序章 出会い
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。初めての方は初めまして
香川県高松市某所にあるショッピングモール。
香川県警察本部刑事部捜査第1課殺人犯捜査第1係第1班に所属する竹本恵巡査は、祖母の咲子と共に、買い物に来ていた。
「恵、ごめんね。折角の休みなのに・・・こんな年寄りの、付き添いだなんて・・・」
「気にしないで、おばあちゃん。私も、買い物に来たかったから。それに、1人で買い物をするより、誰かと一緒に買い物をする方が、楽しいでしょう?」
「でも・・・殺人とかの事件の捜査をするんだから、忙しいでしょう?疲れているんでしょうに・・・」
「そんなに毎日、殺人事件が発生している訳は無いよ。最近は、傷害事件が1件あっただけだから。ほとんど暇だから」
「でも、最近は物騒な事件が、幾つも発生しているじゃない?」
「心配し過ぎだよ。凶悪な事件なんて、他の県でしか発生して無いから」
「そう・・・」
「さあ、買い物♪買い物♪」
恵が咲子の前を、歩いて行く。
ずっと付けていたのか・・・後ろから近付いて来たマスクを着けた者が、咲子の側にさり気なく忍び寄って来た。
咲子の前を歩く形になっていた恵は、その不審な人物の動きに気付けなかった。
その人物が、行動を起こした。
咲子が、何かに気を取られた一瞬の隙を突いて、不審者は、咲子が手に持っているバックを掴んだ。
「キャア!?」
「え?」
恵が振り返ると、不審者に突き飛ばされた咲子が、床に倒れるのが目に入った。
「おばあちゃん!?」
恵は、咲子に駆け寄る。
ひったくりの現行犯の不審者は、咲子のバックを持って背を向けて駆け出した。
「待ちなさい!!」
恵が、叫ぶ。
しかし、倒れた咲子を置いて、ひったくり犯を捕まえに行く事は、出来なかった。
だが・・・ひったくり犯の前に、立ちはだかる者がいた。
「・・・・・・」
その男は、何も言わずに、ただマスクの人物を見ていた。
「邪魔だ!!どけえぇぇぇ!!」
ひったくり犯は、怒鳴る。
しかし、その男は動かなかった。
ひったくり犯は、拳を振り上げる。
すると、その男は馴れた手つきで、その人物が振り上げた拳を払い、そのまま手首を掴んだ。
「!!?」
男は合気道の要領で流れるような動きで、ひったくり犯を床に叩き付けた。
「ぐはっ!!?」
男は、そのままひったくり犯を、押さえ込んだ。
その光景を見ていた買い物客たちからは、歓声の声が上がった。
「何事ですか!?」
騒ぎを聞きつけたらしい警備員たちが、駆け付けて来た。
「ひったくりの現行犯です」
男は、淡々とした口調で、警備員に告げた。
「ひったくり?」
警備員は、状況を掴めずにいた。
「その方が言っているのは、本当です!」
恵が、駆け寄る。
「貴女は?」
「はい!香川県警の竹本巡査です。被害者は、私の祖母です」
「そうですか。それでは、すぐに警察に通報します」
状況を掴んだ警備員が、すぐに無線で、上に報告した。
「さあ、立て!」
ひったくり犯を拘束した警備員は、ひったくり犯を立たせた。
逃げられないように、ひったくり犯の腕を掴んでいる。
「なあ、頼むよ!見逃してくれよ!」
ひったくり犯は、叫んだ。
「ただの窃盗未遂だろ!警察に突き出すなんて、大袈裟だ!」
「ただの窃盗・・・?」
恵のこめかみに、青筋が浮かんだ。
「強盗だ」
男が、静かな口調で、言い放つ。
「強盗?馬鹿な、ただの窃盗未遂だろう!!」
「被害者の女性を、突き倒した。れっきとした強盗だ」
「ふざけんな!あのババァが!勝手に倒れただけだろうが!俺は悪くない!」
「なっ!?」
恵の頭の中で、プツンと糸が切れた。
激しい怒りがこみあげてきて、恵は、ツカツカとひったくり犯に近付いて行こうとした時、男が間に入った。
「そういう事は、警察署で話すといい。48時間たっぷりと、君の言い訳を聞いてくれるぞ。それに、当番弁護士に泣きついて、弁明する事だな」
男は、無表情で告げた。
「はっ!?」
男の言葉を聞き、恵が我に返った。
(私、今、何をしようと・・・)
祖母に酷い事をしながら、見苦しい言い訳をするひったくり犯に怒りを覚えた。
もし、この男が自分の前に立たなかったら、自分は、ひったくり犯を張り飛ばしていたかもしれない。
「婦警さん。落ち着きましたか?」
男は顔をひったくり犯に向けたまま、低い声で話しかけてきた。
「え、あ・・・はい・・・」
「気持ちは、わかりますが・・・ここは、怒りを押さえて下さい。ここで彼を殴っても、何にもなりませんよ。彼の処遇は、法で決まります」
「・・・はい」
10分後、制服を着た警察官が、2人駆け付けて来た。
その後、所轄の刑事や管轄の機動捜査隊の捜査官たちが駆け付け、事情聴取をされた。
ひったくり犯と被害者である咲子、恵、ひったくり犯を捕まえた男は、所轄の警察署に移動し、担当の刑事から調書を取られた。
各種手続きが終わると、恵と咲子は解放された。
「最悪の休日に、なったわね・・・」
「うん・・・」
恵が警察署の出入口に顔を向けると、ひったくり犯を捕まえた男が出て来た。
「あ!」
恵は、男に向かって駆け出した。
「あの!」
男は足を止めて、振り返った。
「婦警さん?」
「先ほどは、ありがとうございました」
「いえいえ、当然の事をしたまで・・・ですよ」
「あの、何かお礼をしたいのですが・・・」
咲子が、声をかける。
「いえ、何もいりませんよ。それより、お怪我が無くて良かったです」
「あの、せめて名前だけでも・・・」
このまま、名前も聞かずに別れるのは忍びない。
「月詠真人」
短く答えると、月詠は一礼をして、恵たちに背を向けた。
序章をお読みいただきありがとうございました。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。