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桜花 ~社会秩序庁の事件簿~  作者: 高井高雄
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第4章 幼女誘拐事件 4

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 香川県某市にある、倉庫地区。


 雨が、降っていた。


「目標の倉庫は、ここ」


 阿坂が、ペンライトを点灯させながら、地図を差していた。


「無人偵察機からの熱画像だと、子供たちは倉庫の中の冷蔵庫に押し込まれている。警備は10人前後。武器は鉄パイプやハンマー等の殴る武器に限られている。私たちの武器には、対処出来ない。周囲は、私服警察官が封鎖し、ここには私たち以外は、現れない。一般人を巻き込む可能性も無い」


 阿坂は、目出し帽を被った。


 MP7を、手に取る。


 他のメンバーたちも、MP7やMP5を手に取る。


「では、状況開始!」


 阿坂たちが、車から出る。


 闇に紛れて、素早く進む。


「狙撃班。配置は?」


 阿坂が、インカムにつぶやく。


「配置についている。いつでもいいぜ」


「了解」


 阿坂たちが、目的の倉庫前で、停止する。


「狙撃班。見張りが2人。始末しろ」


「了解」


 目標の倉庫から100メートル程に離れた地点から狙撃手と観測手2人で編成されたチーム2組が、見張りの2人に照準を合わせる。


 短い銃声が、響いた。


 1人の見張りが、頭から血を噴き出しながら倒れた。


 もう1人が駆け寄ろうとしたが、その前に頭部が吹き飛んだ。


「行け!」


 阿坂たちが、前進する。


 倉庫に設置されているドアを静かに開け、中に入る。


 阿坂たちは、二手に別れる。


 油断しきっているのか、倉庫内にいる警備要員たちは全員、テレビを見ていた。


「突入!」


 防弾楯を持った戦闘員が先導に立ち、駆け出す。


「何だぁ!?」


「てめぇら!何者だ!?」


 警備要員たちが、叫ぶ。


 しかし、何が起きたのか、理解出来ていないようだ。


「撃て!」


 阿坂が、インカムに叫ぶ。


 MP7やMP5の銃口が、火を噴く。


 レーザーポインターとドットサイトで、照準を定めるため射撃は正確だ。


 胸元に照準を合わせて、1人1人、確実に仕留めていく。


「くそぉ!?」


「こんなところで!!」


 数人の警備要員たちが逃走を計ろうとしたが、阿坂たちは、その頭部や背中に容赦なく銃弾を浴びせる。


「クリア」


「クリア」


 8人の警備要員たちが、床に倒れた事を確認すると、阿坂たちが足を止めた。


「こちらの損害は?」


「0!」


 阿坂の問いに、部下から報告が入る。


「念のためだ。倒れた奴らに、止めを刺せ」


「了解」


 戦闘員たちが、倒れた死体の頭部や胸元に、銃弾を浴びせる。


「子供たちを!」


「了解」


 戦闘員の1人が、冷蔵庫の扉を開ける。


 手足を縛られた幼児や幼女たちが、10人程度詰め込まれていた。


 庫内は、冷やされていた。


「子供たちを発見!医療班の手配を!」


 戦闘員が、報告する。





「ふむ。ご苦労」


 倉庫前で、月詠はスマホを耳に当てていた。


「子供たちを、保護しました」


「全員、無事か?」


「全員、命に別状はありません」


 香川県警察本部刑事部組織犯罪課に所属する警部補が、報告する。


「ただ・・・冷蔵庫に長時間にわたって閉じ込められていた模様です。低体温症が心配です。確認のため医療班が向かっています」


「そうか」


 香川県警察本部刑事部組織犯罪課の捜査員だけでは無く、警備部機動隊が1個中隊、完全装備の状態で待機していた。


「子供たちは恐怖と寒さで腹を空かせているだろう。味噌汁とおにぎりを提供してもらいたい」


「ああ。任せてくれ」


 機動隊の中隊長が、頷いた。


 事前に調理車も用意していたため、食事の準備は行える。


「竹本」


「はい」


「君の友人の娘がいるとは限らない。君が確認してくれ」


「はい!」


 竹本が、駆け出した。


「さて、次の仕事が完了して、この仕事は終りだ」





 竹本は、倉庫近くにある大型駐車場に設置された、仮説医療テントに顔を出した。


 ベッドの上で寝かされている子供たちの顔を、1人1人確認した。


「あっ!」


 1人の幼女に、視線が止まった。


(ふう)()ちゃん!」


 ベッドの上で、ぐったりしている幼女の名を呼んだ。


「お知り合いですか?」


 女性看護師が、問いかけてきた。


「はい。高校時代の友人の娘です」


「そうですか。では声をかけてあげて下さい」


「はい」


「お嬢さん。知り合いの方が、お見えになりましたよ!」


 看護師が、意識の無い幼女に声をかける。


「風香ちゃん!風香ちゃん!」


「どうしました?」


 別の子供を診察していた医師が、声をかけてきた。


「このお嬢さんの、知り合いの方だそうです」


 看護師が、説明する。


「先生。風香ちゃんの容態は?」


「軽度の栄養失調症と脱水が確認されていますが、身体の方は問題ありません。ですが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症している可能性があります。どうやら、監禁と暴力が原因のようです」


「そ、そうですか・・・」


「今は安静にさせて、様子を見ていますが、状況次第では薬の投与も視野に入れていなければなりません」


「・・・・・・」


 竹本は、風香に顔を向ける。


 こんな小さい子の心に、傷を負わせるなんて・・・改めて、誘拐犯と人身売買組織には、強い怒りを覚える。


「おや?」


 医者が、何かに気付いた。


 竹本も、風香を凝視する。


 風香の瞼が、動いている。


「どうやら意識を取り戻そうとしている。婦警さん、この子に声をかけてあげて下さい」


「はい」


 竹本が、風香に顔を寄せる。


「風香ちゃん!」


 竹本が声をかけると、風香の目が開いた。


「風香ちゃん。身体の具合はどう?」


「あっ、あっ・・・」


 風香は、声を上げる。


「お、おばちゃん・・・」


「なっ!?」


 竹本が、反応する。


「おばちゃん?婦警さん。失礼ですが・・・そんな年齢ですか?」


 医者が、確認する。


「違います!私は24歳です!この娘の母親が、私を呼ぶ時は、おばちゃんと呼ぶように言っているんです!」


「あぁ~・・・なるほど・・・」


 看護師が、納得したように頷いた。


 竹本の友人は、高校卒業後にすぐに結婚し、19歳で母親になり、保育園では、他の園児たちからは、他の母親同様に、もれなくおばちゃん呼びをされる。


未婚の竹本が自分と同じ歳で、お姉さんと呼ばれるのは納得いかないと主張し、友人は風香に対して、竹本の事を、おばちゃんと呼称するように教育した。


「おばちゃん!」


 風香が飛び起き、竹本に抱き付いた。


「だから、おばちゃんでは無く、お姉さんだって・・・」


「おばちゃん!」


「・・・・・・」


「おばちゃん。ママは?」


「大丈夫よ。ママには連絡するから、すぐに来てくれるわ」


 竹本の言葉に、風香は安心したように笑みを浮かべる。


「は~い、温かいごはんですよ!」


 女性機動隊員が、医療テントに入って声を上げる。


 機動隊員たちが、おにぎりと味噌汁の鍋を運んで来た。


 そして機動隊員たちは、子供たちに、おにぎりと味噌汁をトレイに乗せて配っていく。


 おにぎりには、玉子のふりかけと、サケのふりかけがかけられ、味噌汁は食べやすいように刻んだ具材が入っている。


 具は豆腐、大根、人参、若芽である。


「はい、どうぞ。ゆっくり食べるんだよ」


 機動隊員が風香に、トレイを渡す。


「お礼は?」


 竹本が、風香に声をかける。


「ありがとう。おじちゃん!」


「おじっ・・・!?」


 機動隊員は、ショックを受けたような顔をした。


 無理もない。


 顔立ちから、機動隊員は竹本と同じ歳ぐらいのように見える。


 竹本に会って安心したのか、風香は、おにぎりにかぶりついた。


「おいしい?」


「うん!」


 風香は、味噌汁を飲む。


 他の子どもたちも、警察に保護されて安心したのか、おにぎりにかぶりついている。





「班長。目標を確認!」


 山口県某市の、とあるビルの屋上。


『目標は確実に仕留めろ。子供の救出作戦は、成功した』


「了解」


 スマホを切った。


「松井さん。射殺許可は?」


「ああ。出た。川本」


 川本と呼ばれた男は、M1500の狙撃眼鏡を覗き直した。


「行けるか?川本」


 松井は、双眼鏡を覗きながら、聞いた。


「問題無い。この位置なら絶対に外さない」


 今回の2人の任務は、幼児や幼女たちの誘拐を指示した、チャイニーズマフィアのボスを暗殺する事である。


「警護要員は、3人。なかなかの腕のようだ」


「それは、そうだ。連中は元中国軍や国家警察軍に所属していた者だ。腕だけでは無く、銃の腕も高い。この地区の暴力団でも連中を怒らさないように、気をつけているようだ」


「距離500メートル。風向きは・・・」


 松井は、観測を行う。


 川本は、M1500を微調整する。


 2人は、月詠班に所属しているが、元は大阪府警察本部警備部特殊急襲部隊(SAT)の狙撃支援班に所属していた。


 2人は狙撃手として観測手としてSATの狙撃大会で、上位3位に入る腕前だった。


「照準よし」


「よし、撃て」


 川本は、M1500の引き金を引く。


 M1500の銃口から火を噴き、弾丸が発射される。


 発射された弾丸は、そのまま突き進み、チャイニーズマフィアのボスの胸元に命中した。


 胸元を貫き、ボスは、そのまま崩れ落ちた。


 川本は槓桿を引き、空薬莢を排出する。


「次は頭部だ」


 松井の言葉に、川本はボスの頭部に照準を合わせる。


「照準良し」


「撃て」


 M1500の引き金を引く。


 銃声が、響く。


 発射された弾丸が、ボスの頭部に着弾する。


 警護要員たちは何が起こったのか理解出来ず、周囲を見回すだけであった。


「さあ、すぐに退散だ」


 松井の言葉に川本は立ち上がり、M1500を片付ける。





 暗殺は、これだけでは無かった。


 次期ボスに推薦されているチャイニーズマフィアの幹部も、彼らに懐柔された別のチャイニーズマフィアによって、暗殺された。


 すれ違いざまに、自動拳銃を向け、3発発射されたのだ。


 発射された3発の弾丸は、腹部と胸元に命中し、幹部は絶命した。


 さらに、チャイニーズマフィアの会計担当の人物も襲撃され、絶命した。


 チャイニーズマフィアは、1日でナンバー1とナンバー2が暗殺され、会計担当も暗殺された。


 間を置かずして、山口県警察本部刑事部組織犯罪対策課の捜査員たちが、警備部機動隊に支援されながら、チャイニーズマフィアの事務所に家宅捜査に入り、軒並み幹部たちの逮捕が行われた。


 容疑は人身売買と児童誘拐等を、指示した事についてだ。


『早朝に発生した3件の銃撃事件によって死亡した被害者たちは、チャイニーズマフィアの代表と、次期代表候補、そして会計担当と判明しました。警察は、対立勢力による暗殺と断定し、警戒を強めています・・・速報です。チャイニーズマフィアの事務所に、山口県警が強制捜査を行いました。詳しい話は不明ですが、数々の犯罪関与についての重要証拠を押収し、幹部たちを逮捕したとの事です』


 朝のニュースで、当事件についての情報が流れた。





「状況終了」


 月詠は、スマホを持ったまま、つぶやいた。


 これで、日本国内で発生している人身売買を目的とした誘拐事件が無くなる訳では無いが、そういった後ろ暗い事をやっている連中に対しての牽制くらいにはなるだろう。





「わずか3日で、解決とは・・・」


 香川県警察本部長の遠井積夫警視長が、苦虫を嚙み潰したような表情で、つぶやいた。


「これでは警察の面目が、丸潰れでは無いか・・・」


「彼らの実力を考えれば、このような結果にもなりますわ」


 川本が、答える。


「しかし・・・単なる行方不明事件が、このような組織的誘拐事件に発展するとは・・・」


 刑事部長の小槌真司郎警視正が、つぶやく。


「彼らは証拠と共に、管轄県警本部刑事部組織犯罪課に情報を提供しています。さらに管轄の桜花の地方局に連絡し、チャイニーズマフィアに協力した半グレ集団や暴力団を襲撃し、誘拐された子供たちを、奪還しています」


「それだけではありませんわ。海上保安庁に証拠と共に、チャイニーズマフィアが運用する船舶の情報を流して、海外に行く船舶を臨検させています。臨検された船舶で、行方不明として片付けられていた子供たちを、保護したという情報が届きました」


 川本の説明に遠井は、天を仰いだ。


「他の県警は、どうなっている?」


「どの県警も警察の面子にかけて、チャイニーズマフィアの支部に強制捜査と家宅捜査を行っています。多くの幹部を検挙し、チャイニーズマフィアに協力した暴力団や、半グレ集団にも捜査の手が及んでいますわ」


「現在までに、保護した子供の数は?」


「100人程度になりますわ」


「・・・・・・」


「刑事部の動きは?」


「はい、チャイニーズマフィアに協力していた半グレ集団は、桜花が壊滅させたため、組織犯罪課の捜査員たちは、手柄を取られたと騒いでいます。桜花が逮捕した半グレ集団に所属する容疑者たちは、すでに引き渡されており、現在、取調中です。証拠も揃っていますので、これが法的効力を持つようにするため、半グレ集団の内部告発という事にしました。本日、午後に、機動隊の支援を受けた状態で、組織犯罪課の捜査員たちが、チャイニーズマフィアの支部に、強制捜査と家宅捜査を行います」


「うむ。我々の本領を発揮しなければ、香川県警の威信に関わる・・・いくら、我々の手柄にしてくれるとは言え、極秘の公式記録では、彼らの活躍によって、組織犯罪を摘発した事になっている」


「それでは、本部長。桜花の今後の使用に付いてですが、一般事件にも介入させてよろしいですか?」


「・・・・・・」


 川本の言葉に、遠井は黙った。


「あらあら、大変ですわ。このままでは香川県警は、面子に拘って、犯罪被害から県民を見捨てたと遠い未来、事実が明らかになった時に、日本国民に思われますわ」


「あぁ~わかった、わかった。桜花を今後、一般事件にも介入させる。それで、いいか?」


「ええ。よろしいですわ。それでは、四国管区を管轄する私たちが、桜花の行動を容認します。地元の県警や所轄の警察署との調整のために私の部署が、その責任を果たします。責任者は私が引き受けますわ。それでよろしいですわね?」


「ああ、かまわない」


 遠井は、頭を抱えた。


「では、私は失礼しますわ」


 川本は、必要な書類を持って、本部長室を退室した。


「よろしいのですか?」


 小槌が、問いかける。


「・・・仕方あるまい」


「・・・・・・」


 遠井は、1枚の書類を見た。


「政府公認の秘密組織。社会秩序庁・・・通称、桜花」





 社会秩序庁・・・これが、警察、自衛隊、政府等が、桜花と呼称する秘密組織の名前だ。

 第4章をお読みいただきありがとうございました。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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