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情報の授業

 鈴木は自分の身体検査を『多田羅(たたら)』ではなく、神部(かんべ)がやっていたと知り、むくれていた。

「鈴木くん、そんなに怒ると思わなかったわ。機嫌直して」

「変態には少し反省してもらわないと」

「……ない」

「何が」

 と、宮藤(くどう)が訊き直す。

「封筒がない」

 鈴木の言葉に、多田羅が反応する。

「確かに封筒が出てこなかったわ。容疑者を広げる必要があるわね」

「もうそんな時間はない。誰がやったかは別として、最悪、モノだけでも見つける必要がある」

 宮藤が閃いた、とばかり指を立てて言った。

「待って。用紙を貰ってきて、書き直せば?」

 多田羅が言う。

「ああ、あれは唯の紙じゃなくて生徒会と担任の判子が必要だから、簡単には書き直せないのよ」

「もう次の授業が始まるから、私もどるわね」

 と、多田羅が自席に戻っていく。

 宮藤も困り果てたように口を閉ざしている。

 やがて扉が開き『情報』の授業が始まった。

 鈴木は授業をボーッと聞きながら、パソコンにこれまでの状況を入力し、まとめてみた。

 まず、朝のショートホームルーム前に、神部(かんべ)(たけ)が言い争っていた。

 この時点で陽春(ようしゅん)、竹、多田羅の三人が封筒があることを確認している。

 英語の授業の間、誰も陽春(ようしゅん)の席には近付いていない。

 そして問題の日本史と地理の時間が来る。

 だが、聞いた限りだと地理の時間は別のクラスの生徒が座っていて、やはり、陽春の席に問題の人間は近付いていない。

 現代文の授業の前、座席が入れ替わっていたことがわかる。

 ここで二度めの封筒を確認、紛失していることが判明した。

「ここだ」

 と、鈴木は独り言を口にしていた。

 机が入れ替わっているとすると、封筒を抜くことができるのは二人。

 まず本人である陽春。見つからないように自席の封筒を隠したりすることはできるだろう。

 もう一人は、多田羅だ。陽春の机と入れ替わっていた、とはっきり言っていた。入れ替わっていると知っていたら、手を突っ込んで封筒を盗んでみることは可能だ。

 現代文の授業は何もなかった。

 体育の授業も特に何もないだろう。

 昼休みになって、確認した時に、最重要の容疑者である陽春と多田羅、二人の机、鞄、制服から封筒が発見されなかったことだ。

 盗んだとすれば現代文の授業の前。

 その後は周りの目が厳しくなっているはずだ。だから封筒を持っているだけでもかなり印象に残っただろう。隠すことは困難だ。

 現代文の授業で席を移動することはなかった。だから現代文の前や授業中に鞄や机、制服のポケットから、どこかに移すことはできなかったはずだ。

 現代文の授業以降は、竹が大騒ぎしたおかげで、封筒に対しての意識が高くなっているはずだ。教室で完全に一人になるような状況がない限り、隠すことは不可能だろう。

「!」

 教室で完全に一人きり。

 昼休みの事情聴取で『一人きり』の状況があった。

 鈴木はメモを素早く捲っていく。

「鈴木?」

 さらにメモを捲っていく。

万慈(ばんじ)

 鈴木の耳に、それらの声は入ってこない。

「見つけた!」

 そう言うと同時に、メモを持って鈴木は立ち上がった。

 呆れた顔の教師が言う。

「そうか。それでは鈴木。君の回答を黒板に書いてくれ」

「は?」

 情報の教師が、イラついた感じの早口で言う。

「何が『は?』なのか。鈴木。さっきから授業に集中していないのは明らかだぞ」

「すみません。俺には分かりません」

「授業を聞いていないんだから当然だな。もういい、着席しろ」

 宮藤が小さな声で訊ねる。

「(何を見つけたの?)」

「(まだ言えない)」

「(またそれ? いい加減に私のこと信用してよ)」

 黒板にチョークを強く押し当て、チョークが折れる音が響く。

「おい。宮藤も当てられたいのか?」

「す、すみません」

 宮藤は頭を下げると、そのまま俯いた。




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