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桜花 ~社会秩序庁の事件簿~  作者: 高井高雄
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第9章 看護師連続殺人事件 2

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 高松南警察署。


 看護師連続殺人事件捜査本部。


 月詠と竹本、佐藤の3人は、捜査本部が置かれている高松南警察署の駐車場に入った。


「お待ちしていました。月詠班長」


 刑事としては珍しく、月詠たちを煙たがらず、彼らを出迎えた若い刑事が一礼した。


「私は、香川県警察本部刑事部捜査1課殺人犯捜査2係長の、池島(いけしま)(かつ)(のり)警部です」


「月詠です」


「竹本です」


「佐藤です」


「貴方の話は聞いています。香川県知事の池島(いけしま)武夫(たけお)氏の、ご子息。国立大学法学部を卒業後、警察庁のキャリア組に採用された警察官。かなり優秀なのだそうですね」


「それほどの事では、ありませんよ」


 池島は、頬を掻く。


「では、こちらに・・・」


 池島が、月詠たちを席に案内する。


 席に着いてから、しばらくして、捜査会議が開かれた。


 捜査本部長が簡単な挨拶を行った後、池島が説明を開始した。


「先日発生した第1の犠牲者である看護師は、心療内科と精神科の専門クリニックで働く看護師であり、勤務年数は5年程。所轄の警察署刑事課の刑事たちによる関係者への聞き込みの結果、金銭トラブル及び恋愛トラブル、親族トラブルは、確認出来ていません。第2の犠牲者である看護師は、第1の犠牲者の看護師と同様、総合病院の精神科病棟で勤務する看護師で、勤務年数は2年。所轄の警察署刑事課の刑事たちによる関係者への聞き込みの結果、第1の犠牲者と同様、金銭トラブル、恋愛トラブル、親族トラブルは確認出来ません」


 池島が、次のページを開く。


「次に検死の結果ですが、両被害者の傷も同じ物であると判明し、傷の深さ及び傷のつき方等も、まったく同様のものです。そのため、同一犯である事が窺えます。傷の深さならびに傷の数から考えまして、犯人は強い殺意と恨みがあったと思われます」


 池島が説明を終えると、捜査本部長が立ち上がった。


「今回の事件は、極めて凶悪な殺人事件であり、県民の安心、安全の為に一刻も早く犯人を検挙しなければならない」


 捜査本部長がそう言うと、所轄の警察署刑事課から派遣されている刑事たちが、自分たちが所有している情報を提供した。


 どちらの事件も防犯カメラによる映像も無く、付近に設置されている防犯カメラには不審な人物の姿も確認する事が出来ない。


 それどころか、住宅街に設置されている防犯カメラにも、不審な人物及び犯人らしい人物が映っていない。


 このため、犯人は防犯カメラの設置やセキュリティ態勢等を、熟知していると判断される。


 そのため、犯人の候補として、警備会社関係者又は警察関係者が犯人であると予想が立てられた。


 しかし、第1被害者及び第2被害者は、まったく面識なく、共通の関係も存在しない。


 このため、本当に連続殺人事件なのか、どうかも怪しまれている状況だった。


 唯一、共通しているのは心療内科と精神科の看護師であるという事だけである。


「・・・・・・」


 月詠は黙って、捜査会議の話を聞いていた。


 基本的に社会秩序庁の職員は、質問されない限り、何も答えないのが鉄則である。


 捜査資料のみを受け取り、警察関係者の話を聞くだけである。


「状況的に見ましても、さらなる殺人事件が発生する可能性が高く、生活安全部地域課及び所轄の警察署地域課には警察官による警邏活動を強化するように、要請しました」


 最後に、そう締めくくられて、捜査会議は終了した。





 高松南警察署を出た月詠は、車に乗り込んだ。


 助手席には佐藤、後部座席には竹本が座った。


「月詠班長」


 エンジンを始動した月詠を、呼び止める声がした。


 池島だ。


 月詠は、窓を開けた。


「何ですか?」


「犯人に、目星がありますか?」


 単刀直入に、池島が聞いた。


「あるには、あります」


「教えてもらえませんか?」


「一連の殺人事件は、恐らく心療内科と精神科病院で勤務する看護師を狙っています。刃物による傷の具合から、強い恨みを持っています」


「それは・・・警察の方でも、把握済みですが・・・?」


「刃物による傷の具合から、犯人は相当、刃物の扱い方を熟知しています」


「では、暴力団や準暴力団等に所属している者の、犯行だと?」


「いや、彼らは見よう見まねで刃物の使い方を学んでいるだけです。一連の事件の犯人は、刃物の使い方、気配の隠し方に精通し、それを熟知した者・・・」


「と、言いますと・・・?」


「軍関係、若しくは自衛隊に所属している・・・若しくは、していた者です。それも高度な特殊訓練を受けた・・・」


「な、なるほど・・・!すぐに、捜査本部で、調べてみます!」


 池島が、署内に戻る。


 その時、月詠のスマホが鳴った。


「もしもし」


「桑島です」


「調べられたか?」


「はい、防衛省陸上幕僚監部に出向いた阿坂から、説明があります」


「退職自衛官で、レンジャー資格を有する隊員は、数多くいましたが、班長の言っていた人物に該当する者が、1人いました」


「その人物の、名と経歴は?」


「森井猛。元陸上自衛隊東部方面隊第1師団第1普通科連隊所属の3等陸曹・・・レンジャー資格を有し、部隊内での接近戦やナイフ戦の成績は優秀です。都内の合コンで、1人の女性に一目惚れし、結婚。その女性は、心療内科・精神科の個人経営の病院で看護師として勤務していました」


 その後、阿坂から詳しい情報を聞いた。


 森井は結婚後、自衛隊を退職し、予備自衛官として自衛隊に籍を置き、都内の大手警備会社のセキュリティ部門で、警備の仕事をしていた。


 そして、事件が起きた。


 統合失調症の患者に妻が殺害され、患者は殺人容疑で、逮捕、起訴された。


 しかし、刑法39条の適用により、被告人は無罪。都内の精神病院に措置入院する。


 森井は、あらゆる手段で情報を集め、妻を殺した男を探し出し、居場所を突き止めた。


 その後、男を殺害し、刑務所に服役する。


「仮釈放後は、両親が身元引受人となり、実家のある香川県に戻りました」


「わかった、阿坂。報告、ご苦労。俺の予想が正しければ、今後も看護師を狙った殺人事件は続く。柿澤会に連絡して、構成員及び準構成員をフルに使って、周辺警戒を呼び掛けてくれ・・・だが、心療内科・精神科病院に勤務する看護師の数は多い。全体をカバーするのは難しいだろう」


「警察に連絡して、森井猛を重要参考人として、任意同行をさせては、多少は効果があるかと・・・?」


「いや、逆に森井猛を追い詰める可能性がある。警察には情報を提供するが、森井の居場所を特定するのにも時間がかかるだろう」


「わかりました。森井の居場所を早急に突き留めます」


「ああ、頼む」


「裏付けは、どうしますか?」


「それは、俺がやる。情報屋から情報を聞き出す。恐らく、看護師の素性を知るために、情報屋を使ったはずだ」





 高松市街の人気の無い路地。


「やあ、月詠さん。看護師連続殺人事件の件か?」


 1人の男が、月詠に声をかける。


 一見すると、どこにでもいるサラリーマンといった風情の、40代手前に見える男だ。


「ああ。情報を頼む」


「その件については、すでに把握済みだ」


 男は、煙草休憩という感じで、煙草に火を点ける。


「数年前から、俺たちのような人間に、頻繁に接触する男がいた。その男の名は・・・」


「森井猛」


「そうだ。知っていたのか・・・?」


「ある程度には・・・な」


「その森井猛は、心療内科・精神科の病院で、勤務する看護師の情報を欲しがっていた。生活保護を受けているから、報酬は、きちんと支払いできる。主に20代の看護師の情報をメインに仕入れていた。最近は、公務員も病院の人事を担当する者も、金遣いが荒いため、すぐに金欠になるらしい・・・」


「個人情報保護と言っているが、県の職員や市の職員、人事関係の事務をする者たちは、常に金に飢えている。金のためなら、個人情報の1つや2つくらいは、裏社会の人間に情報を提供するさ」


「ああ。そのために特殊詐欺を行う詐欺師たちにとっては、とてもいい顧客だ。成功すれば莫大な金が入る。報酬もでかい」


「さすがの警察も、そこまでは手を出せない」


「ああ、情報に携わる者は地獄耳だからな。警察関係者が世間に隠している不祥事を、世間に公表されたくない。だから、警察は、俺たちみたいな者を検挙出来ない」


「それに、証拠も無い」


「その通り!」


「・・・話が、逸れたな」


「そうだな。森井猛に情報提供した人間は、珍しい客だからと言って、ほいほいと情報を格安で提供した。20代の女性と言えば、婚活、仕事への悩み等で、稼ぐには十分過ぎるカモだ」


「宗教勧誘もあるからな」


「ああ」


「それで、森井猛が香川に戻ってからの行動は・・・?」


「その件についても調べている。森井猛は、仮釈放されてから、親や親戚の伝手で、工場関係や土木関係の仕事に就いていたそうだ。しかし、妻の復讐を果たしてから、妻を憎むようになったようだ。職場の同僚にも、譫言のように妻への恨み節を、つぶやいていたそうだ。そんな状態だったから、最初は彼に同情的だった同僚たちも離れていき、職場でも孤立していた」


「復讐者の末路だな・・・」


「ああ・・・復讐は、何も生まない。復讐を成功させた達成感は一瞬だけ、その後は虚しさだけが残る。自分が側にいれば、大切な人を守れた・・・と、自分を恨むようになり、やがて、自分を守るため・・・自分自身を責める事で、心が押し潰されないようにするために、殺された大切な人の所為にするようになる。しかし、大概は、ここで終わるのだがね・・・」


「稀に、大切な人と同じ境遇の人間を、殺害するようになる。すでに、復讐によって、人を殺している。前科者に対する世間の目を考えれば、すでに1人殺したのだから、2人殺すのも、3人殺すのも一緒だと考えるようになる」


「そうだ。すでに復讐の対象を含めて3人殺している。次の目標も看護師だろうが、その次の目標は看護師では無く、まったく関係の無い人間が殺される事になる」


「間違いないだろう。早く、森井猛を確保する必要がある。彼の居場所は、わかるか?」


「最初の看護師を殺すまでは、低額の宿泊施設に身を置いていたようだが、その後は、不明だ。定住地を常に変えている」


「元警備員で、セキュリティ部門に務めていた。警察の動きも、ある程度には把握しているだろう。厄介な事だ」


 月詠は、ため息を付いた。


「刑法39条の暗黒面だ。今更だが、森井猛の奥さんを殺害した犯人が、犯した罪に合う罰を受けていれば、森井に殺される事も無かったし、森井も罪に手を染める事も無かった」


「そして、無関係な犠牲者が出る事も無かった・・・か?今更だな・・・」


「・・・そうだ、今更だ・・・」





 森井は、市内のビジネスホテルに滞在していた。


「くそぉ!何でだよぉっ!!?」


 2人目の看護師を殺めてから数時間しないうちに、殺した達成感を忘れてしまった。


 それどころか、亡き妻、沙織に対する憎しみが強くなる。


「沙織!沙織!!沙織!!!」


 亡き妻の名を、呼び続ける。


 暫くして、気持ちが収まった森井は、メモ帳のページを開く。


 香川県内の病院の心療内科・精神科の病院に勤務する看護師の情報が記載されたメモ帳である。


「さぁ~・・・次は、誰にしようかな~・・・」


 そんな事を考えていると、スマホが鳴った。


「?」


 森井は、スマホに出る。


「もしもし」


「もしもし、元気か?」


「ああ、元気にしている。真一」


 電話をしてきたのは、幼馴染の谷村(たにむら)真一(しんいち)だった。


 彼は、警察官であり、高松東警察署が管轄する駐在所に勤務する警部補である。


「久しぶりに会って、話さないか?」


「ああ、いいよ」


「じゃあ、場所は・・・」


 待ち合わせ場所等を打ち合わせて、電話を切った。


「ちっ!」


 森井は、舌打ちした。


「命拾いしたな・・・」


 ページを開いた看護師の顔写真を見ながら、つぶやいた。


 森井は、ベッドから立ち上がり、身なりを整えた。





「猛!こっちだ!」


 待ち合わせ場所に着くと、谷村が手を挙げた。


「待たせたな」


 森井が、谷村の前に立つ。


「花見シーズンは過ぎたが、ここの公園は、なかなかいいぞ」


「そうだな。しばらく公園とは無縁だったよ」


 料金所で、入場料を払った。


 公園の中に入ると、観光客が数多くいた。


「ここは、いつも賑やかだな」


「そうか、いつもの事だぞ・・・いや、円安の影響で、外国人観光客が増えたかな」


「最近は何をしている?警察だから、今は忙しいか・・・?」


「そうだな。おかしな殺人鬼が現れてから、県警は大忙しだよ。滅多に起きない殺人事件・・・それも連続殺人事件だからな。警察も威信にかけて、捜査をしているよ」


「今日は、いいのか?」


「俺か?俺は、今日はオフだ。連続殺人事件が起きたからといって、駐在所勤務や交番勤務の警察官が総動員される事は無い。駐在所勤務の警察官は、地域の防犯活動や地域への交流がメインだからな。夜回りが大変だが・・・」


「夜回り・・・?」


「ああ、俺の担当地区に1人暮らしの看護師がいる。精神科病院に勤務する20代の看護師だから、心配でな。だから、彼女が買い物に行く時間帯や出勤・退勤する時間帯に、地域の警戒活動を行っているんだ」


「そ、そうか・・・」


「?」


 森井の反応に、谷村は違和感を覚えたが、すぐに打ち消した。


「俺の娘も、大学の学生だからな」


「いくつになった?」


「21歳になった。将来の夢は、父さんと一緒で、警察官になると言っている」


「いい事じゃないか」


「いい事無い。こんな事件が発生するんだ。娘が現場勤務する時に、こんな事件が発生したら、娘が対応するんだぞ。親としては、朝も眠れない」


「朝は寝るなよ」


「ははは」


 谷村の軽い冗談に、森井が笑いながら突っ込む。


「ああ、そうだ。最近、お前の親父さんから連絡があった」


 急に、谷村は真顔になる。


「親父から?」


「ああ、「あの時は、悪かった。もう何も言わないから、家に戻って来てくれ」だと。親父さんは、80歳後半だろう。そろそろ、肩の荷を下ろしたいんだよ」


「それが目的か?」


「まあな・・・それと、仕事の話だ」


「何だ?」


「お前、最近、良くない奴らと一緒にいるだろう。最近、発生した看護師連続殺人事件の犯人ついて、知っている事は無いか?」


「いや、知らない」


「そうか」

 第9章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は6月24日を予定しています。

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