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ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』  作者: ヨシムラ


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205/212

勇者達参戦

ここは、機械少女が用意していたイベント会場――水深100mに広がる海底都市である。

2階建ての建物が端正に並び、その中心を貫く大通りは、遠くにそびえるタワービルへと真っ直ぐ伸びていた。その静まり返った街並みに、死霊の馬が地を踏み鳴らす乾いた音だけが、低くくぐもって響いてくる。


大通りの奥から迫ってくるのは、神託によって討伐対象となった“魔剣”が召喚した死霊騎馬隊であった。

陣形は乱れひとつなく、槍先を揃えてこちらへ突撃を開始している。砂煙――いや、海底の微細な粒子が巻き上がり、沈黙していた世界に濁った靄が走ったかのようだった。


その数、およそ100騎以上。

そのうちS級の個体が15騎。他もすべてA級以上の実力者揃い。

地鳴りのような振動が足元の地面から伝わり、周囲の水を通じて空気ごと揺らしてくる。


死霊騎馬隊は、敵陣の一角を切り崩すため火力を一点に集中させる、密集突撃陣形を敷いていた。それが、彼らが出した最適解なのだろう、……まったくもって、やれやれである。


ここが神の加護の届かない迷宮内だったならば、いくら私でも多少は手こずっていたのかもしれない。

けれど今は違う。死霊騎士達が接近してきた影響なのだろうか。海中越しに届く月の加護と、私の内に眠る聖女の力がシンクロし、かつて感じたことのないほどの神聖力が静かに、しかし激しく高まり始めていた。


体の奥から、光の粒子がふわりと漏れ出していく。

後光と呼ぶにはあまりに淡く、しかし確かに強い光。私の体内に収まりきらない神聖力が滲み、周囲へこぼれ出していたのだった。


これほどの神聖力があるのなら、『無敵時間』――静止した時間の中で殲滅する必要すらないだろう。

死霊騎士達は、ただ近づくだけで浄化されてしまうに決まっている。


今の私からすると、S級の死霊相手でもE級、いや村人相当のF級を相手にしている感覚のようなもの。

死霊騎士団を指揮する魔剣については状況を理解できていない様子で、召喚していた純白の翼竜が姿を消したことを“勝利”と勘違いしているらしい。海底にこだまするように、ゲラゲラと下品な笑い声を響かせてきた。


『ガハハハア。聖女。お前が召喚した純白の翼竜とやら、どこへ行ったのだ。切り札を失ったお前はもう終わりだな!』


純白の翼竜を切り札と思い込んでいたのだろう。

確かに能力だけ見ればS級超えの存在であったのかもしれない。しかし実のところ、ただのポンコツであるのが真実であり、強制送還してもらっただけだ。そう、不安要素を排除したにすぎない。


あなた達は私の手で破壊するつもりでいたのだから、問題などあるはずもない。


さて、突撃し続ける死霊騎馬隊だが――

陣形の最先端に位置する最強戦力、ランスロット卿が、3mを超える槍を構え、私へ狙いを定めていた。突きの動作へ移り、あと一息でゼロ距離という地点まで迫ってきた、その瞬間である。


私から溢れ続けていた神聖力に、とうとう触れたのだろう。

ランスロット卿の全身が、光の炎をまとって燃え上がった。


振りかぶっていた槍を突き出そうとしていた、その最中だった。

だが次の瞬間には、光に焼かれ、跡形もなく消えていく。

私へ攻撃が届くより先に、浄化の炎が死霊騎士を灰に変えてしまったのだ。


ランスロット卿に続き、濁流のように押し寄せてくる100騎以上の騎馬隊も突撃を止めない。

だが、私から漏れ出す光粒子はさらに広がっていき、まるで地獄の釜へ飛び込むかのように、次々と死霊たちは神聖力に触れては、光の炎に焼かれ、浄化されていった。


騎士達の数は、目に見える速度で減っていく。

死霊にとって聖女は最悪の相性、というものの……どうやら“最悪”どころではないらしい。私という存在は、奴らにとって無敵すぎるようだ。


魔剣も、まさかの事態に動揺を隠せていなかった。

死霊達が一切のダメージを与えることなく消滅していく光景を前に、声が震えていた。


『何だ。なんだとー。我の最強の円卓の騎士達が歯が立たないだなんて…』


さらに言えば、魔剣が組み上げた“無限のスキーム”は発動していない。

浄化された死霊は復活できず、輪廻へ戻る余地すらないからだ。


砂煙――いや光の残滓が漂う余韻の中、騎馬隊の蹄音は完全に消え、静寂がゆっくりと戻りつつあった。

復活・召喚用の魔法陣は依然として光を放ち稼働しているものの、新たな影が姿を見せる気配はない。


異変に気づいたのだろう。

魔剣が荒れ狂うような怒声を放つ。


『どうして我が無限の死霊騎士が復活しないのだ。なにが起きているのだ。聖女。お前、何をしたのだ!』


いつものごとく、安定の“上から目線”。

というものの、その響きにはかすかな震えが混じっていた。

眼前で広がる魔法陣は、沈黙した湖面のようにぴくりとも揺れない。

これでよく人に質問できるものだと呆れつつ──冥途の土産くらいなら教えてあげてもいいかと、妙な慈悲心が芽生えていた。


「いいでしょう。死霊騎士達が復活しない理由が分からないようなので、教えて差し上げましょう」


「聖女。言葉遣いには気を付けろ。我はお前にへりくだっているのではないかと思うなよ。我はお前に命令しているのだ。我は絶対なる支配者。我に逆らうことなど許されないと知れ!」


「はいはい。そうですか。それでは理由を言いますと──死霊騎馬達は浄化されてしまったのです」


「浄化だと?」


「けがれが取れ、あるべき姿へ戻っただけのことです」


「どういうことだ。分かるように教えんか!」


「浄化されたことで、円卓の騎士達は“生者でも死霊でもない、本来の存在”へ戻りました。つまり──死霊でなくなった以上、召喚は不可能。あなたの騎士達は消滅しました」


「我の軍勢が……消えてしまった、だと……」


「はい。魔剣さん。観念してください。これよりあなたを、ぶち殺して差し上げます」


「観念だと…。いいだろう、聖女。お前の言うとおり、我は行動を改めてやろう」


行動を改めてやろう……だと?

何を言っているのかしら。

というものの、どう聞いても命乞いだ。

しかも上から目線のまま翻訳した結果が“行動を改めてやろう”なのか。クセの強い変換方式である。


しかし、すでに魔剣破壊の『神託』は降りている。

逃がすなんて絶対にあり得ない。

最後に魔剣へ【SKILL_VIRUS】を叩き込めばクエストは終わる──そう判断した刹那。


気配を断って動いていたのだろう。

物陰から飛び出す巨大な影。勇者であった。


彼は雄叫びを上げながら、一直線に魔剣へ突っ込んでくる。


「覚悟しろ、魔剣! 俺がお前を撃ち落としてやるぜ!」


背丈は180cmをゆうに超え、岩のような体躯。

その勇者が、大剣を両手で構えたまま跳躍する。

地面を砕く勢いの踏み込みから、一気に宙へ──その高さは、軽く5mに届いていた。


そもそもこのポンコツ、そんな跳躍力があったのか問題なのだが……珍しい瞬間を見てしまった。


魔剣はまるで予期していなかったのだろう。

空中で完全に硬直し、反応すらできてない。

大剣の軌道は鋭い光の線となり──そのまま魔剣を“へし折るように”撃ち落とした。


甲高い、どこか間抜けな悲鳴が響き渡る。

魔剣は地面へ叩きつけられ、火花めいて砂が舞った。

落下地点には、強斥候がドヤ顔で待機している。


逃げ道を読んでいたのかしら。

というものの、彼は迷いなく鎖を投げ、その動きは妙に手慣れていた。

鎖は生き物のように魔剣へ絡みつく。


不可解ながら、勇者と強斥候の連携は驚くほど完璧。

そして勇者が着地するや否や──二人は謎めいた“怪文章”を朗読し始める。


「おい、魔剣。調子にのってんじゃねーぞ!」


「僕達の仲間への侮辱は許さないっす!」


「もうお前は終わっているんだよ!」


「口の聞き方には気を付けろっす!」


「何が無限だ。全然たいしたことなかったな!」


「所詮、僕達からすると雑魚だったってことっすよ!」


「身の程をわきまえろ。このクソ雑魚が!」


「三華月様に調子をこいた償いは受けてもらうっす!」


完全に形勢はこちらへ傾いていた。

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