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竹のマニフェスト

 担任の真岡(もうか)が出席を取り、直近の予定を説明すると、次に日直に向けて言った。

「今日の日直は多田羅(たたら)と、もう一人、井神(いがみ)…… は休みか。悪いが、多田羅、PTA会長選挙の委任状を集めてくれ」

「はい」

 多田羅は立ち上がると、宮藤(くどう)も立ち上がった。

「生徒会といい、選挙ばっかりだな」

 そう言うと鈴木も立ち上がる。

 鈴木と宮藤が席を回って封筒を回収すると、多田羅が数を数えて、輪ゴムで止めた。

 真岡は三人がPTA会長選挙の封筒を集めている間に、別のプリントを配っていた。

「計二十五通です」

 多田羅が手渡した。

「欠席一で、その数だと四人ほど忘れてるな」

 鈴木がいう。

「委任状の提出は任意のはずですけど」

万慈(ばんじ)は、何でそんなこと知ってるの?」

「入学前や入学直後、配られた資料に、穴が開くほど目を通したんだ。その頃、ほら、暇だったから」

 先生は煙たい顔をして言った。

「ショートホームルーム終わり」

 多田羅が号令をかけると、ショートホームルームが終わった。

 そそくさと真岡が出ていくと、教室は少し騒がしくなった。

 多田羅の前に座っていた(たけ)が、横に座っている女生徒に話しかけた。

「封筒で思い出したけど、陽春(ようしゅん)、推薦状持ってきたよな?」

「ええ」

 と言って、机の中に手を入れ、封筒を取り出す。

 そのまま渡そうすると、竹が止める。

「いや、まだ持ってて」

 竹は警戒するように教室の後ろの方を見た。

 教室の後ろの方には『神部(かんべ)』が座っている。

 陽春の後ろの座っている多田羅からも、その封筒が見えた。

(かすみ)ちゃん、竹の推薦状書いたんだ」

「多田羅、声が大きい」

 竹に声の大きさをたしなめられると、小さな声で謝った。

「ごめん」

 癖っ毛でフワフワと広がっている髪をゆっくり揺らしながら、陽春は振り返る。

「そーなのー。なんかねー、対立候補の、堂島(どうじま)くんの推薦状、十五通ぐらい集まったって噂なのねー、竹くん、それだと負けそうなんだってー」

 陽春は、囁くような小さい声でそう言った。

 本人の髪と同じようにフワフワした喋り方だった。

「だからねー、書いてきたのー」

「確かに、毎年、推薦状の数で決まっている感じはあるわよね」

「陽春の推薦状でこっちは十六だ」

 そう言うと、多田羅の方に竹がサムズアップした。

「……」

 そのやり取りを、少し離れた席で鈴木が聞いていた。

 竹に聞かれないよう、小さい声で訊いた。

「クドウちゃん、竹のマニフェストって知ってる?」

「正直、見るに耐えなかったわ」

「そうだっけ?」

 宮藤はため息をついてから言った。

「竹が勝ったら教室の座席順を成績順にするって」

「何だそりゃ?」

「残りも、成績が良い人を優遇する内容ばっかりだったわ」

 手のひらを合わせて、何か思い出したように言った。

「そうだ、制服評議会を潰すとも、言ってたわね」

「おう、それは良い考えだ。女子高校生というのは、もっと自由な服装でいいはずだ」

「残念だけど、竹の場合は制服自体を廃止するわけじゃなくて、竹の決めた制服にしてから制服評議会を廃止するのよ」

 鞄から紙を取り出して鈴木に見せた。

「何だこの制服…… 一つも『萌』がない」

 紙には竹のマニフェストが書かれていた。竹の案では、女生徒の制服もスラックスにし、肌の露出を最小限にし、校内での恋愛を禁止するとしている。

「私は成績優秀者を優遇する歪んだ考え方に反対だわ」

「歪んだ制服だ…… 女性の魅力である腰から下のラインを何だと思っているんだ。だが、生地を薄くし、スキージャンプ競技のように制服の緩みについて、厳しく制限を設ければ、逆にスラックスの方がセクシーになる可能性もあるな……」

「万慈も歪んだ妄想を垂れ流さないでよ。いくら制服だって、そんなビッタビタのスラックス履くわけないでしょ」

 鈴木は首を激しく横に振る。

「女子という生き物は足を細く見せたい性質を持っているのだよ」

「それは男が押し付けた概念でしょ…… って、ちょっと、聞いてる?」

「そうとなったら、俺、風紀委員になって、毎朝、女子生徒のスラックスの緩み度をチェックするよ」

 周囲の女子がざわつき始める。

「セクハラがすぎるのよ、おバカ!」

 いい終わると同時に、宮藤は鈴木の頭を叩いた。

「痛い…… それは|隣人暴力(DV)では?」

 すると、扉が開き教師が入ってきた。

 多田羅が号令をかける。

「気をつけ!」

 礼をすると、一限目の英語の授業が始まった。



 英語の授業は退屈で、特に何もなく終わった。

 先生が教室を去ると、多田羅と宮藤、鈴木の三人は黒板の傍、備品を置いている机に集まった。

 多田羅はびっしり書かれた黒板を消している。

 鈴木は、その姿を間近で見ていた。

 つま先立ちになる時の、膝裏の筋の様子や、その息遣い。

 女性の姿というのはどうしてこう、俺の心を惹きつけるのだろう。鈴木はそんなことを考えていた。

「こら! 変態」

 そう言いながら、宮藤が鈴木を突く。

「万慈は、こっち」

 鈴木が、名残惜しげに宮藤のところにいくと、宮藤はチョークを見ながら言った。

「やっぱり。色チョークがなくなっちゃってる」

 構文を黒板に書く際に、色のチョークを多用するせいだった。

「朝、あんなにあったと思ったのに」

「次の授業選択じゃなかった?」

「万慈、チョーク取ってきてよ」

 鈴木は返事もせず、素早く教室を出て行った。

「ね、悪いから、私も行く」

 追いかけようとした多田羅を、宮藤は腕を取って引き止める。

益子(ましこ)ちゃん、これは万慈に任せておけば良いって」

「……」

 二人はそのまま準備をすると、移動先の教室へ移動した。




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