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桜花 ~社会秩序庁の事件簿~  作者: 高井高雄
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番外編 3

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 月詠邸から歩いて10分程の距離にある、コンビニエンスストア。


 一見、どこにでもあるコンビニなのだが、色々と、おかしい所がある。





「お疲れ様で~す!オーナーは、いらっしゃいますか~!?」


 宅配業者が、コンビニ預かりの荷物を届けに来た。


「はいはーい!いつも、ありがとうございま~す!」


 コンビニを利用する客相手の宅配を、代理で預かる事もあるが、大抵の荷物は従業員でも預かれるのだが、とある宅配業者が運んでくる荷物だけは、オーナー兼店長が直接預かる事になっている。


「サインを、お願いします」


「了解です」


 携帯用の電子端末に、受け取りのサインをした後、オーナー兼店長は別の端末で、指紋認証と網膜認証を受ける。


 そこまで徹底され、その預かった荷物は事務所内のオーナー専用の倉庫で管理され、その倉庫の解錠にはオーナーのみが知っているパスワードと、オーナーと、その荷物を取りに来た客が所有する電子キーを使用しないと開けられないという、とんでもないセキュリティ態勢が取られている。


 しかも、オーナーの専用パスワードは、不定期に変更されているらしい。


 何とも意味不明で、おかしな話である。





「ありがとうございました~!また、お越しくださいませ~!」


 深夜。


 客を見送った後、このコンビニで働く二見(ふたみ)(こう)()は、店内に誰もいないのを確認してから、大きく伸びをした。


「あぁ~・・・今日も暇だなぁ~・・・」


 まあ、ここは市内とはいえ、街中と言われる地区から見れば、郊外・・・身も蓋もない言い方をすれば・・・田舎に、分類される。


 交通の便は、あまり良くなく、路線バスが朝の通勤通学時間と夕方の帰宅時間を除けば、1時間に2本程度・・・しかも、その内の1本は、ここから2つほど手前の停留所で、別のコースへ向かうという・・・実質、1時間に1本といっても過言ではない地域である。


 だから近隣の住宅地に住む人々は、ほとんど深夜には、余程の急な用でもない限り来店する事は無い。


しかし、「暇」という程、深夜バイトは暇では無い。


 店内、駐車場の清掃、ファーストフードのフライヤー、保温庫の清掃、セルフコーヒーマシーンの清掃、深夜便の商品の陳列とバックヤードへの搬入と整理、店内の商品の補充、雑誌コーナーの雑誌の撤去と整理、備品の補充、商品の賞味期限チェック等々。


 客がいない分、自分のペースで出来るとはいえ、結構やる事はある。


「休憩、お先でした~」


 同じ時間帯にシフトに入っている、もう1人のバイトが戻って来た。


「あぁ」


 素っ気ない返事をして、二見は交代で休憩に入る。


 事務所で、制服を脱ぎ煙草を吸うため、店外に設置されている灰皿の所へ向かう。


 煌々と光を放つコンビニの灯を除けば、街灯もあまりない周囲は、行きかう車もほとんど無く、道路を含めて闇に包まれている。


「・・・こんな時間に、休憩ってもなぁ~・・・」


 煙草の煙を吐き出しながら、ぼやく。


 深夜バイトは、時給が良いとはいえ、休憩時間は暇を持て余すのが難点である。


 いつもと変わらないというのは、些か退屈だ。


「・・・強盗事件なんて、起こらないかな~・・・」


 物騒な事を、つぶやく。


 以前勤めていたコンビニは、繁華街に近かったため、酔客とのトラブルは日常茶飯事だった。


 それで辟易して、長閑な郊外のコンビニに就職したのだが、長閑すぎるというのも、考えものである。





「?」


 二見が違和感を覚えたのは、何度目かの煙草休憩で店外に出た時だった。


 時刻は、午前4時過ぎ。


 梅雨入り前の初夏の空が、白み始めた頃だ。


 そんなに寒くも無いのに、黒のパーカーを目深に被り、マスクで顔を隠した人物が店に、やって来た。


 早朝から仕事に向かうため、朝食を求めて来店する客は、少ないながら当然いるが、その人物は、そんな客たちとは異質な雰囲気があった。


「・・・・・・」


 嫌な予感に、点けたばかりの煙草の火を消し、店内に戻る。


「吉川さん。ちょっと悪いけれど、121番の煙草のカートンを事務所から取って来て」


「え・・・?いいけど・・・」


 急に、そんな事を言う二見に、吉川と呼ばれた女の子は、不思議そうな表情を浮かべながらも、事務所に向かった。


 レジに立っている、女の子を事務所に避難させるのは、男としての矜持だ。


 この違和感が、正しければ・・・


「ちっ!」


 パンコーナーでパンを眺めていた黒パーカーは、あからさまな舌打ちをした。


 そのまま、ズンズンとレジに立っている二見に向かってくる。


(ひぃぃぃぃ・・・!やっぱり・・・!?)


 嫌な予感は、的中したようだ。


 やせ型で、身長も普通くらいしかない二見は、心底で怯えていた。


「おい・・・兄ちゃん」


 カウンターを挟んだ真向いで、黒パーカーは凄んだ声を出し、ポケットから何かを取り出そうとする。


 二見は、足がガクガクと震え、立っていられたくなりそうだった。


「いらっしゃいませ!!!」


 その時。


 店内が揺れる程の大音声で、事務所からは身長190センチ、体重は100キロを超えるだろうと思われる巨漢が、ヌッと事務所から現れた。


「て・・・店長・・・?」


「ヒッ!?」


 黒パーカーは、口から小さな悲鳴を上げると、逃げ出した。


「・・・?何だ?」


 ポカンとした顔で、黒パーカーの後ろ姿を見送ったオーナー兼店長は、二見に顔を向ける。


「は・・・はは・・・」


 苦い笑みを浮かべて、二見は二度と物騒な事は考えまいと誓った。

 番外編3をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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