羨望の身体検査
鈴木が、目を大きく見開いて固まっている状態が続いていた。
宮藤は多田羅に訊ねる。
「益子、万慈に何を言ったの?」
「なんだっけ…… そうそう、容疑者の身体検査した方が良くないって」
「それだ!」
宮藤は手のひらを『ポン』と叩いた。
「この小さな脳みその中で、エロい妄想が暴走してるんだわ」
「ありえないんだけど」
「万慈リセット!」
宮藤は言うなり、鈴木の頭を『ポン』と叩いた。
「よく聞いて、容疑者は男よ。万慈がやるのは男の身体検査」
鈴木は手を交差させ『バツ』の形を作ってみせる。
「イヤダ。拒否する」
「鈴木くん、やっと動いた」
「多田羅さんの身体検査するんだ、多田羅さんの身体検査するんだ、多田羅さんの……」
「ハード・リセット!」
「痛っ!」
鈴木は両手で自身の頭頂部を押さえた。
「お笑いのツッコミよりきついよ」
「とにかく、身体検査はやってみましょう。万慈が男子。私が女子の身体検査」
「クドウちゃんばっかり、女子担当してずるい〜」
「万慈、頼むから無茶言わないで」
そこまで言って、ようやく、鈴木は納得した。
三人は、身体検査をする人物を絞り込むことにした。
「主要容疑者を絞り込もう」
「うんうん」
「万慈は誰が怪しいと思ってるの?」
お弁当の残りを食べながら、鈴木は言う。
「竹、陽春、多田羅、神部、青空 、相田」
多田羅は用意していたメモに書き出した。
「相田くん?」
「そうね。なんか突然出てきたような」
「そうでもないんだよ。さっき神部に話を聞いた時、相田が一人で教室に入ったのをみたって証言があったんだ」
言い終わると、鈴木はお弁当を片付け始めた。
「一人で教室に?」
「万慈、それが本当なら、すごい事実じゃない」
「ただ、ちょっと問題はあるんだけどね」
宮藤はそれを聞いて、お弁当を片付ける手を止めた。
「何よ?」
「今は言えない」
「でた! 今は言えないとか、勿体ぶらないでよ。ねぇ。万慈、私だけでも教えて」
鈴木は拒否するように手を開いて、回しながら言う。
「とにかくダメなんだ。それより、他に身体検査した方がいい人物はいない?」
「万慈くんと静香も入れとくべきでしょ?」
「クドウちゃんは多田羅さんにやってもらうとして、俺は誰に身体検査してもらうの?」
「身体検査されることは拒否しないのね?」
鈴木は頷いた。
「嫌じゃなければ、多田羅さんにやって欲しいな。一応、要望としては『固め』、『厳しめ』、『強め』でお願いします」
「ねぇ、万慈。ラーメン屋じゃないんだから」
「身体検査の『固め』って何かわからないけど、ユニークで楽しいじゃない」
鈴木、宮藤、多田羅は、一人一人に頭を下げ、服の上から体を触り、封筒がないか探した。
さらに、相手が見せてくれる範囲で、机の中と、鞄の中を見せてもらう。
竹は過激に鈴木の罵ってきた。
神部は鞄の中までは見せてくれなかった。
相田は黙って全て見せてくれたが、何も出てこなかった。
陽春もゆっくりだったが、何もなかった。
青空は鞄を見せる以外は協力的であった。
多田羅も、宮藤も、全てをさらけ出したが、何も見つからなかった。
「いよいよ、俺だよね。嬉しい」
「万慈、目隠させてもらうね」
「そ、そんなハードな感じなんだ」
宮藤がタオルで鈴木の目隠しすると、小さい声で神部を呼んだ。
「(強めで身体検査して)」
神部が、制服の上から鈴木の体を触る。
目隠しされている鈴木には、誰が触っているか、わからない。
神部は鈴木の上着のポケットなどを軽く叩いてみる。
「ないわね」
神部が触るのに合わせて、多田羅がそう言った。
「もっと強く叩かないとわからないよ」
「じゃあ、そうさせてもらうわ」
多田羅はそう言ってから、神部に合図する。
神部は指示にしたがって、強めに上着のポケットを叩いた。
「ウッ!」
続けて、鈴木のスラックスの後ろポケットを叩いて確認する。
言われる前から強く叩いていた。
激しい音が響いた。
「多田羅さん、分かってきたね」
調べるところがなくなり、神部は鈴木のスラックスのサイドポケットに手を突っ込みそうになった。が、流石にやめる。叩いて調べるにしても、手を突っ込むにしても『男性自身』に触れてしまいそうだからだ。
神部の様子を察して、多田羅が言う。
「ここには…… ないわね」
「えっ? あるかもしれないよ。探してみてよ、そのポケットの奥、真ん中のあたりだよ」
神部がもうヤケだ、という感じにポケットに手を入れそうになる。
多田羅が激しく首を横に振る。
「いいえ。調査はここまでよ」
「お願い、お願い、お願いだから」
「止めなさい、変態!」
言うと同時に宮藤がツッコミを入れると、目隠しが『ストン』と下がった。
至近距離で顔を見合わせる神部と鈴木。
「えっ?」