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桜花 ~社会秩序庁の事件簿~  作者: 高井高雄
13/14

第10章 看護師連続殺人事件 3

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 高松市某地域(高松東警察署管轄区)。


「ここだな」


 辺りが暗くなった夜・・・


 森井は、現れた。


 幼馴染の警察官に聞いた場所に到着すると、目的を叶えるために行動した。


 看護師を、殺害するためにだ。


 辺りを散策していると、目的の看護師が現れた。


 間違いない。


 情報通りだ。


 森井は、看護師の後をつける。


 ゆっくりと速度を上げながら、看護師との距離をつめる。


「おい!」


 その時、背後から声をかけられた。


「ちっ」


 森井は、舌打ちした。


 目標にしていた看護師が、驚いた顔をしながら、振り返る。


 森井が振り返ると、そこにいたのは警察官の勤務服を着た谷村だった。


「あっ!谷村さん」


 看護師が、口を開く。


「ここで何をしている。猛?」


「・・・・・・・」


 森井は、何も答えない。


「お前の家は、ここから、かなりあるぞ。こんな所で何をしているんだ?」


「・・・・・・」


 谷村の質問に、森井は何も答えない。


「まさか、最近発生している看護師連続殺人事件の犯人は、お前なのか?」


「ちっ!」


 森井は、大きな舌打ちした。


 次の瞬間、懐に隠していた包丁を取り出し、谷村に襲い掛かった。


 谷村は警察官として30年以上の勤務であるため、咄嗟に行動する。


 しかし森井は、自分を取り押さえようとする谷村の行動を躱し、包丁を首に刺す。


「がはっ!?」


 森井は、元陸上自衛隊のレンジャー隊員であったため、50代の男性警察官の行動を制止し、致命傷を与えるのは簡単だ。


 谷村は、血を流しながら、地面に倒れる。


「あ・・・あ・・・」


 看護師は何が起きたのか理解出来ず、ただ、その場に立っていた。


「次は、お前だ」


「ひっ!!?」


 看護師は、地面に尻餅をつく。


 森井は、血の付いた包丁を振り上げる。


 しかし・・・


 パン!パン!


 2発の銃声が響く。


 谷村が、発砲したのだ。


 彼は、薄れゆく意識の中で、何とか気力を振り絞り、ホルスターに収められているM360J[サクラ]を抜き、発砲したのだ。


 1発は外れたが、2発目が森井の肩に命中した。


「ぐはっ!?」


 弾丸が身体を貫く感覚と、後からやってくる猛烈な痛みに襲われた。


 看護師は、その隙をついて、走って逃げ出した。


「おのれ!」


 森井は振り返り、谷村の顔を包丁で刺した。


 谷村は、すでに虫の息だった。


 谷村を絶命させて、森井は、彼から回転式拳銃を奪った。


「逃がさないよ~・・・」


 森井は、逃げた看護師を追い駆けた。


 看護師は、アパートの自分の部屋に逃げ込んだ。


 しかし、アパートの場所と部屋も把握しているため森井は、正確に看護師の部屋のドアを破壊した。


「ひっ!!」


 看護師は、怯える。


「さあ、お休みの時間だ」


 森井は回転式拳銃を向け、看護師に向けて3発発砲する。


 2発は看護師の胸部に命中し、最後の1発は頭部に命中した。


 看護師は、絶命した。


 森井は回転式拳銃を捨て、その場を離れた。


 それから数分後、近隣住民からの通報を受けた警察官たちが、駆け付けた。


 警察官たちは、絶命した谷村の姿を見て、絶句した。


 その後、近くのアパートで、谷村の回転式拳銃と絶命した看護師の姿が発見された。


「何てこった・・・」


 警察官が、ようやく出せた声は、それだけだった。


「おい!緊急配備の要請だ!」


 別の警察官が、叫ぶ。


 すぐに緊急配備が発令され、高松東警察署の警察官たちは総動員態勢で、周辺に展開した。


 各地で検問を実施し、犯人を捜索した。


 県警本部からも応援が派遣され、周辺の捜索が行われた。





「やあ、月詠さん。ついに、無関係の人が殺害されたな」


「ああ、警察は躍起になっている」


 月詠と情報屋の男が、高松市街の路地裏で会話をしている。


「これで犠牲者は、5人だ」


「今後は無関係の人が、殺害されるだろうな・・・」


「そうだ。だからこそ、森井猛の居所を早急に発見し、身柄を確保しなればならない」


「奴の潜伏している居場所については、特定した。少し苦労したが・・・」


「お前にしては、珍しい」


「住所不定の浮浪者の居所を、特定するのは難しい・・・家を持っていたら、簡単に把握できるのだが、奴は実家を離れている状態だ」


「警察も、第1回目の殺人事件で、森井猛の指紋を検出している。弾数が空になったM360J[サクラ]に残っていた指紋から、森井猛を特定した。現在は、指名手配されている。だが、防犯カメラにも映らないんだ。簡単には、足取りを特定するのは難しいだろう」


「そうだな」


「それで、森井の居場所は?」


「ヤクザ崩れの連中が、屯している地域に潜んでいる。そこで、知り合ったヤクザ崩れの男たちと同居している」


「ヤクザ崩れ・・・か、また、厄介な場所にいるな」


「連中は、何でも売る。個人情報、薬物売買、銃の密売等・・・例を出したら、キリがない」


「暴力団や中華マフィア、半グレ集団でも近付かない場所だ。警察も監視をするだけで、滅多に近付かない」


「ああ。警察が近付けば、騒動になるからな。まあ、他の都道府県と比べれば、問題ないレベルの場所だ」


「だが、近付くには難しい地域だ。あの場所に警察の捜査員たちが近付けば、反社会団体等の情報を提供してくれている、協力者たちが、情報を提供してくれなくなる」


「お前たちにとっては、大したレベルでは無いが・・・警察としては、大問題だな・・・暴力団の裏情報や抗争情報等は、ヤクザ崩れの連中から入手する。連中からの信頼を失えば、それらの情報が入手し辛くなる・・・」


「ああ。だが、やるしかない。でなければ、犯罪を見過ごす事になる」


「じゃあ、後は任せるよ」


「わかった」


 月詠は懐から、分厚い封筒を取り出した。


「報酬だ。少し色をつけてある」


「そうか、では、ありがたく、その報酬を受け取るよ」


 情報屋の男は、分厚い封筒を懐に隠した。


 その後、情報屋の気配が消えた。


 月詠は、公務用のスマホを取り出した。


「月詠だ。看護師連続殺人事件捜査本部に、繋いでくれ」


 高松南警察署に、電話していた。


「お電話、代わりました。捜査本部です」


 受付の警察官が、応対した。


「池島警部は、いるか?」


「はい、居ます」


「代わってくれ」


「わかりました」


 すぐに、池島が出た。


「池島です」


「警部。森井猛の居場所を、突き止めました」


「そうですか・・・お早いですね」


「これが仕事ですから」


「それで場所は?」


 月詠は、森井猛が、市内にあるヤクザ崩れが集まる場所に潜伏していると、情報を話した。


「そこですか・・・」


 池島が、悩む声を上げた。


「その可能性もあると思って、機動隊の出動待機命令を出していたのですが、そこに捜査員を派遣するとなると・・・四国警察支局機動隊にも、応援部隊を派遣してもらうしか無いですね・・・ですが」


「連中は、ここ最近、大人しくしている。地元民もヤクザ崩れの居住地とは思っていない程です。迂闊に大部隊を展開すれば、大事になる可能性も有ります」


「しかし・・・」


 月詠の指摘に、池島は言葉を濁らせる。


 池島も、迂闊に機動隊を動かした場合の危険性を十分に理解しているのだろう。


「では、ここは私に任せてもらえませんか?」


 月詠は、自分の案を話した。





「ここだ」


 ワンボックスカーの後部座席に乗り込んでいた月詠が、つぶやく。


「ここが、ヤクザ崩れの方々が住んでいる地域なんですね」


 竹本が、窓から外を覗く。


「意外と普通ですね」


 佐藤も、つぶやく。


「香川では、こんなものだ。兵庫や広島、福岡では、こんなものでは無いがな・・・」


 運転手の桑島が、答える。


「どう違うんですか?」


「いかにも・・・と、そんな感じといった雰囲気を出している。その3県では、組織犯罪対策部や刑事部の警察官が、覆面パトカーに乗って常に監視をしている。それも、かなりの数がな・・・たまに、別の課から応援の警察官が派遣される事もある」


「ここでは、どのように・・・?」


「主に駐在警察官や交番勤務の警察官が、巡回しているだけだ。もちろん、他の場所の警邏活動と違って、頻繁に・・・な」


「でも、周辺の住宅街は、新築も多いですね」


「何も知らない連中は、土地代の安さに目がくらんで、家を建てる者が多い。よく見てみな。古家では、警備会社と契約している家が多いが、新築の家では少ない」


「そうですね」


「昔から住んでいる人たちは、ここは、ヤクザ崩れが住む地域と理解している。だから、防犯には、力を入れているのさ」


「事件が、多いんですか?」


「いや、ヤクザ崩れたちが、何かをする訳では無い。暴力団や半グレ集団等の連中が、嫌がらせをするんだ。主に、暴行、器物損壊、脅迫・・・悪ければ傷害事件にもなる。まあ、主に軽微な被害で留めている。そのため、警察が介入しても、罰金刑等の微罪処分に終わる場合もあるし、場所が場所だけに被害者から事情聴取をしただけで、まったく捜査しない場合があるんだ」


「どうしてですか?組織犯罪ですよ」


 竹本が、首を傾げる。


「そう、それだ。福岡の某市にある、某暴力団団体が指定されている特定危険指定暴力団であれば、彼らが行動するだけで、緊急逮捕や令状無しで捜査できるが、指定暴力団又は非指定暴力団の準構成員か、ただのもどきレベルによる軽微な犯罪では、あまり大事には出来ないんだ。大事にしてしまえば、機動隊が出動するレベルに達するだけでは無く、捜査員たちの数も確保しなればならない・・・まあ、日々の予算や人員は、限られている。すべての事件に、組織犯罪として介入出来ない事情があるんだ」


 月詠が、竹本に説明する。


「・・・・・・」


 竹本は、納得していないような顔をする。


「それに、迂闊な介入をすれば、連中を刺激する事になる。地元民を巻き込む抗争や、地方相手の戦争になる場合もある。それを避けるために、深く介入しないにしているんだ」


 月詠は、外を眺めながら、つぶやく。


「ですから、ここを包囲している警察官や機動隊員たちは、私服でラフな格好をしているんですね」


 佐藤が、口を開く。


「そうだ。ヤクザ崩れは、暴力団より厄介な連中で、殺人、強盗、傷害なんて、平気でする連中だ。それだけでは無く、薬物売買、銃の密売等の違法な商売も行う。しかし、警察への協力者も多い。彼らからの情報で、暴力団の対立情報や殺害計画等も把握する事が出来るから・・・な」


 月詠は、地図を取り出した。


 地図には、警察官の配置状況や月詠の部下たちが配置されている状況が、細かく記載されている。


「いいか、防弾・防刃チョッキを着ているな。犯人はナイフだけでは無く、拳銃を所持している可能性もある」





 しばらく待っていると・・・


「目標を発見」


 無線から、声が入る。


「了解。目標は5人の人間を殺害している。すでに、人を殺害する人間としての躊躇いは、存在しない。油断するな」


 月詠が、部下たちに注意する。





 森井は、幼馴染の谷村と看護師を殺害してから、落ち着かなくなった。


 人を殺したくて、堪らない。


 最初は、ターゲットにする看護師の情報を記載したメモ帳を眺めて心を落ち着かせていたが、まったく効果が無い。


 早く、誰かを殺したい。


 そんな感情が、心の奥深くから溢れて来た。


(そういや・・・何で俺は、看護師ばかりを狙っていたんだ・・・?)


 ふと、そんな事が思い浮かんだ。


 しかし、それが思い出せない。


 何か大切な事を思っていたようだが・・・まったく、思い出せない。


(まあ、いいや。誰かを殺したら、そんな事も忘れられる・・・)


 森井は、懐に隠した得物を確認する。


「すみません」


 森井に、声をかける者がいた。


「?」


 森井は、声がした方向に顔を向ける。


「森井猛さんですね」


 屈強な男たちが、森井を囲む。


(チャンス)


 森井は、唇を舐めた。


 懐からナイフを、取り出した。


「死ねぇぇぇ!!」


 森井は、ナイフを振り回す。


 しかし・・・


 それを予想していたのか、男の1人が森井のナイフを持つ手をしっかり握って、そのまま柔道の投げ技の要領で、地面に叩き付けた。


「ぐはぁ!?」


「抵抗するな!」


「大人しくしろ!」


 別の男たちが、ナイフを取り上げる。


 そのまま森井の手に、手錠がかけられた。


「銃刀法違反!殺人容疑で、逮捕する!」


 男が叫ぶ。





「容疑者を、確保!」


 無線から、報告が入る。


「了解。やはり、冷静さを欠いていたか?」


「はい、我々を見ても動じる事も無く、正気を失ったように襲い掛かってきました」


「気を付けろ。5人を殺害して、正気を失った殺人鬼は、常人を越えた力を発揮する。1人だけでは抑えられないぞ」


「はい、わかっています。2人がかりで抑えて連行しています。さらに2人が前と後ろに配置し、対処しています」


「わかった。ご苦労」


 月詠は、ヘッドフォン型の無線機を外した。


 そのままスマホを取り出し、看護師連続殺人事件捜査本部に連絡を入れる。


「状況終了」


 連絡を終えた月詠は、仕事を終わった事を告げた。





『3人の看護師と警察官1人を殺害した容疑者が確保されました。容疑者の名は、森井猛』


 夕方のニュースで、速報として伝えられた。


『森井猛は、20年前、心療内科・精神科の病院の看護師として勤務している妻が統合失調症の患者によって殺害され、その後、その患者が刑法39条適用により無罪となった事に不満を持ち、措置入院先の精神病院に侵入し、殺害しました。殺害後、警察に逮捕され、殺人容疑で起訴されました。しかし、刑法39条に反対する団体によって、刑を軽くするよう嘆願書が提出され、当時の裁判官は、情状酌量の余地があると判断し、懲役8年の刑に留めました。ですが、このような事件になり、当時の容疑者に同情的だった団体は、驚きを隠せていません』


 ニュース・キャスターの言葉に、感情が籠る。


『速報が入りました。当時の容疑者に同情的だった団体の1つが声明を出しました。内容は・・・「このような事件に発展し、大変、遺憾である。しかし、当時の私たちの判断は、間違っていない。このような結果になったのは刑法39条が存在するからです」という内容でした』





「何だか、自分たちは悪くないって言い訳みたいですね」


 月詠邸の娯楽室で、本を読んでいたミキが、ポツリとつぶやく。


「そうだな」


 キジトラ猫の美緒を膝に乗せてニュースを見ている月詠は、短く答えた。


「・・・何を読んでいるんだ?」


 話を変えるように、月詠はミキに尋ねる。


「・・・・・・」


 ミキは、無言で月詠に本の表紙を見せる。





 その本は、アレクサンドル・デュマ著『モンテ・クリスト伯』だった。

 第10章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿ですが、現在、執筆中の話が、実際に事件として起こったため、一時的に投稿を中止させていただきます。

 新たな話を構想中ですので、しばらくお待ちください。

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