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ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』  作者: ヨシムラ


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206/212

説教好きの駄剣

さきほどまで召喚されていた100以上の死霊騎馬隊が突撃し、蹄で路面を叩き割らんばかりの勢いで駆け抜けていたためか。

その余韻として、メインストリート一帯には粉塵と砂埃が薄くたゆたい、陽光に照らされて細かく揺らめいていた。

騒然としていた海底都市にも、ようやく静かな呼吸が戻りつつある――そんな空気が漂っている。


特攻してきた死霊騎士達は、月の加護でかつてないほど高まった私の神聖力に触れた瞬間、泡が弾けるように浄化され、跡形もなく掻き消えてしまったのだ。

その上空、およそ5mほどをふわりと漂いながら号令を飛ばしていた“魔剣”は、突然乱入してきた勇者と強斥候の一撃で落下し、そのまま踏みつけられている。

金属の表面にはべこべこと歪んだ凹みが点々と刻まれ、さきほどまで威厳ぶっていた姿が嘘のような無残さで地面に転がっていた。


魔剣との戦いは、始まる前から私の勝利で終わることが決まっている戦いだった。というものの、こうして現実に決着の予兆が近づくと、空気の色まで変わる気がする。

今、目の前では勇者達に踏みつけられた魔剣が、尊大な声のまま怒鳴り散らし続けていた。


『おい。お前達。目上の立場なる存在を踏み付けるとはどういうことだ!』


「目上の立場だと。お前、何を言ってんだ?」


「すません。僕も何を言っているのか分からないっす!」


『二度と言わないからよく聞け。我は支配者だ。劣等種族共、立場をわきまえろと言っている!』


「いやいや。立場が分かってないのはお前のほうだろ!」


「僕達に踏み付けられて圧倒的に不利な立場にいるの、理解できてないんすか!」


『お前達。我の言葉が分からいのか。何故、簡単なことが出来ないのだ!』


「駄目だ。こいつ、駄目な上司が口にする言葉ばっか連呼してやがるぞ」


「分かるっす。自分が優秀だと思い込んでるタイプの馬鹿ってやつっすね」


『お前達から意見は求めてない。とにかく我の言うことを聞け!』


「まさかのまさかだぜ。俺より駄目な奴がここにいるとはな」


「僕達より下の底辺に暮らす住人が、この世界にいたとは驚きっすね」


勇者と強斥候は、なぜかしみじみと頷き合っている。

意外や意外、彼らは自分達が“うんこ”であることを自覚していたのか。

たまに『俺は世界を救う勇者だ』と血迷った発言をしていたが、心のどこかで“そうじゃない”と理解していたのだろうか。

いや、それは考えすぎかもしれない。


というものの、そもそも勇者達について真面目に考えることそのものが無意味だった。

彼らに関する不要な記憶は、私の脳内メモリの片隅で廃棄処分扱いとしておこう。

今の最優先は、神託で命じられた“魔剣の完全破壊”である。

二度と復活できないよう、全スキルを含めて根こそぎ粉砕してしまうつもりだった。


私がゆっくりと近づいた気配を察したのか、踏みつけられた魔剣が怒りの矛先をこちらに向けてくる。


『そこの聖女。この劣等動物である二人をなんとかしろ!』


「誰が劣等動物だ。俺はいずれ聖剣を持って世界を救う勇者なんだぜ。雑魚剣のくせに生意気なこと言ってんじゃねーぞ!」


「残念なお知らせっす。三華月様は僕達のパーティメンバーなんす。つまり聖女様と僕達は数々の試練を乗り越えた、硬い絆で結ばれているんすよ!」


『聖女。我の命令を聞け。お前を世界の王にしてやる!』


「この喋る魔剣、世の中のことが全く分かってないようだな」


「そうっすね」


「魔剣。お前の力なんぞ必要なくても、世界の王になる程度、楽勝なんだよ!」



「僕達は史上最強パーティなんすよ!」


魔剣は、どうして私の命令をきくと思っているのかしら。

その思考回路が、どうにも理解できない。


私を世界の王にしてやる、などと大仰なことを口にしていたが、あれは奴なりの必死なへりくだりだったのか。

それとも、己の立場をまったく理解していないだけなのかしら。


勇者達の魔剣に対する評価は、おそらく至極まっとうである。

というものの、さきほど交わされていた会話の中には、どうしても看過できない違和感が残っていた。


それは、強斥候が、あまりにも当然のように――

私を“パーティメンバー”だと宣言していた件である。


私の記憶が確かなら、203話で勇者達の申し出により、パーティは解消されたはずだ。

あれはいったい、何だったのかしら。

私は彼等の仲間ではない。

共に地獄のような修羅場をくぐり抜けた覚えもない。

肩を並べ、背中を預けた記憶など、どこにも存在しない。


当然だ。

絆など、あるはずがないだろ!


その感情を裏付けるように、苛立ちを露わにした魔剣の怒声と、勇者達の軽口混じりの言い争いが、空気をざらつかせながら響き渡っていた。


「お前達。我を誰だと思っているのだ!」


一瞬、周囲の空気が張り詰める。

魔剣の放つ圧が、じわりと肌を撫でた。


「駄目な魔剣なんだろ?」


間髪入れず、勇者が即答する。


「使えない魔剣っすよ」


強斥候も、悪びれる様子ひとつなく続けた。


「おい。今、我のことを駄目で使えないと言ったのか!」


カッ、と魔剣が怒気を爆発させる。


「お前、本当に俺様キャラの駄目上司みたいな奴だな」


勇者は肩をすくめる。


「説教好きで嫌われ者の駄目な奴っすね」


追い打ちのような一言。

魔剣の気配が、ギリギリと軋む。


「お前達。絶対に許さんぞ!」


怒声が響くが、誰も怯まない。


「べつに許してなんかいらないぜ。だが――」


勇者は一拍置き、にやりと笑った。


「俺達の大切なパーティメンバーである“悪の聖女様”は、お前を許さないと思うぜ。俺がいうのもなんだが、覚悟しろ」


「三華月様の登場っすよ。どうぞ、この駄剣を受け取ってください」


強斥候が、ぐい、と足元の魔剣を踏みつけたまま屈み、拾い上げる。

ジャリ、と金属が擦れる音が耳に残る。


「馬鹿め。我は破壊されても復活する。浄化された死霊騎士達とは別次元に君臨する存在なのだ!」


吠える魔剣を、強斥候はそのままこちらへ差し出してきた。


“悪の聖女”という呼び方が、少しだけ引っかかる。

というものの、今は追及する場面ではないだろう。


それにしても――

この救いようのない性格をした駄剣は、本気で破壊されても復活できると信じているのかしら。


残念だが。

あなたの行き先は、もう決まっている。


地獄行きは確定しているのだ。


私は、差し出された喋る魔剣をゆっくりと握り込んだ。

ひんやりとした感触。

同時に、内部から伝わってくる不快な鼓動。


意識を研ぎ澄まし、静かにスキルを起動する。


―――――――――――――SKILL_VIRUSを発動させる。


ビリッ、と空気が裂けるように震えた。

魔剣の内部で、何かが悲鳴を上げる。

ギィィ、と歪む音。

光が脈動し、視界の端で世界が揺らぐ。


神託が降りる。

静かに、しかし確実に。

私の内側で、信仰心が熱を帯びながら上昇していくのを感じていた。


 

————



海底都市でのイベントをすべて終え、私はバベルの塔へと戻ってきていた。

塔の内部には淡い光が満ち、静寂が支配している。


その中央に、機械少女が立っていた。

無機質でありながら、どこか生き物めいた気配を纏っている。


勇者達はすでに地上世界へと帰還済みだ。

この世界に侵入してきた『ミミック達』の処分も完了したらしい。

つまり――私が、ここに留まる理由は、もう無いということだ。


機械少女は、完全体となるために、別の世界へ散らばった姉妹機を探す旅に出るつもりでいるようだった。


「三華月様。私は残っている姉妹機を探す旅に出ようと思います」


「遥か昔、万能の種族によって、その機体を分けられてしまった姉妹機のことですか」


「はい、三華月様。必ず完全体となって戻ってきます」


「完全体になる必要があるということですか」


「もちろんです」


そこで、機械少女は一瞬、言葉を切り――

そして、はっきりと告げた。


「なぜなら私は、三華月様の“最強の配下”ですから」


機械少女は、いつもとは違う表情を浮かべていた。

どこか邪悪で、艶やかで――

それでいて、確かな忠誠を感じさせる笑みだった。


 


――――――次回から新章です

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