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ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』  作者: ヨシムラ


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209/212

冒険者狩り

1階層に続く長い回廊の中、魔物は最大で5体までしか姿を現さないという、奇妙な規則が存在している。今まさに、背中をこちらに向けて立つ魔導士の少女が、先ほど魔道を発動させて『炎弾』でスライムたちを瞬時に焼き尽くしたばかりだ。じゅっ、と粘液が弾ける音が小さく響き、床に残ったスライムの跡がうっすらと光を反射している。


その光景を、師匠として静かに見守っていたペンギンは、首を小さく縦に振り、満足そうな表情を浮かべながらこちらに視線を向けてきた。そして、まるで胸を張るかのように、天賀茶の素質について語り出すのである。


「三華月様。我が弟子、天賀茶の実力はいかほどでしょうか。私の見立てを申し上げますと、相当の素質の持ち主であると感じます。参賢者である私の後継者に値する者ではないかと愚考いたしますが、いかが思われますか?」


遥か昔、この世界を創ったとされる古代人が定めた『参賢者』の名。彼らはこの世界の秩序を守る存在である。最古のAIであるペンギンも、その一角を担う者だ。残りの二席は既に空席となり久しく、つまり彼こそが最後の参賢者であるというわけだ。


私の知る限りでは、先日バベルの塔で同行した機械少女も、能力的には十分だったはずだ。

そして、ペンギンの問いに対しては、表面上それらしく答えておけば問題はないだろう。


「私は魔導についての知識は乏しく、天賀茶の素質がどの程度なのか、彼女がペンギンさんの後継者になり得るかは、正直分かり兼ねます」


「なるほど、三華月様は少ない情報量の中では判断がつかないと。おっしゃる通り、正確な情報がなければ正しい判断は下せません。急ぐ旅ではありますが、天賀茶が放った超絶技巧について、少し説明させてください」


底なし沼に半歩踏み入れたかのような、ぞわりと胸の奥が冷たく震える感覚が走る。ふと目を上げると、ペンギンの顔は自慢げな悪代官のような笑みに変わっていた。桔梗屋と悪巧みを話す時にする、あの得意げな顔だ。


はじめから超絶技巧の話を語るつもりだったのかしら。ああ、これは嫌な話を聞かされる流れに巻き込まれたのだろう。知らぬ間に、ペンギンの掌の上で踊らされ、恐れていた事態に嵌められていたかもしれない。


最後の抵抗として、声を絞るように告げた。


「ペンギンさん。その超絶技巧についての説明は、正直、結構です」


「三華月様。諦めてください。もう引き返すことは出来ません! 私のスペシャルトークからは逃れられませんよ! さて、天賀茶が放った『炎弾』について説明しますと、これは『炎の爪』と『風の爪』の効果を融合させる必要があり、高度な技術力が求められるのです」


「それほど凄いことなのですか?」


「魔導とは、辺りに転がる石ころを崩さず、一つずつ数千層、場合によっては数万層にも繊細に積み上げるような作業です。天賀茶は、もしかすると天才なのかもしれません」


「うーん。私の知っている天才とは少し違いますね」


「三華月様の知る天才とは?」


「量産型の天才の話です。『初級魔術を撃ったら極限魔術と同等の効果が出た』とか、そんな話だったかと思います」


「ああ、なるほど。それなら私も知っています。魔力量が一般の数百倍あるとかいう奴ですね。三華月様、いくら能力値が高く、速い球を投げられたとしても、コントロールが定まらなければ意味はありません。要は、質の良い球を投げることが肝心だということです」


「その例えは、ちょっと……よく分かりません」


「ではもう一つ。戦いにおいては、数だけ揃えた烏合の衆よりも、高度な戦術を遂行できる少数精鋭部隊が勝利します」


「その例えも、少し分かりにくくありませんか?」


ペンギンは一体何の話をしているのかしら。

天賀茶の才能が恵まれていることは理解した。

この塔を攻略するためには、魔道士の存在が不可欠だと聞く。

弟子である少女の性格も素直で、何より扱いやすい――この先、快適に塔が攻略できるかもしれないか。


ここ最近、魔導士の塔に出現するスライムのクラスが引き上げられ、難易度が上がっていることは、塔を攻略する冒険者の間では周知の事実である。とはいうものの、安全装置が設置されているため、冒険者たちはこれまで通り自由に挑戦を続けられていた。


1階層の攻略を開始して、そろそろ1時間が経過したころだろうか。

ボス部屋となる重厚な扉の前には、まるで順番待ちをするかのように、3人の魔導士が待機していた。

その視線が、ぴたりと私に集中している。

街に入った直後は、未確認生命体のペンギンが話題を独占していたものの、どうやらもう飽きられたようだ。旬の話題とは時間の経過とともに色あせるもの――ペンギンフィーバーも例外ではなかったのだろう。

結局のところ、王道に戻るという法則がある。得体の知れぬペンギンよりも、鬼可愛い女子の方が魅力的であるのは当然の話である。


3人のうち、リーダーらしき魔導士が口を開いた。


「俺たちは傭兵だ」


「そうですか。傭兵の方々なのですね。私たちは急ぎますので、失礼します」


「ちょっと待て。ボス部屋にいるスライムは危険だ。知っての通り、魔物のクラスが上がっている。ここを突破するには、冒険者クラスD級以上の実力が必要だぜ」


「D級相当の実力ですか……」


「お前たちは冒険者クラス、どの程度なんだ?」


「私が登録しているのはF級です」


私は冒険者ギルドに登録はしているものの、依頼を受けていないため最低クラスを維持しているだけである。天賀茶も当然F級だ。ペンギンに至っては、冒険者登録すら不可能だろう。


足元にいたペンギンが、周囲に聞こえないよう念話で囁いてきた。


≪三華月様。音声データから分析した結果ですが、3人の魔導士は『冒険者狩り』の疑いがあります。クラスはC級程度のようです。つまり、私たちが初心者かどうかを確認していた可能性があります。視線を送っていたのは、十字架の施された聖衣から、高位の者かどうかを判断しかねていたためだと思われます≫


≪神に仕える職でないが故に、私が最高位の聖女であることを知らなかったわけですか≫

≪はい。決して、可愛い聖女だから凝視していたわけではありません≫


≪…。ならば、天罰を与えなければならないようですね≫


≪…≫


ペンギンは過去の言動から私の思考を読み取っているのだろうか。

まー、そのことはどうでもいい。問題は、この3人が本当に冒険者狩りをしているかどうかだ。

天賀茶も不穏な空気を察したのか、こちらを不安そうに見上げている。

同族を殺す者たちを見逃すことなど、当然できない。


3人の魔導士は、低く響く声でさらに威圧的に言葉を続けてきた。


「運良くここまでは来れたとしても、このボス部屋は運だけじゃ攻略できない。今回は特別サービスだ――無償で俺たちが同行してやろう」


「それでは、厚意に甘えさせてもらいます」


こうして、冒険者狩りの疑いがかかっている3人と共に、中ボス攻略を行うことになったのだった。

扉の前には、じわりと緊張の空気が漂い、わずかに湿った石の匂いと、魔力の気配が絡み合っている。ゴトッ、と床に響く足音のたびに、塔の重圧が体に染み入るのを感じた。

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