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ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』  作者: ヨシムラ


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70 魔王へ進化するのが既定路線

城塞都市の地下迷宮。

その最奥へと足を進めるほど、空気は湿り気を帯び、冷たさを増していく。

肌を撫でる冷気は刃のように鋭く、吸い込む呼吸すら重く、肺の奥に沈殿していく深層域。


そこで、私たちは出会ってしまった。

――世界一レアと名高い、メタルスライムに。


噂に聞いていた姿よりも、ずっと異様な存在だったのかもしれない。

鈍く光る銀色の体躯は、地下迷宮の薄闇を反射しながら、ぬらりと静止している。

ただそこにいるだけで、違和感が空間に染み出していた。


SSS級魔物。

とはいうものの、その実態は拍子抜けするほど奇妙だった。


攻撃値は、まさかの0。

こちらに向けられる殺気も、敵意も、警戒心すら感じられない。

世界を災厄に陥れるような禍々しさもなければ、討伐すれば信仰心が上がりそうな神々しさも、まったく無い。


ただ、そこにいるだけ。

害意も意味も持たない、異物。


つまり――

私が戦う理由は、ひとつも無い。


無駄な労力は切り捨てるべき。

そう判断した私は、呼び出していた【運命の弓】を静かに解除した。

パラパラ、と淡い光の粒子が崩れ落ち、空気へ溶けるように消えていく。


その様子を見ていた勇者と強斥候が、なぜか妙に前向きな、励ますような表情で近づいてきたのだった。


「三華月。諦めるのは早いんじゃないか? メタルスライム倒したら、お前の大好物の信仰心、ちょっとはアップするかもしれないぜ?」


「三華月様以外にメタルスライム狩れる人なんていないっすよ! ほら、“諦めたらそこで試合終了”ってやつっす!」


……私のこと、信仰心って言っておけば動く“お手軽聖女”扱いなのだろうか。

しかも、妥協まみれの勇者に励まされるとは。

正直、腹立たしいにも程がある。


そんな微妙で居心地の悪い空気が漂う中。

メタルスライムが、ふいにこちらを向いてきた。

逃げる気配は無い。一定の距離を保ちつつ、じぃっとこちらを観察している。


そして――。


≪三華月様。孤独な僕に、どなたか良い方をマッチングして頂けないでしょうか。どうかお願いします≫


奴が喋りかけてきたのである。


……婚活!?

“フリーな女子紹介して”とでも言いたげなノリで話しかけてくる魔物など、聞いたことがない。


そういうのは陽キャの仕事だ。

聖女の専門外である。

そもそもメタル系はメンカウント率が幻級。

同族など存在しない可能性の方が高い。

きっぱり断っても信仰心は減らないだろう。ここは、きちんと線を引くべきだ。


「あなたの仲間がどこにいるのか、私には分かりません。その要望には応えられません」


≪三華月様。そんな殺生な……どうか僕の婚活にご協力を……≫


「やはり婚活ですよね。結婚相手探しは聖女の業務ではありません。他を当たって下さい」


≪三華月様のお役に立ちますので、どうか……≫


……なんだ、この粘っこさは。

やけに押しが強い。


その時だった。

視界の端で、勇者がこちらを見ていた。

言葉にしがたい、なんとも微妙な表情。


《《痛い子?》》

とでも言いたげな視線。


――ああ、そうだった。

魔物の声が聞こえているのは、私だけである。


「三華月……メタルスライムに話しかけてるのか?」


「こういう時は、そっとしておくのがエチケットっすね……」


……もう聞こえないふりをするのが、一番平和なのかもしれない。


そう思い始めた、その瞬間。


ズゥン――。

空気が歪み、地下迷宮全体が軋むような感覚が走った。

肌がチリッと痺れる、強烈な魔力の波動。

薄闇が裂け、本日2体目となる『強欲の壺』が、ぬるりと姿を現してきた。


勇者と強斥候が即座に反応した。


「チッ……メタルスライム戦で疲れてる時に、強欲の壺とか……。いや俺の運気が最強なのは分かるが、もう無理だぜ……」


「戦闘らしい戦闘してませんけど……まあ確かに、疲労困憊なのは事実っすね……」


「三華月。メタルスライムが無理なら、強欲の壺の方を狩った方がまだマシなんじゃないのか?」


「何度も言いますけど、オーバーキルには気をつけて下さい」


……だから、私は狩る気がないと言っているのに。

どうして、こうも伝わらないのだろうか。


2人の声をさらりと無視し、メタルスライムへ視線を戻した――その瞬間。


真眼を使ってもいないのに。

勝手に、視界にステータス画面が展開されてきた。


――メタルスライム――

・クラス SSS

・HP 5

・攻撃 0

・防御 ∞

・速度 ∞

・回避 ∞

・三華月の眷属になった初期ボーナススキル:爆食

・進化ポイント:0


……は?


一拍。

脳が、ようやく異常事態を理解する。


いつ眷属にしたのよ、私。

しかも初期ボーナスって何なのだ。

スキル名――爆食。


捕食した相手を経験値へ変換し、自身に取り込む能力。

どう考えても、魔王候補向けのスキルである。


とはいうものの、スライムとはそういう存在だ。

進化し、魔王となり、街を築き、国家を支配する。

それがテンプレ。


ついさっきまで婚活に失敗していた個体が、突然その筆頭候補になるとは。

……妙に、そそられるではないか。


胸の内で膨れ上がる期待を抑えきれず、

私は軽く顎をしゃくって命じた。


「メタルスライム、GO。爆食を使って――

あの強欲の壺を狩って下さい。進化ポイントを稼ぐのです!」


≪承知致しました。スキル『爆食』発動≫


ピシュッ――!


空気が裂け、破裂するような鋭い音。

銀色の閃光が視界を貫き、次の瞬間には、もういない。


速い。

あまりにも速い。

意識で追う前に、現実が置き去りにされた。


気付けば、強欲の壺の背後に――“存在していた”。

移動ではない。最初からそこにあったかのような錯覚。


メタルスライムの身体が、ふわりと膨張すると、薄布のように広がり、壺を丸ごと包み込んでいく。


攻撃0。

それでも、S級防御の壺を狩れるのか――

疑念が浮かぶ暇すらなかった。


音が無い。

振動も無い。

世界が一瞬、呼吸を止めたかのような静寂。


ただ、メタルスライムが、ゆっくりと元の大きさへ縮んでいくだけ。


――これが、爆食の力なのだろうか。


背筋に冷たいものが走る。

それなのに、胸の奥はぞくりと昂ぶっていた。


「強欲の壺はどうなったのですか? あなたの胃袋にでも収まったのかしら?」


「三華月、もうそのくらいにしておけ……」


「……狩られたのは仕方ないっすけど、見てると胸がキュッとするっす……」


勇者と強斥候が、微妙な表情で制止してくるが、所詮、奴らはうんこだ。無視しておいて、問題なしだ。


ステータス画面へ視線を滑らせると…


――――スライム進化ポイント:10


……溜まっている。

冗談ではない。確かな数字。


おいおいおい……。

これ、想像以上にガチの“魔王コース”なのではなのいのかしら。

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