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桜花 ~社会秩序庁の事件簿~  作者: 高井高雄
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第2章 幼女誘拐事件 2

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 香川県警察本部高松北警察署。





 署長室。


 署長室には、署長の警視と地域第1課長、地域第2課長、刑事第1課長の課長クラス(警部)たちが、顔を揃えていた。


「桜花が、動く事になった」


 署長の言葉に、課長クラスたちが顔を上げる。


「何か公安事案が、あるのですか?」


 刑事第1課長の言葉に、署長は首を振った。


「いや、我々の管轄で発生した、女児行方不明事件の捜査だ」


「・・・・・・」


 刑事第1課長が、言葉を失った。


「最近は、桜花でも、そのような小さな事件に介入するようになったのですか?」


 地域第1課長が、驚きながら問い質す。


「いや、班長の気紛れ・・・だという事だ。県警本部からは、そのように聞いている」


 署長の言葉に、3人の課長クラスたちは、顔を見合わせた。


「県警本部からの報告では、行方不明と誘拐と両方の事件性を考えて、捜査をするようだ」


「行方不明になっている女児は、どこにでもいる普通の子供ですよ。県議会議員や市議会議員の有力議員の血縁関係者なら、桜花が動くのも理解できますが・・・年に1000回以上発生する児童行方不明程度の事案に、介入する理由がわかりません」


 女児行方不明事件の捜索責任者である、地域第1課長が、つぶやいた。


「そうです。生物が息をするのと同じです。ごく当たり前の単なる事件に、わざわざ介入する意図が、わかりかねます」


 誘拐事件として捜査している、刑事第1課長も同意見のようだ。


「それに関しては、何も言ってこなかった」


 署長は、事務員が持って来た緑茶を飲んだ。


「生きている場合でも死んでいる場合でも、こちらの手柄として上に報告するそうだ。桜花からは、こちらに迷惑はかけない・・・だ、そうだ」


 署長の言葉に、地域第1課長が口を開く。


「なるほど。我々は、何もしなくても手柄が手に入る・・・という訳ですか」


「私は、今年で定年を迎える。是非とも警察勤務最後の年は、女児が生きて発見される事を、望む」


 署長の言葉に、課長クラスたちは、納得した表情で頷いた。


 署長以外の課長たちは、ノンキャリア出身の警部たちである。


 40代、50代の年齢だ。


「で・・・彼らの身分は、どのようになるのですか?」


「県警本部から派遣された、応援の警察官という事になる」


「まあ、そうなるでしょうな・・・」


 署長は、地域第1課長に顔を向けた。


「それで、女児行方不明事件だが、今のところ進展は?」


「はい、交番勤務、駐在所勤務の警察官を増やして捜索を行っておりますが、何の手掛かりも見つける事が出来ていません」


「他の課から、応援を呼ぶ気は?」


「それも、視野に入れています」


「刑事第1課長の意見は?」


「公園周囲の防犯カメラ映像や、当時、公園周辺を走行、若しくは駐停車していた車のドライブレコーダーの映像を解析していますが、不審者はおろか、女児の姿すら発見出来ていません」


「単なる行方不明事件、若しくは誘拐事件だったらいいのだが・・・な」


 署長は、緑茶を眺めた。


 香川県は、比較的に治安が良く、凶悪な事件は少ない。


 だが、彼らが捜査に参加すると聞いて、今まで疑いすら持っていなかった安全神話に、不安を感じざるを得ない。


「署長として、彼らが収集した情報は、我々に提供するように、要請しよう」


 署長の言葉に、刑事第1課長が進言した。


「要請では無く、条件にした方が、よろしいのではありませんか?」


「・・・確かに」


「そうですね」


 刑事第1課長の言葉に、他の課長2人も頷いた。


「よし、情報の提供は、こちらもするが、桜花が収集した情報も、こちらに提供するよう条件を加えよう」


 そこで話がまとまった。





 香川県警察本部庁舎。


 本部長の遠井積夫(とおいつみお)警視長が、本部長室の執務机の前で、提出された報告書に目を通していた。


 中国四国管区警察局四国警察支局警備・公安事案調整室・室長の川本美由紀警視が、彼の前に立っている。


「ふむ」


 報告書に目を通し終えて、遠井が顎を撫でた。


「しかし、単なる行方不明事件若しくは誘拐事件のために、警察の機密を漏らすのは感心しないぞ」


「ええ。わかっていますわ。しかし、彼らの能力を特定の事件や事案のみに使うのは、勿体ないと思いますわ。すでに、政府や防衛省は、諜報、工作活動以外にも彼らを投入しています。警察だけが出遅れるのは、どうかと思いますが・・・」


「むむむ・・・」


 遠井は、難しい表情を浮かべた。


「だが、テロや殺人事件等の重大事件ならともかく、この程度の事件で、彼らを使ったら、もしも国民にバレでもしたら、警察の威信に関わるだけでは無く、税金の無駄使いだと騒がれるぞ」


 刑事部長の、小槌(こづち)(しん)司郎(じろう)警視正が苦言を漏らす。


「そもそも論として、彼らの存在自体が国民に極秘では?」


「ぐむむむむ~・・・」


「それと、これも立派な事件ですわ。刑事部長殿は、年間何人の人が、行方不明になっていると思いますか?」


「1万人程度だろう」


「そうです。近年、子供の行方不明事件は、増加しております。そして、メディア等を通じて国民の知るところです。まあ、死体で発見されるケースが多いですが、子を持つ母親としては、他人事では無い事件ですわ」


「君は、独身だろう」


 遠井が、突っ込む。


「かわいい甥っ子や姪っ子が、います」


「・・・・・・」


 遠井は、ため息をつく。


「まあ、国家公安委員会や警察庁からは、桜花が、他の事件にも介入出来るよう調整するようにと、指示を受けているが・・・」


「ですが、本部長。問題なのは、一般警察官に、桜花の存在が確認された事です」


「彼女に付いての、問題は?」


 警務部長の(かみ)(ざい)英雄(ひでお)警視正の危惧について、小槌が答えた。


「警察学校の成績は上位で、研修期間中の成績も優秀です。刑事としては日が浅いですが、思想、行動に付いて、警察官としては問題無いと報告を受けています」


 小槌の言葉に、遠井は竹本恵巡査について記載されている身上書を手に取った。


「今回の事件では、あくまでも見学ですが、これからの事を考えますと、彼女を彼に預けてもいいと思いますわ」


 川本の言葉に、神財が口を開いた。


「桜花への出向の場合は、巡査部長を持って充てるのでは無いか?」


「そんな規則、ありましたっけ?」


 川本が、惚けるようにシレッと言う。


「確かに無いが、基本的には准キャリアである巡査部長以上の警察官を出向させている。ノンキャリアの巡査を派遣した例は、他の都道府県の警察本部でも無い」


「例が無いだけですわ。前例が無いのなら、作ればよろしいのです」


「・・・・・・」


 川本の言葉に、神財は言葉を失った。


「わかった。彼女を出向させる。警務部長、手続きを、お願いする」


「わかりました」


「だが、彼女と面談してから、詳細は考えるようにしよう」


「わかりました。すぐに呼んできます」


 小槌が、内線電話の受話器を取ろうとした時・・・


「すでに控室で、待たせておりますわ」


「は?」


 川本の言葉に、遠井は声を上げた。


「いつでも呼び出せるように、控室で待機してもらっています」


「・・・準備のいい事だ・・・」


 小槌が、皮肉交じりにつぶやく。


「では、入ってもらいます」


 小槌が、控室に向かう。





 バスが停留所に停車したので、竹本は座席から立った。


 支払いを済ませて、バスから降りる。


「ありがとうございました」


 バスの運転手がそう言うと、バスの扉が閉まった。


 香川県警警察本部管理下の女性独身寮からバスに乗り、約30分間走行した。


「ここは、交通には便利ね」


 竹本は、つぶやき、歩き出した。


 数日前に訪れた月詠宅を、再び訪問するためである。


「あっ」


 門柱前の花壇に、水やりをしているスキンヘッドの中年男を見つけた。


「え~と、確か・・・」


 彼の名前を、思い出す。


「あっ!金森さん!」


 名前を呼ばれて、金森は振り返った。


「香川県警の婦警さん。待っていましたよ」


 強面の顔には似合わない笑みを浮かべて、応対した。


「竹本恵です」


金森(かねもり)(しょう)()です。改めて、よろしくお願いします」


 金森が、頭を下げた。


「こ・・・こちらこそ、よろしくお願いします」


 竹本も、頭を下げる。


「お待ちしていました。竹本さん」


 褐色の肌の少女が、現れる。


「真人から、案内を任されましたので、私について来て下さい」


「あ、はい。よろしくお願いします」


「私は、パリザタと申します」


「あっ、はい、竹本恵です」


「知っています。では、こちらへ」


「・・・・・・」


 なんだか、気まずい感じがする。


 パリザタの後に付いて、月詠宅の玄関に入る。


 玄関に立哨している機動隊の警察官は、前に会った人物とは違う者が立っていた。


「こちらの書類に、サインを」


 前に会った事がある警備責任者の機動隊員が、出迎えた。


「竹本恵です。よろしくお願いします」


「香川県警機動隊の神原(かみばら)雅樹(まさき)巡査部長。ここの警備責任者兼分隊長を務めている」


 竹本が、書類にサインをする。


「まず、竹本さんの部屋に案内します。佐藤さんは知っていますね。彼女と相部屋になります」


「はい」


 パリザタは、2階に続く階段に上がった。


「こちらが部屋になります」


 パリザタが、ドアを開けた。


「佐藤さんは、真人と共に外に出ています。彼女に話していますから、荷物は、その辺に置いといてください」


 竹本が、荷物を置く。


 2人が暮らす部屋としては、広い感じがする。


「テレビ、ブルーレイプレイヤー、冷蔵庫、エアコンは、備え付けです。衣類を入れるクローゼットも設置していますので、ご自由にお使いください」


「はい」


 その後、2階の説明が行われた。


 2階は、主に寝室であり、トイレとシャワー室が完備されていた。


 続いて3階に移動した。


「こちらには、会議室、資料室、多目的室、予備室が置かれています」


「へぇ~・・・」


 ここって、家ですよね?と、竹本は心中でつぶやいた。


 そのまま1階に戻った。


 1階には、警備室、娯楽室、食堂、調理室、大浴場が置かれている。


 そして、娯楽室の隣には月詠の部屋がある。


 娯楽室には、大型テレビが設置されているだけでは無く、ブルーレイレコーダー、いろんなジャンルのDVDやブルーレイが置かれていた。


 さらに、漫画や小説も完備され、アニメフィギュア等が置かれている。


 それと、猫や犬の居住施設も併設されている。


「まるで、アニメカフェ、漫画喫茶、ドックカフェ、キャットカフェが合体しているみたいですね・・・」


「そうですね。ここでは軽食や、コーヒー、紅茶も楽しめます」


「カフェだ!」


「では、地下室に移動しましょう」


 次は地下室に、案内された。


 地下室には、武器庫、道場、射撃場が置かれていた。


「本当に家?」


「家です」


 次に案内されたのは別館であった。


「ここには、診療室、手術室等の医療設備と医療関係者の居住区等があります」


「警察署よりも設備がいい!?」





 月詠が家に戻ると、後部座席に積んだ各種捜査資料が入った段ボールを抱えた。


 随行員として月詠に同行していた佐藤も、同じ様に捜査資料が入った段ボールを抱える。


「戻ったぞ」


「お帰りなさい」


 神原が、出迎えた。


「お帰りなさいませ。真人さん」


 ミキが、出迎えた。


「パリザタは?」


「はい!今は竹本さんを、案内しています」


「そうか」


 月詠は、そのまま3階にある資料室に移動した。


 ミキも同行する。


「さて、この捜査資料を仕分けする」


「はい!わかりました!」


「了解しました」


 段ボールを開封し、捜査資料を取り出す。


 高松市にある公園周辺の防犯カメラ映像と、捜査員たちが聞き込みした情報等が記載された書類を、1つ1つ丁寧に仕分けした。


 女児行方不明事件ではあるが、誘拐の可能性もあるため、高松北警察署刑事第1課が作成した捜査資料は膨大だ。


 ブー、ブー、ブー・・・


 月詠のスマホから、着信音がした。


「もしもし」


 公務用のスマホであるため、部下からの電話以外ない。


「もしもし、桑島です」


「何か関連情報は、わかったか?」


「はい、その説明に付いては、阿坂が説明します」


「班長。女児行方不明事件の件ですが、関連情報を入手しました」


 女性の声がする。


 公務用のスマホは、一度に5人と電話通話をする事が出来る。


「県警本部並びに他の所轄警察署に問い合わせたところ、同様の行方不明事件が香川県だけで、3件発生しています。行方不明になる手順もまったく同じです。防犯カメラ等を解析しても、不審者情報は、まったくありません」


「ふむ」


「所轄の警察署から、捜査資料を取り寄せました。明日にでも、そちらに持って行きます」


「わかった」


「班長」


 桑島の声がする。


「念のために、県外でも同じ事案が無いか確認したところ、四国各地で同様の行方不明事件が発生しています。手口も手順も、まったく同じです」


「なるほど」


「班長」


 阿坂だ。


「不確定要素ですが、これは誘拐の可能性があります」


「だろうな。それも組織犯罪だ」


「これは他の班にも、協力を要請した方が、いいでしょう」


 桑島だ。


「その件に付いては四国局に連絡している。直に他の班からも情報が、貰えるだろう」


「それでは班長」


 阿坂が、話す。


「誘拐事件として断定し、確固たる証拠を入手します」


「必要とあらば、暴力団及び半グレ集団からも、情報を入手しろ」


「了解しました」


 そこで電話は切れた。


「さて、序章の始まりだな・・・」


 月詠が、つぶやく。


「班長」


「真人さん」


「書類の仕分け、完了しました!」


 ミキが、元気よく報告する。


「ありがとう」


 月詠が、ミキの頭を撫でる。


 ミキは、嬉しそうに目を細める。


「佐藤」


「はい」


「これは誘拐事件の可能性が高まった。詳細が定まったら、県警本部に報告書を送る」


「わかりました」


「ミキ。君たちの力を借りるだろうから、皆に準備を命じてくれ」


「はい!わかりました!」


 ミキは、挙手の敬礼をする。


 月詠は、時計を見る。


「うん。そろそろ昼飯の準備だ。下に行くぞ」


「はい!」


「わかりました!」


 食事も、重要な任務の1つである。

 第2章をお読みいただきありがとうございました。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は4月15日を予定しています。

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