボコったスーツの男が、丁寧に頭を下げた。


「はい」


「行くぞ」


「へい!兄貴!」


 2人は、ボックスカーに乗り込み、走り去った。


「何なの?」


 口を開いたのは、霞だった。


 ようやく口に出来た言葉は、それだけであった。




 柿澤会事務所。


「お待ちしておりました」


 月詠が事務所に入ると、若頭の河西(かさい)(たけ)()が出迎えた。


「連中が、尻尾を出したと?」


「はい。彼らに飼われている半グレ集団が、被害者女性と、その友人たちを襲撃しました。大親分に言われた通り、彼女たちには末端構成員や若衆たちを、護衛に配置させておりましたので、大事にはなりませんでした」


「連中は?」


「事務所地下に、監禁しています」


「自白したか?」


「はい」


 河西は、眼鏡を上げた。


「連中のアジトに構成員を派遣し、残りの者たちを捕らえているところです。その後、必要書類を回収します」


「あまり派手にやるな。お前たちは、特定指定暴力団に指定されている」


「表向きは・・・でしょう?」


 河西は、わざとらしく言った。





[柿澤会]





 荒川組系暴力団に属する、地域暴力団である。


 しかし、これは表向きの話であり、実際は、社会秩序庁が管理する非合法組織である。


 主な役目は、反社会団体の実態調査、賭博、薬物売買等の反社が行う違法活動の調査と監視、非行少年や非行少女の保護、教育、家出少年、家出少女を保護し、児童相談所に移送する事等、一般人が考える暴力団とは、ほど遠い活動を行っている。


 そのため、社会秩序庁を経由して警察、麻薬取締部、税関、児童相談所とも連携し、さまざまな活動を行っている。


 地域に溶け込むように防犯活動や地域清掃活動にも積極的に参加し、地域の治安向上、健全化が行われている。


 もちろん、暴力団である以上、荒っぽい事もする。


 全国規模に展開しているため、その地域に合わせた対応を行っている。


「会長がお待ちです。お話は、そこで」


「わかった」


 応接室に通された月詠を、柿澤会・会長の柿沢(かきざわ)明石(あかし)が歓迎する。


「月詠さん。ご足労をおかけしました」


「いえ、奴らの情報を入手したと聞いて、喜んでいますので、苦では無いですよ」


「これで、世の中が健全になる。一歩前進ですな」


「香川県警本部も麻薬取締部、税関も感謝しています。貴方方の情報提供で、反社団体の一斉検挙が出来たと」


「いえいえ、それが私の仕事です。しかし・・・」


「命を、狙われるようになった?」


「そうです。香川県内の反社団体に構成員が命を狙われる事が増えています。末端構成員までに、レンコン(回転式拳銃)を携行させていますが、それでも・・・」


「そうですか。それでしたら、軽量の防弾・防刃衣を提供しましょう。アメリカの司法機関が近年開発した、軽量化された物があるのです」


「それは、ありがたいです。是非ともお願いします」


 その時、河西のスマホが鳴った。


「はい、もしもし」


 河西がスマホに出ると、黒湧と癒着する半グレ集団に、カチコミに行った構成員たちからの電話だった。


「そうか、わかった。それは、最高の結果だ」


 河西が、電話を切った。


「会長、大親分。喜んでください。半グレ集団のアジトから、黒湧の性犯罪に関する書類等が見つかりました。十分な証拠として提出出来ます」


「そうか。なら、今日は全員に、一本付けるぞ。それと、謝礼として寸志もな」


「それは、皆が喜びます」


「どうですか?月詠さん。貴方も付き合いませんか?」


「いえ、私は仕事がありますので、この件が解決しましたら、ご相伴に預かりたいです」


 そう言って、月詠はソファーから立ち上がった。


 相手が対策をする前に、先手を打つ必要がある。

 第6章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は5月27日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リアル重視で分かりやすい。 [一言] IF自衛隊派遣で疑問に思いましたが、第二次世界大戦が終わった現代世界の各国は、閲兵式あるいは観艦式を執り行わないでしょうか?  理由は、現代人は未来人…
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