第8章 看護師連続殺人事件 1
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
香川県高松市某所。
「はぁ~・・・今日も、疲れた・・・」
20代半の女性が、夜の道を歩いていた。
彼女は、高松市内にある心療内科と精神科の個人クリニックで勤務する看護師である。
勤務してから3年が経過し、心療内科と精神科の看護師として、それなりに仕事に慣れてきた。
しかし、どんなに仕事に慣れても、特別な病気を持つ患者を接する看護師は、とても心労が多い。
「転職しようかな・・・」
彼女は、そう思うのであった。
スマホが鳴った。
「はい、もしもし」
彼女がスマホに出ると、大学時代の友人からの電話だった。
これ幸いと、友人に、今の仕事についての悩み等を愚痴る。
友人は何も言わず、彼女の話を聞いてくれていた。
5分程、愚痴った後、友人が本題に入った。
合コンの話だった。
彼女は、すぐにOKした。
それで話が終わり、電話を切った。
電話を切ると、背後で人の気配がした。
「?」
彼女は振り返る。
黒いマスクをつけ、黒い帽子を被った人物が、包丁を握った手を振り上げていた。
「え!?きゃあぁぁぁぁぁ!!!」
女性は悲鳴をあげるが、出来たのは、これだけであった。
振り上げられた包丁が、力一杯振り下ろされた。
包丁の鋭い刃が、身体に刺さる感覚に襲われ、遅れて苦痛が襲って来た。
彼女は、地面に倒れた。
黒いマスクをつけ、黒い帽子を被った人物は、女性の上に乗り、何度も何度も、包丁を突き立てる。
抵抗をしようと上げられた手が、空しく宙を掻く。
彼女は薄れゆく意識の中、その人物の目を見た。
狂気に支配された、目だった。
そこで女性の意識は無くなり、絶命した。
彼は包丁を必要以上に何度も振り下ろし、女性を刺した。
やがて女性が動かなくなると、彼は包丁を持った手を止めた。
「はぁ~・・・」
彼は、息を吐いた。
「やったよ。沙織・・・」
彼は、小さくつぶやいた。
「1人目、完了」
彼は、そうつぶやいて立ち上がった。
そのまま彼は、立ち去った。
早朝にジョギングをしていた高齢の夫婦が、めった刺しにされた女性の遺体を見つけた。
「きゃあぁぁぁぁぁ!!?」
「何てこった!!?」
「お・・・お父さん!すぐに警察を!!!」
「いや、ここは警察じゃなく、先に救急車だ!!!」
まさか、いつものジョギングコースで、こんな悲惨な光景に出くわすとは誰も想像出来ないだろう。
男性がスマホを取り出し、119番に通報した。
電話はすぐに繋がった。
『火事ですか?救急ですか?』
若い男性の声が、聞こえる。
「救急です!女性が血を流して倒れています!」
『落ち着いて、私の質問に答えてください』
「は、はい!」
『女性の意識は、ありますか?』
「わ、わかりません!」
『では、確認をお願いします』
「おい!女性の意識確認をしてくれ!」
夫に言われて、女性が倒れた女性に、駆け寄る。
「しっかりして!私の声が聞こえる!?」
妻が血を流して倒れている女性の肩を、怯えながら揺さぶる。
「・・・・・・」
しかし、何の反応も無い。
「まったく、意識がありません!」
それを見て、夫が叫ぶ。
『わかりました。人工呼吸を行えますか?それか、近くにAED等の救命道具は設置されていませんか?』
「いえ!それに、救命道具は使った事がありません!」
夫の方は、説明を続けながらも、口調が早口になってきた。
もう、どうしたらいいのか分からずに、パニックを起こしかけているのだろう。
「どうしました?」
異変に気付いたのか、同じ様にジョギングをしていた1人の男が近付いてきた。
「女性が血を流して、倒れているんです!意識もありません!!」
スマホを握ったまま、口をパクパクしている夫に代わって妻が叫ぶ。
声を掛けた男は、一目見ただけで、状況を理解したらしい。
「自分は、高松市消防局に勤めるスーパーアロー(高度救助隊)です!」
そう名乗った男は、女性の容態を確認した。
「まったく意識が無い。心肺蘇生を行う」
男は、心肺蘇生にかかる。
6時30分。
竹本が月詠宅の食堂で、自分の席に腰掛けると、テーブルの上には朝食が置かれていた。
今日の朝のメニューは、食パン2枚、コンソメスープ、サラダ、目玉焼き、焼きベーコンだった。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
月詠が食事の挨拶を行うと、全員が挨拶をする。
竹本は、食パンにマーガリンと苺ジャムを塗った。
『高松市某地域で、殺人事件が発生しました。殺害されたのは、市内のクリニックに勤める20代の女性です。早朝、ジョギング中の老夫妻が発見し、救急車を呼んだという事です。警察は、付近の防犯カメラを解析し、犯人の特定を急いでいます』
点けられているテレビから、朝のニュースが流れる。
「香川で、殺人事件か・・・」
月詠が、つぶやく。
「県警本部から、何か言ってきましたか?」
佐藤が、尋ねる。
「何もない。まだ、事件が発生してから数時間だ。所轄の警察署と県警本部刑事部機動捜査隊による初動捜査が、行われているだろう。県警本部刑事部捜査1課殺人犯捜査係の捜査官が派遣されるのは、後からだろう・・・まだ、警察は詳細を把握していないはずだ」
「しかし、香川で・・・それも高松市で、殺人事件というのは、あまり聞かない話ですね」
金森が、焼きベーコンを食べながら、つぶやく。
「怨恨か、何か・・・でしょうか・・・?」
竹本が、つぶやく。
「さすが、捜査1課。予想が的確ですね」
金森が、称賛する。
「香川県等の地方では、殺人事件と言ったら、怨恨が定番だからな」
香川県に限らず日本国内での殺人事件のほとんどは、肉親による殺人が多い。
主な理由としては、両親や配偶者の介護疲れ、恋愛や夫婦間の拗れ等である。
つまり、殺人事件の加害者及び被害者のほとんどは、顔見知りである場合が多い。
稀に、まったく関係ない人を殺害する者も存在するが、その場合は組織犯罪がほとんどであり、一般人では滅多に無い。
月詠のスマホが、鳴った。
「はい、もしもし」
月詠が電話に出ると、表情が険しくなった。
「はい、わかりました。捜査に協力します。必要な書類や人員の配置をお願いします。では・・・」
月詠が、電話を切った。
「竹本、佐藤。事件だ。県警本部刑事部捜査1課から捜査の協力を要請された。朝食が終わったら、捜査本部が置かれている所轄の警察署に行く。準備をしておけ」
「はい、わかりました」
「了解しました」
竹本と佐藤が、返答する。
「何の事件ですか?」
「今朝のニュースでやった、例の殺人事件だ」
金森の質問に、月詠が答えた。
「警察は、我々をこき使うという事ですか・・・」
竹本は、食べるスピードを上げた。
月詠は、部下たちに連絡を行う。
今朝のニュースで、放送されたため、ほとんどのメンバーが承知していたため、説明が不要だった。
10分後、所轄の警察署刑事課と県警本部刑事部機動捜査隊の初動捜査の情報が簡易的ではあるが、月詠のスマホにメールで届いた。
「なるほど」
「何か、わかりましたか?」
竹本が、尋ねる。
「被害者は25歳女性で、心療内科と精神科を専門的に診る個人経営のクリニックの看護師だそうだ。被害者は、クリニックで、患者と接する仕事をしていたとの事だ」
「それでは、病院関係者か、患者か、彼女の知り合いが、何らかのトラブルで、犯行に及んだ可能性がありますね」
「警察は、その可能性が高いと見ている」
佐藤の指摘に、月詠が答える。
『本日、香川県高松市で、発生した殺人事件に関して、警察からは何の発表もありません』
夕方のニュースで、キャスターが、そう告げた。
森井猛。
昨日の夜に、心療内科と精神科のクリニックに勤める看護師を殺害した男だ。
彼が借りているアパートの部屋は、薄暗く、テレビの明かりだけが点いている。
テーブルの上には、カップラーメンやカップうどん等の容器が、無造作に置かれている。
森井は、薄暗い部屋の中で、カップラーメンを啜っていた。
『事件が発生した場所には、ほとんど防犯カメラが無く、近くのコンビニやスーパーまで、15分ぐらいはかかる場所です。周辺に住む住民の方が、家に防犯カメラを設置している可能性もあり、警察は、地元住民に聞き込みをしている最中だと思います』
ニュースの中で、元岡山県警察本部刑事部捜査1課に所属していた男が、専門家として、テレビに出ていた。
「沙織。どうやら、俺は、まだ逮捕されないようだよ・・・」
森井は、部屋の隅に置かれている写真を見る。
そこには若い頃の森井と、若い女性が写っている。
「じゃあ、もう一度、殺人を犯さなければいけないな」
森井は、不気味な笑みを浮かべた。
「そうだよ。こうなるのは・・・全部、沙織のせいだよ。沙織が、いけないんだ・・・」
森井は、そうつぶやいて、立ち上がった。
箪笥の引き出しを開け、中から包丁を取り出す。
「さあ・・・今日は、誰にしようかな・・・」
森井は、壁に貼られている女性たちの顔写真を眺めた。
ここに貼られている女性の写真は、すべて県内に住む女性で、精神科又は心療内科の病院で勤務する看護師たちである。
何故、ここまで執拗に、精神科又は心療内科の看護師を狙うのかというと、理由がある。
それは、20年程前の話だ。
彼が30歳の時、彼は、東京都内の大手警備会社に勤務する警備員だった。
森井には、妻がいた。
5歳下の女性で、森井沙織と言う。
彼女は、都内の精神科・心療内科の専門クリニックで勤務する看護師だった。
新婚ホヤホヤの生活を送り、幸せ一杯の生活を過ごしていた。
しかし、そんな日は永遠には続かなかった。
彼女が勤める精神科・心療内科の専門クリニックは、金銭的に困窮している患者には無料で診察、治療を行う日本国内でも珍しいクリニックだった。
さらに、生活保護等の様々な行政の支援を受けられるよう相談をしたり、手続きの手助けを行っている。
ある日、ホームレスの40代後半の男が、ホームレス支援の事業所の所員に連れられて、クリニックを訪れた。
彼の言動はおかしく、まったく話にならない。
それどころか、かなり攻撃的な発言をする。
クリニックの院長は、彼女と共に患者を落ち着かせていたが、突如、男は暴れ出した。
クリニックの院長とホームレス支援の事業所の所員を殴り、止めに入った彼女にも襲い掛かった。
彼女の顔面を殴った。
その男は、元プロボクサーだった。
彼女は、即死だった。
森井は、それから1時間ぐらいで彼女の死について知らされた。
警察は殺人及び殺人未遂の罪で、男を逮捕、起訴した。
刑事裁判が開かれると森井は傍聴席に座り、判決の結果を見る事にした。
もちろん、森井は死刑を望んでいたが、結果は、彼の予想を覆す結果になった。
精神鑑定の結果、男は重度の統合失調症であった事が判明し、事件当日は心神喪失状態だったと弁護人は主張した。
その結果、男には刑法39条が適用され、無罪判決が出た。
彼は、怒りと憎悪で気が狂いそうになった。
その後、検事から説明を受けるが、到底納得が出来るものでは無かった。
彼は、復讐を考えた。
様々な手段を使って、男の所在を確認しようとした。
仕事も辞め、借金をして、反社会団体から情報を買った。
そこで、男が都内の精神科病院で入院生活をしている事を、突き止めた。
彼は、その病院に出入りしている派遣会社を調べ、その1つに就職した。
派遣の職員として、怪しまれずに病院中を調べていると、ターゲットの男を見つけた。
彼は、このために密かに所持していたナイフを取り出し、その男に襲い掛かった。
森井は、大手警備会社に勤める前は、陸上自衛隊のレンジャー隊員だった。
元陸自で、レンジャー隊員。
ナイフの使い方は、熟知している。
森井はナイフで、男を殺害した。
その後、警察に逮捕、起訴されたが・・・
男が起こした殺人罪に、刑法39条を適用した事を反対する団体が行った署名活動によって、裁判では情状酌量の余地が認められ、懲役8年の刑が言い渡された。
刑務所での服役中、最初は、妻を理不尽に殺した男を憎み、復讐が達成された事に満足していたが、やがて、自分でも判らないまま、自分を恨む衝動を押さえられなくなった。
森井は、模範囚であったため、6年で仮釈放された。
彼の両親に連れられて、実家のある香川に戻った。
しかし、前科者は簡単には仕事に就く事は出来ない。
土木関係の仕事に就くが、彼は、死んだように仕事をしていた。
そんな生活を行っていると、何時しか妻である沙織を、恨むようになった。
両親との関係も悪化し、森井は家を出た。
精神を病み、仕事を続ける事が困難になった彼は、生活保護を受け、生活をするようになった。
そして、妻を憎むようになって、数年、今度は妻の仕事を憎むようになり、妻のような人間がいるから、自分のような不幸になる男がいるのだと思い。
妻と同じ精神科・心療内科の病院で勤務する看護師を殺害する計画をしたのだった。
「はっ、はっ、はっ」
香川県木田郡三木町。
高松市の東隣りにある町である。
三木町にある総合病院の精神科病棟に勤務する20代後半の看護師が、暗い夜道をジョギングしていた。
その時、背後から気配がした。
振り返ると、黒いマスクをつけ、黒い帽子を被った人物が、包丁を振りかざしていた。
「え?」
まったく、反応する事が出来ず、包丁が彼女の首元に刺さった。
包丁を刺した人物は、無造作に包丁を抜くと、再び振り下ろした。
女性は、何の対応もできず、地面に倒れた。
「がっ!はぁ!?」
女性は、吐血した。
包丁を持った人物は、女性に跨りに、何度も包丁を刺す。
女性は絶命した。
森井は、何度も包丁を刺しながら、小さく叫んだ。
「沙織!君の所為だよ!君の所為で、俺は、こんな事をしているんだ!」
森井は、動かなくなった女性を見て、立ち上がった。
「2人目、完了・・・」
森井は小さく、つぶやいた。
それから、数時間後、犬の散歩を行っていた中年男性が、家族と共に女性の死体を発見した。
中年男性は、すぐに警察と救急車を呼んだが、女性は、すでに息絶えていた。
第8章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は6月17日を予定しています。




