推定無罪
鈴木は、宮藤と多田羅しかいない教室で、話を始めた。
「まず言っておきたいのは、これから俺が言う『犯人』は法的に有罪となった訳ではないので、無罪だってこと。ただの教室でのお遊びなんだよね、どこまでいっても。だから気にしないで欲しい」
「万慈、もしかして私に言ってる?」
鈴木は首を横に振る。
「さあ、少しテンポをあげていこうか。竹がどうして今回の『犯人』としなかったか。陽春、の隣の席であり、一番封筒を取りやすい位置にいた。動機も朝口論になった『神部』を攻撃したい責める理由が欲しいと言うものがある。だから封筒を取って隠しても良かったが、俺の机の下に隠すことは出来ない。なぜなら、誰も目撃していないし、教室に一人になったことがないからだ」
宮藤が何となく納得した。
「今回の件は、万慈の机の下で見つかった、と言うのがポイントなのね?」
「クドウちゃんにしては勘がいい。そういうこと」
多田羅は真っ直ぐに鈴木の目を見ている。
「次は陽春霞ちゃん。フワッとした髪型が特徴的で、喋りもどこかフワッとしていて、春らしい雰囲気の……」
「万慈、脱線してるよ」
「陽春も、自分の机の中に封筒があるから『無くした』と偽証してどこかに隠すことが出来た。動機は、竹を困らせてやりたかったと言うことだろう。だが、竹と同じ理由で犯人ではない。彼女も俺の机の下に隠す機会がない」
鈴木の前の、小さなメモにある『陽春』の上にバツが書かれた。
「次に神部。神部は竹と朝から言い争っていた。動機は十分だが、流石に竹に近づこうとすれば警戒されたろう。そして彼も、俺の机の下に隠すことは難しい」
メモに、三つ目のバツが書かれた。
「次に青空だ。彼女は竹の陽春に対する態度にムカついて、竹に嫌がらせをする為、封筒を隠す、と言う動機が出来たが、封筒がなくなった後の話だ。仮にそれ以前から竹を憎く思っていたとしても、青空は同じく、この机の下に隠すタイミングがない」
「ふんふん」
宮藤が納得して首を縦に振る。
鈴木は四つ目のバツを書いた。
「クドウちゃんも以下同文」
「何が『以下同文』なのよ」
「話が長くて退屈するからだよ。クドウちゃんの場合は動機も薄いし」
「万慈の動機は、どうなのよ」
ニヤリ、と笑うと、
「俺は女子のスラックスには賛成派だ。だから動機はない」
と言い切った。そして、二つバツを追加した。
「益子も動機が……」
「ごめん、相田の話に行こう。ここで突然、相田くんが出てきたのは訳があるんだ。まず、今日の体育の時間だ。相田はあまり面識のない俺に話しかけてきて『封筒を探すな』と言ってきた。竹のマニフェストが気に食わないらしい」
「相田は成績悪いもん」
「いや、成績が良くてもあのマニフェストを良しとする人はあまりいないだろう。わざわざ俺に話してくるほど相田に強い『動機』があったと言うことだ」
宮藤はこれが犯人だ、と思って突っ込んでくる。
「そして、教室に一人になる機会が合ったと言うことね」
「昼休み、事情聴取した際、面白いことを聞いた。一人の男子生徒が、女子生徒が入る前の教室に入って行ったって」
「女子の制服にイタズラするとか、匂いを嗅ぐとか? そんなの変態じゃない…… それが相田だってこと?」
鈴木は誤解を解くように手を振った。
「ちょっと勘違いしないで、そう言う被害届けはないでしょ?」
「相田が教室で一人になったときに、万慈の机の下に封筒を貼ったんじゃないの?」
「クドウちゃん先走りすぎないでよ。そう。犯人が封筒を俺の机の下に貼ったタイミングは、体育の授業開始前から終わる前までだったと推定している」
「理由は?」
鈴木は、手を上げて手のひらを二人に見せるようにして制した。
「多田羅さん、具合でも悪い?」
「ううん、そんなことないよ」
「ごめん、もうすぐ終わるところだから我慢して。なぜ体育の授業の間だったかと言うと、今日の日直の業務に関わってる。朝から、ずっとチョークとかセロテープとか、ホチキスの芯だとか、あのテーブルを確認してたじゃない。あそこに変化があったんだよ。封筒は教室のセロテープで机に付いていた。だから、その時間なんだ」
「思い出した。万慈が、セロテープの台、ズレてるって言ってた」
「私聞いてない」
鈴木の表情が、悲しげなものに変わった。
「そう。あの時、多田羅さんは、真岡に呼ばれて職員室に行っていたからね」
「話が脱線しすぎよ。教室に一人で入ったのは相田。それで?」
「この話は、続きがあるんだ。神部の証言だけど、相田は入って、顔色を変えて出てきた。弁当もしっかり持ってね。相田が血相を変えていたから、何かあったのか、と聞いたらしいが、相田は何も言わなかった」
宮藤は首を傾げる。
「食いしん坊の相田は、体育の授業で腹が減っていた。早弁したかっただけだったんだ。女子がいない内に入って出てしまうつもりだった。だが、中で何者かと会った」
鈴木は多田羅を見つめていた。
「ちょっと、万慈、なんで益子を見つめ……」
「五時限目と六時限目の間、国語の準備室に行けなかったのは、俺は相田から話を聞き出しいたからなんだ」
多田羅が、鈴木の手を包み込むように握った。
「すごいよ鈴木くん。やっぱり私の見込んだ人だった」




