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桜花 ~社会秩序庁の事件簿~  作者: 高井高雄
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第3章 幼女誘拐事件 3

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 阿坂は、香川県某市の商店街を歩いていた。


 数十年前は、平日であっても多くの人々が行きかい、活気があったが、郊外に駐車場を完備した大型のショッピングモールが出店してきた事により、日曜日だというのに人影は疎らで閑散としている。


 アーケードの両脇の店も、かなりの数がシャッターを下ろしている。


 そんな寂しい商店街を、阿坂は早足で歩いていた。


 暫く歩いていると、阿坂にピッタリとくっついて歩く男がいた。


 眼鏡をかけた、強面の男だ。


 傍から見れば、如何にもヤバそうといった感じの男が、真っ昼間から女性をナンパしているように見える。


「半グレ集団から、情報を回してもらった」


 強面の男は、阿坂に歩く速度を合わせながら、そっと封筒を差し出してきた。


 阿坂は、歩きながら封筒に入った書類に、目を通した。


 半笑いを浮かべて、トロンとした目をしていた彼女の目付きが変わった。


「最近、四国に勢力を伸ばしてきたチャイニーズマフィアが、地元の半グレ集団を懐柔し、幼い子供たちを誘拐している。中には警察や、子供を誘拐された親御さんと、深く関係を持っている奴もいるから、誘拐の際に怪しまれる心配が無い。さらに、細心の注意を払い巧妙に防犯カメラの死角を突くように行動しているから、防犯カメラに映る事が無いんだ」



 眼鏡をかけた強面の男が、小声で囁く。


「なるほど、単なる破落戸じゃないって事ね。チャイニーズマフィアが絡んでいるという事は、色々と入れ知恵されているって訳ね」


「そうだ。親御さんに関しては、元前科者という事で、それをネタに脅す。若しくは金を使って懐柔・・・ようは、人身売買をやっているって訳だ。今回の誘拐のように、そういった後ろ暗い過去が無い家族から子供を攫うといったケースもある」


 そう言いながら、男は別の封筒を取り出した。


「・・・・・・」


「チャイニーズマフィアに協力している半グレ集団の情報も、その封筒に入れてある」


 男の言葉に、阿坂が封筒の中身を見る。


「・・・・・・」


「件の半グレ集団は、香川県では小規模な組織であるが、恐喝、暴行、傷害等の事件を起こし、地元の飲食店や中小企業から、金品を脅し取っているそうだ。むろん、半グレらしい事もしている」


 数枚の写真を取り出し、写真を見る。


「チャイニーズマフィアの方は、元々は中国地方を縄張りとしている団体だが、最近は四国にも手を伸ばしている。暴対法や暴力団排除条例により、暴力団の力が弱まり、その皺寄せとして、チャイニーズマフィアや半グレ集団が、勢力を拡大した。連中は、暴力団と違って、仁義なんて物は持っていない。人を殺す時でも暴力団は、家族は対象にしないが、連中は家族も殺す」


「・・・・・・」


 男の話に、阿坂は無言だった。


「ありがとうございます。今後とも私たちと、良き縁を続けて下さい」


 阿坂は、ようやく口を開いた。


 阿坂は分厚い封筒を、男に渡した。


「はい、確かに」


 男は封筒の中身を確認して、ニヤリと笑う。


「それと・・・これは、局長から」


 薄い封筒を、阿坂が手渡した。


 男は封筒から、1枚の紙を取り出した。


「・・・半グレ集団への暴行、恐喝、傷害についての法的処置を免除する書類ですか・・・わかりました。これを、組長に手渡します」


「お願いします」


「では失礼します」


 男は、阿坂から離れ、脇道へと姿を滑り込ませる。


 阿坂は、公務用のスマホを取り出し、メールを打った。


 内容は、『必要な情報を入手しました。これから班長宅に伺います。他の班員も集合をかけて下さい』であった。


 すぐに月詠から、返信が来た。


 内容は、『了解した。他の班員にも伝える』であった。





 月詠は、班全員を、月詠宅の3階に集めた。


「集まってもらったところで、早速、会議を始めようと思う」


 月詠の言葉により、阿坂が口を開いた。


「高松市の某公園で発生した行方不明事件は、香川県各地で発生した行方不明事件と関連がありました。さらに、行方不明事件では無く、某チャイニーズマフィアに依頼された、半グレ集団による誘拐事件と、断定しました」


「その根拠は?」


 月詠が、聞く。


「はい、我々に協力している暴力団[柿澤会]からの情報によれば、最近、四国に進出してきたチャイニーズマフィアが、半グレ集団や暴力団に接触し、6歳未満3歳以上の幼児を誘拐するよう持ち掛けているようです。柿澤会が確認したところ、この話に乗った半グレ集団が、幼児誘拐事件を実行しているようです」


 阿坂が説明を終えると、月詠が手で合図を出し、パリザタとミキの2人が資料を配布した。


「今、配りました資料は、彼らの犯行を関連付ける資料です」


 阿坂が、口を開いた。


「柿澤会から提出された、半グレ集団が使用する車についての情報に従い、連続誘拐事件の現場周辺の防犯カメラの映像を解析した結果、その車を特定しました。車内を詳しく解析した結果については、次のページです」


 班員たちが、ページをめくる。


「車重が事件発生前と発生後では若干、異なっています」


 阿坂が、説明を終えた。


「さらに裏付けを取ろうと・・・」


 桑島が、口を開いた。


「そのチャイニーズマフィア・・・表向きは、貿易会社だが・・・運送の仕事を請け負っている半グレ集団から情報提供をしてもらった結果、連続誘拐事件で誘拐された幼女、幼児たちによく似た子供たちを見た・・・という事です」


 桑島の説明が終ると、月詠が口を開いた。


「このチャイニーズマフィアは、主に人身売買を行う組織で、最近になって四国に進出してきた。恐らく、同様の事件を計画し、香川県以外でも誘拐計画を実行するだろう。そのため、プランAは消滅した。これからの計画は、プランDとする。連中の人身売買計画を阻止し、誘拐された幼児たちの奪還及びチャイニーズマフィアと、連中に協力する半グレ集団を壊滅させる。いいな?」


「「「問題ありません!班長!」」」


「了解した。全員、志願に感謝する」


 月詠は、笑みを浮かべた。


「派手にやれ」


 そこで、会議は終わった。


 全員が、会議室から退席する。


「あの、月詠さん」


 竹本が、声をかけた。


 彼女は、見学者であるため、発言を控えて、ただ会議の内容を聞いていただけであった。


「そのチャイニーズマフィアは、何が目的で、人身売買を?」


「ああ・・・連中は、中国政府や中国司法機関にも睨まれている反社だ。紛争地域に、安価で誘拐した幼児たちを、提供している」


「紛争地域?」


「そうだ。少年兵、少女兵にするために・・・な」


「・・・・・・」


 竹本は声に出せない程、驚いた。


「この国でも珍しい事では無い。年間100人から200人ぐらいの幼児が少年兵、少女兵として紛争地域に輸出されている。あの娘もそうだ」


 月詠は、ミキに顔を向ける。


「ミキの場合は誘拐されたのでは無く、金の無い親が、生活費欲しさにチャイニーズマフィアに売った」


「そんな!?」


 竹本は、声を上げた。


「これが現実だ。どんなに豊かな国になっても、貧困層はある。そして、金欲しさに子供を売る親もいる」


「その・・・ミキの両親は、どうなったのですか?」


「俺が刑務所に、ぶち込んだ」





 半グレ集団リーダー宅付近。


 住宅街の1つに、半グレ集団のリーダー宅兼半グレ集団の、拠点が置かれている。


 半グレ集団のリーダー宅の近くに、黒いボックスカーが停車していた。


「月詠班長からの指示で、俺たちは、この家にいる住人を襲撃する」


 4人の男たちが、打ち合わせしていた。


「いいか、あくまでも強盗の仕業に見せる必要がある。相手は、小規模な半グレ集団だ。暴力団からの情報では、弱い者には威張るが、そうでない者には弱腰なのだそうだ」


 リーダー格の男が、簡単に説明をする。


「では、始めるぞ」


 リーダー格の男の言葉に、3人は、懐からベレッタM92Fを取り出した。


 銃の先端に、サプレッサーを装着する。


 彼らは月詠班に所属する、実行要員兼監視要員である。


 元は、兵庫県警察本部刑事部暴力団対策課、又は空き巣や、ひったくり犯等の窃盗を専門に捜査する捜査課に、所属していた警察官である。


 ただし、3人のうちの1人は、兵庫県警察本部警備部機動隊銃器対策部隊狙撃班に所属している警察官だ。


「では、行け!」


 3人が、ボックスカーから出る。


 ターゲットの家に近付くと、1人が2人に支援されながら、柵を飛び越える。


 門柱に設置されている、防犯カメラのケーブルを切る。


 防犯カメラが作動しなくなったと同時に、門柱から2人の男が侵入する。


 1人の元警察官が、人の気配を察知する。


「まったく・・・買い替えたばかりだというのに、すぐに壊れやがって・・・」


 玄関から、若い男が出てくる。


 どうやら、防犯カメラの様子を見に来たようだ。


「こんばんは」


「?」


 若い男が振り返ると、班員の1人が、眉間に銃弾を撃ち込む。


 彼は、地面に倒れる。


 班員は、倒れた男の心臓部に向けて、ベレッタの引き金を引く。


 サプレッサーを装着しているため、銃声は最低限に抑えられる。


 そのまま3人は、家の中に侵入する。


 家の中には、3人しかいない事は、事前の調査で把握済みだ。


 班員の中に建築関係の資格を有し、建築業に身を置いていた者がいたため、家の間取りは把握済みである。


 その時、トイレから水が流れる音がした。


 3人は、身を隠す。


 1人の男が、トイレから出る。


 班員は、ベレッタを片手で構える。


「こんばんは」


「?」


 驚いた男の顔面に向けて、ベレッタの引き金を引く。


 弾丸が発射され、弾丸が眉間に命中する。


 男は、床に倒れる。


 ベレッタを構えたまま、班員は倒れた男の側に近付く。


 照準を心臓部に向け、引き金を1回引く。


 班員は、手で合図を送る。


 手下2人を、片付ける事が出来た。


 残りは、この半グレ集団のリーダーのみだ。


 リーダーは、すぐに見つける事が出来た。


 リーダーの男は、リビングでテレビを見ていた。


「はい、今回の収穫は男児が3人で、女児が2人です。とりあえず、言う事を聞かせるために脅しています。数日後には、そちらに送れると思います」


 どうやら電話中のようだ。


 班員の1人が、ベレッタを懐にしまった。


 そのままテーザー銃を、取り出した。


「大丈夫ですって、警察はバカだから、それぞれの場所で誘拐を行ったのに、別々の事件として行方不明扱いですから・・・・では」


 リーダーが、電話を切った。


 リーダーが、スマホをテーブルに置いた瞬間、テーザー銃を発射した。


 針がリーダーの首元に命中し、そのまま電流が流れる。


「!!?」


 リーダーは電流のショックで、動けなくなった。


 2人が駆け寄り、リーダーを、拘束する。





「起きろ!」


 半グレ集団のリーダーの顔に、水がぶっかけられた。


「ぷはぁ!?」


「目が覚めたか?まだ・・・か。だが、すぐに覚める!」


 目出し帽を被った人物が、リーダーの顔を殴る。


「ぐはっ!?」


「どうだ?・・・もう1発か?では、お望み通り!」


 目出し帽の人物が、リーダーの顔を殴る。


「あんた、何者だ?対立勢力か?だったら、俺の仲間が黙っていないぞ!!」


 この後に及んで、リーダーは威勢の良い台詞を吐く。


「そうか。それは楽しみだ。だが・・・残念だ。お前の仲間は、お前を狙うぞ」


「はぁ!?何を言っている!?」


「テレビを、見せてやろう」


 目出し帽を被った人物が、テレビの電源を入れる。





「深夜に発生した半グレ団体のリーダー宅での強盗殺人事件について、新たな情報です。同居人を殺害したのは、半グレ団体のリーダーである事が判明しました。リーダーは、強盗殺人事件に見せるために、配下の者を2人殺害し、自分は組織が持っている資金を持ち逃げした模様です。警察が付近の防犯カメラを調べたところ、鞄を持ったリーダーらしき人物の姿が映っていました」





 事件現場として規制線が張られた、住宅前で、レポーターが説明している。


 目出し帽を被った人物が、テレビの電源を切る。


「そんな、バカな!?」


「どうだ?これでもお前の仲間が、お前を助けに来るか?」


 淡々とした抑揚のない口調が、恐怖に拍車をかける。


「・・・あんたら、警察か?こんな事をして、ただで済むと思っているのか?」


「俺が警察に見えるか!?」


 目出し帽を被った人物が、リーダーの顔を殴る。


「な・・・何が、望みだ?」


「誘拐した子供たちは、どこにいる?」


「・・・・・・」


「そうか。すぐに話したくなる」


 目出し帽を被った人物が、ナイフを取り出す。

 ナイフというよりは、手術で使うメスと言った方がいいだろう。


「ひっ!?」


 リーダーが、怯えた表情を浮かべた。


「黙ってくれていたら、俺は楽しい。お前を痛めつける事が出来るからな・・・俺の趣味は、人間の解体だ。太い血管や、重要な神経を避けて、ゆっくり・・・ゆっくりと、肉を削ぎ落していくんだ。まずは、足からだな・・・自分の足の骨なんて、そうそう拝めるものじゃないぞ・・・」


 ナイフもとい、メスがゆっくりと太腿に近付いてくる。


 リーダーの顔が、恐怖で歪んだ。


「わかった!話す!話す!」


「ちっ!せっかく、人間の活け造りを楽しめると思ったのに・・・」


 本当に残念そうに、目出し帽を被った男はつぶやいた。





「簡単に、落ちましたな・・・」


「元から、肝が備わった男じゃない」


 拷問室を見渡せる部屋で、月詠が、責任者の言葉に答える。


 ここは、彼らが使う秘密収容施設である。


 表向きは民間の施設の作業所であるが、地下施設は、彼らが使う秘密収容施設である。


 容疑者の拷問、取調、監禁等を行う。


 この秘密収容施設に務めるのは、法務省矯正管区に所属する元刑務官、又は派遣された現役の刑務官、それと元暴力団組員たちである。


「さて、必要な情報を聞き出した。後は子供たちを救出するだけだ」


「間に合いますかね?」


「間に合うさ」


 所長の言葉に、月詠が答える。


「それで・・・奴の処遇は、どうしますか?」


「殺す価値も無い男だ。調べたところ、奴は違法薬物の常習者だそうだ。実際、警察の現場検証でも、自宅には様々な違法薬物が隠されていたのが発見されている。潜伏先の隠れ家で、違法薬物を大量摂取し、重度の麻薬中毒になった・・・という事にでもすればいい。情報が洩れる心配が無い。それに、匿名の電話で、半グレ集団の残党には、奴の潜伏先を教えている。連中の仲間が、裏切り者を始末するだろう・・・」


「わかりました。医務官に伝えておきます」


 拷問室で、拷問を行っていた拷問官が部屋に入った。


「情報です」


「すまない」


 月詠は、メモ用紙を見る。


 場所を確認した後、スマホを取り出す。


「俺だ。状況開始だ。今から送る場所に行ってくれ」

 第3章をお読みいただきありがとうございました。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は4月22日を予定しています。

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