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事件の発生

 二時限目は、隣のクラスと合同で選択授業が行われた。

 鈴木(すずき)万慈(ばんじ)達の教室が『地理』で、隣の教室で『日本史』の授業が行われた。

 多田羅(たたら)宮藤(くどう)、鈴木の三人は『日本史』を選択していたので、隣の教室に入って授業を受けていた。

 授業が終わると、三人は自分たちの教室に戻ってきた。

 教室には『地理』を選択していた連中が残っていて、片付けをしていた。

 多田羅は日本史の教科書などを教壇に置くと、黒板を消し始めた。

 鈴木は、その姿を横から、後ろから、見つめている。

 体を伸ばす時の制服の皺の出方。

 動きに合わせて揺れるスカートの裾。

「また、そういうことする!」

 さっきの授業終わりと同じように、宮藤は鈴木の頭を叩くとそう言った。

 宮藤は鈴木を連れて、黒板傍のテーブルを見に行く。

「地理の先生、無駄にチョーク使ってないよね」

「クドウちゃん、またチョーク取りに行くのは勘弁してください」

 黒板を消し終わった多田羅は声を掛ける。

「今度は私が取りに行くから大丈夫」

 三人は備品を確認した。

「……」

 備品のテーブルを見ながら、鈴木は思う。すごいチョークの粉だ。

 黒板の傍だから仕方ないことだが、これは人の肺に入って問題を起こさないだろうか。

 実際、アスベストとかより、吸い込んでいる量も、人も、多いのではないか。

 いや、多い割に問題になっていないのだから、そんな害はないのだろう……

「鈴木くん、どうしたの?」

「備品、全部あるわよ」

「よかった」

 三人はそれぞれの座席に座った。

 選択授業で一時的に来ていた生徒が去り、本来いるはずの生徒だけになった頃、一人が声を上げた。

「机の配置おかしくね?」

 鈴木はざっと周りを見渡した。

 並びは特に問題なさそうだ。だとしたら彼の言っていることは中身が入れ替わっているとかそういう意味だ、と考えた。

 机の中を覗くと、見たことのない大きさの弁当箱が入っていた。

「ほんとだ、机が入れ替わっている」

 鈴木の言葉に、宮藤が反応して、大きな声で呼びかける。

「みんな、自分の机か確認して」

 教室内が一斉にザワザワとし始める。

「このお弁当箱、どこかで」

 言いながら、鈴木は弁当箱を机から引き出していた。

「それ、私の」

花村(はなむら)さん?」

 花村美子(よしこ)は宮藤の友達だった。

 彼女の三つ編みした髪が、左右の肩にかかっていた。

「机は俺が持っていくよ」

 鈴木が机を持って移動していくと、宮藤は花村を呼び止める。

「美子、あのさ、朝、私たち見て笑ってたでしょ?」

「えっ? ああ、ああ。あれね。うん、ごめん。笑うつもりは無かったんだけど」

「がっつり笑ってたよ。覚えているんだから。何なの、あれ」

 花村は首を傾げ、顎に指をつけて悩んでいた。

「言っても気にしない?」

「だって、知りたいじゃない」

「あんまり深刻に考えちゃダメよ」

「だから何よ」

 花村はもう一度首を傾げた。ツインテールの髪が揺れる。

「ちょっとそっちに行こう」

 二人は教室の端に移動した。

 教室全体で、机をガタガタと動かしている。

 鈴木も、まだ机を花村の机と、他の机を入れ替えたりして、二人に気づかないのを確認すると、宮藤に耳打ちした。

「多田羅さん。鈴木くんのことが好きなんだって」

「!」

 あのセクハラ男を好きな女子がいたなんて。と宮藤は衝撃を受けていた。

 そのまま壁に背中を預け、呆然と教室を見つめる。

 花村は頭を掻きながら、ひとりごとを言う。

「やっぱり言わん方がよかったか……」

 花村は宮藤の肩を叩いて、声をかける。

「大丈夫。幼馴染とか、お隣さんとか、完全に静香の有利な条件揃ってるじゃない」

「何が揃ってるって?」

「あっ、鈴木くん。机動かしてくれてありがとう。私授業の準備しなくちゃ」

 逃げるように去っていく花村。

 宮藤が壁際で、呆然としている理由が分からず、鈴木は困惑している。

 その時、教室に大きな声が響いた。

陽春(ようしゅん)!」

 それは(たけ) 敏志(はやし)の声だった。

 声に反応して、神部が竹を睨みつける。

「机が入れ替わってたぞ。推薦状があるか確認しろ」

「誰も取ったりしないわよ……」

 フワフワした髪を、ゆっくり後ろに払うと、机の中に手を伸ばした。

「あら?」

 体を曲げて、机の中を覗き込む。

「無いわー。机を間違えているのかしらー」

「おい、どうしてくれるんだ」

「どうしてくれるって言ったってー、私知らないー」

 竹は怒りを露わにしながら立ち上がると

「ああ! 鈍臭い女だな」

 といい、クラスに呼びかけた。

「皆、机の中に封筒入っていないか? 陽春が書いた俺の推薦状だ」

 竹の依頼通り、机の中を探す者と、竹の言葉を無視するものに二分され、教室は静まり返っていた。

 一人の女生徒が立ち上がった。

 髪が頭に張り付いたようなベリーショート。

 女生徒は何も言わず、竹の方へ向かっていく。

「なんだ? 青空(あおぞら)封筒、あったのか?」

 竹は封筒を受け取ろうと、青空と呼ばれた女生徒へ手を伸ばした。

「机の中に封筒はなかったよ。気になるのはさ。一つ前の発言、っていうか態度かな」

「?」

 青空は格闘技を習っていて、普段からオープンフィンガーの手袋をしていた。

「あのさ、あれ、推薦状書いてもらった()に対する態度かよ」

 そう言いながら、胸の前で右拳を左の手のヒラに強く押し付ける。

「ふん。封筒があった訳では無いのか」

 そう言いながら、引っ込めようとする竹の手に、青空は拳を叩きつけた。

「痛っ」

「ざまぁ」

 神部は、間髪入れず、周りに聞こえるようにそう言った。

 竹は赤くなった手を押さえながら、神部を睨みつけた。

「おい! お前が封筒取ったんだろ」

「とらねぇよ。こんだけ周りを敵に回してて、生徒会長になんかなれると思ってるのかよ」

「俺の父親は広く顔が利く県議員だぞ。この学校は県立なんだ。意味わかるよな」

 教室の扉が開いて、現代文の先生が入ってきた。

「何騒いでるんだ」

 青空、竹、神部の三人が、ぎこちなく自席に戻って着席する。

「日直」

 多田羅の号令が掛かって、授業が始まった。




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