昼休みの事情聴取
鈴木は着替えると、自分の教室へ移動した。
教室に入ると、まず備品のテーブルを見にいった。
「クドウちゃん、ちょっときて」
「どうしたの万慈」
「これを見て」
朝から何度も見ている備品を載せているテーブルだった。
「チョーク、セロテープ、マーカーペン、ハサミ、ホチキス、ホチキスの玉、メガホン。全部あるじゃない」
「そうじゃなくてさ」
鈴木は宮藤に耳うちする。セロテープの台がズレている点が気になっていたのだ。
「誰かが使った時に動いたんでしょ?」
「女子の着替え中、誰か使ってた?」
「私が来てからは、誰も使ってないと思うよ。セロテープって、結構派手に音がするでしょ」
誰も使っていない。とするとクドウちゃんより前にこっちの教室に入った生徒が使ったということだ。
「あれ? 多田羅さんは?」
「真岡に呼ばれて職員室に行った」
「とりあえず備品はあるから大丈夫」
宮藤は席に戻ろうと振り返った。
『カサカサ』
「?」
鈴木が宮藤の腕を掴む。
「えっ? な、何?」
腕を取られ振り返った宮藤を、鈴木がジロジロと眺めまわしている。
「もう一度振り返って」
そう言って自席の方向を指差す。
宮藤の体が動くと、音がした。
『カサ』
「ストップ!」
鈴木は音がしたところを探す。
宮藤の制服の上着、おそらく胸の辺り。
「ねぇ、そんなところ、ジロジロ見ないでよ」
「胸になんか入れてる?」
「だから、女子にそう言うのはセクハラ!」
「ああ、めんどくさい。そういう意味じゃなくてさ」
『カサ』
鈴木は、指をさして言った。
「ほら、その音」
「あっ? ああ。これはPTA会長選挙の委任状の封筒よ。朝は集めるのに夢中で、自分の出すの忘れてたから、絶対帰りだそうと思って」
宮藤は封筒を取り出し、中の紙まで取り出して見せた。
確かにPTA選挙の委任状だった。
「……」
鈴木は記憶に引っ掛かるものがあった。
生徒会長の推薦状を入れた封筒と、PTA選挙の委任状を入れた封筒。
おそらく封筒自体の大きさや格好に違いはないだろう。と鈴木は考えた。
「もしかして、PTAの封筒と間違えて持ってる人がいるのかも」
「PTAの封筒だったら、何で朝出さないの? それって、私のこと言ってる?」
「確か、朝、一人欠席で」
「四人が未提出だって」
宮藤は朝のことを正確に覚えていた。
鈴木は考えた。
今の状況からすると、封筒がなくなったのはショートホームルームの後、一時限目と三時限目の始まりまでの間が怪しい。
地理の授業で机を動かした後、陽春の机に座った誰かが、机の中にある封筒を手にし、PTAの封筒と勘違いした。
そいつは宮藤と同じように、後で出そうと考え、自分の鞄に入れてしまったとか、そう言うことは考えられる。
「……だとすると、PTAの封筒を出さなかった奴を見つければ。クドウちゃん、俺達も真岡のところへ行こう」
「そんなのわからないわよ」
「可能性のことさ」
「違うわよ。PTAの封筒、中身もだけど、記名しなくていいから、誰が出してないかわからないわ」
鈴木は項垂れた。
「そんな……」
「自分で言ってたじゃない。任意だって」
「待って。この封筒、俺たちが集めたよな? 誰が出してなかったか覚えてない?」
「えっ……」
鈴木は自分で言っていて、それが無理なことを知っていた。
そもそも鈴木自身が全員の名前をしっかり覚えていない。全員から受け取ったような気もするし、受け取らなかった人もいた気がする。そもそも、誰のところを回ったのか、名前も、顔もうろ覚えなのだ。
「もう、全員から話を聞くしかないよ」
鈴木はため息をつく。
「監視カメラとかを使えば一発なのに」
「そんなこと、以前も言ってたよね」
「そうだよ。立ち入り禁止のテープを貼ってさ、教室の中全部調べればすぐ出てくるのに、生徒同士でやるからそう言う強制力もなくて」
鈴木は思った。仕方ない。
昼休みに協力してくれる人からだけでも話を聞こう。
「クドウちゃん。昼休み可能な限り全員から話聞くよ。手伝って」
「手伝う手伝う!」