六時限目、古典
日直の多田羅が号令を掛けると、情報の授業が終わった。
多田羅と宮藤は六時限目、古典の担当教員から声を掛けられ、国語の準備室へプリントと返却するノートを取りに来るよう声をかけられた。
「鈴木くんは来てくれないの?」
鈴木は手を合わせて謝った。
「ごめん、急用が出来て」
「万慈は力がないから、どうせ役に立たないわよ」
「その言い方、酷い。鈴木くんだって傷ついちゃうんだから。ね?」
多田羅が振り返った時には鈴木はいなかった。
「……」
「本当に急用だったみたいね」
二人は国語の準備室へと向かった。
ノックをして、準備室に入ると、先生からノートとプリントを渡された。
宮藤が主にノートを、多田羅が持ちきれない分のノートとプリントを持った。
二人が教室の近くに来た時、廊下の角から鈴木と相田が現れた。
多田羅が、それを見て立ち止まった。
ぶつかりそうになって、宮藤は多田羅に声をかけた。
「どうかした?」
「なんでもない」
鈴木が近づいてくると、二人に言った。
「待って。重いだろうから、俺が扉を開けるよ」
宮藤はムクれて言う。
「重いだろうから、代わりに持つよ? じゃないの?」
「多田羅さん、それ持とうか?」
「ありがとう」
ノートを受け渡す時、手と手が触れる。
多田羅は手が触れたところで、手を止めてしまった。
鈴木はノートとプリントを引き受けられず、困ったように声を上げる。
「えっと、あの……」
「私が叩けないと思って、セクハラするんじゃないの。馬鹿万慈!」
いや、俺が手を動かさないんじゃない。鈴木は思った。彼女が俺の手に触れたまま、動かなくなったんだ、と言いたかった。
だが、言うまもなく、すぐに荷物を受け渡された。
「……」
三人は教室に入り、ノートを取りに来るよう呼びかける。
ぞろぞろと生徒が取りに来る。
最後に、ノートが一冊だけ残った。
多田羅がノートの名前を確認する。
「これ井神の分だ」
宮藤と鈴木が相槌をうった。
そのノートを教壇に残し、三人は席に戻ると、まもなく古典の担当教員が来て、授業が始まった。
午後の教室は暖かく、お弁当を食べお腹がいっぱいになっているせいもあって、居眠りしている生徒が目立っていた。
先生が、日直である多田羅に声をかける。
「ちょっと窓を開けて換気しよう。そっちの窓開けて」
教師は前の方の窓を、日直の多田羅が後ろの方の窓を開けた。
外は、教室ほど暖かくはない。
冷気の通り道から、寝ていた生徒が目を覚ます。
その間も、授業は淡々と進んでいった。
しばらくは、何事もなかった。
さらに授業が進んだ頃、風向きが変わったのか、突風が教室に吹き込んだ。
「うわっ」
「やだっ!」
プリントがバサバサと飛び、教科書、ノートが捲れる音がした。
「!」
日直に指示して、慌てて窓を閉めさせる。
窓を閉めて多田羅が席についた時、教室を見回し、先生が言った。
「おい、鈴木。鈴木万慈はどこに言った?」
先生の位置からは、鈴木が見えないのだ。
宮藤が隣の鈴木を見る。
鈴木はしゃがみ込んで、机の裏を見ている。
「万慈は机の下にいます」
「プリントでも落ちたか? 早く拾って、席につけ」
そう言うが、鈴木の反応がない。
「万慈、先生が」
宮藤の呼びかけにも、鈴木は応答しない。
教師が待ちきれなくなって、大きな声を出す。
「おい、いつまでやって……」
「あった!」
先生の声よりさらに大きい声だった。
鈴木は、そう言うと同時に立ち上がった。
手には封筒が握られている。
「おい、座れ。今何の時間だと思ってる? 授業中だぞ」
先生の言葉を無視して、封筒の中身を確認する。
生徒会と担任の真岡の印が押してある。
「間違いない。竹の推薦状が見つかったんですよ。俺の机の下で」
「……それは良かったな」
と、教師は呆れたように小さい声で答えた。
今度は、竹が立ち上がり、授業中にも関わらず、鈴木の席に行く。
「渡せ」
竹は強引に奪い取ると、制服の内ポケットに入れた。
「このクラスの生徒はどうして授業中、勝手に歩き回るんだ……」
教師はおでこに手を当てて、嘆き、俯いた。




