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ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』  作者: ヨシムラ


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200/214

200 世界の歪みの正体

タワービルへ向かい、走り始めてからおよそ5分が経過しつつある頃だった。


――“ギィィィィッ”。


耳を引き裂くような金属音が、正面から一直線に迫ってくる。

地を這うように低空を滑走しながら、魔剣が剣先をこちらへ向けて突進してきているのが見えた。空気を裂く圧が、視界越しにもはっきりと伝わってくる。


速度は時速100km。

死霊王が創生し、機械少女が破壊を依頼してきたという問題の魔剣だ。その所有者――塔の反逆者を名乗る人物の姿は、どこにも見当たらない。遠隔操作しているのか。それとも、別の意図が隠されているのかしら。


とはいうものの、状況は単純だ。

ここで破壊しないという選択肢は、最初から存在していない。


迎撃態勢を整えるため足を止め、勇者たちに隠れるよう声をかけようと振り返った――その瞬間。


そこにいるはずの2人の姿が、影も形もなく消えていた。


視界の端。

建物の陰から、ひょこっと顔だけを覗かせ、こちらへ警告の合図を送ってきている。


「三華月。正面から、何か危険な物体が接近してきているぞ」


「あきらかに三華月様を狙っているっす」


「ほらな。邪悪な性格の聖女には、おかしな敵が絶対寄ってくるんだよな」


「定番の流れ過ぎて、逆に驚くっすよ」


「分かってるとは思うが、俺達のことは気にしながら迎撃頼むぜ」


「僕達が三華月様頼みであることを忘れないように戦って下さい」


……どうやら、私よりも早く異変に気づいていたらしい。

彼らの危機回避能力は確かに突出している。勇敢な属性の勇者かどうかは甚だ疑問だが、自分たちが足手まといであるという自覚があるぶん、判断だけは異様に速い。


ここは、うんこ達の予想どおり、私が単独で対処する流れとなる。


タワービル側へ向き直ると、魔剣はすでに50mの距離まで迫っていた。私の喉元へ剣先を突き立てる算段なのか。狙いは分かりやすい。


時速100km。

一般的には十分すぎる速度だが、私にとっては脅威と呼ぶには全く足りない。回避するだけなら造作もない。だが――ここは、あえて。


拳を合わせ、正面から粉砕して差し上げましょう。


“キィン――”


間合いが30mほどに詰まった瞬間だった。

魔剣が急激に速度を落とし、まるでドリフトするかのように“キュルッ”と進路を変えてみせる。私がカウンターを狙っていることに、すでに気づいているのか。


魔剣は剣先を地面へ下ろしつつ減速し、“ザザッ”と火花のような白いしぶきを散らすと、そのまま10mほどの距離を保ち、円を描くように周回しつつ、ぴたりと停止した。


足止めのつもりなのかしら。

とはいうものの、距離を取るというのなら、それなりの対処をしてみせるまでだ。


私は運命の弓を召喚しようと意識を切り替えた――その時である。


魔剣の剣先が向く道路上に、“バチバチッ”と音を立てながら魔法陣が描かれ始めた。召喚魔法。魔方陣の中心から、人の気配が濃く湧き上がってくる。


海面下から潜水艦が“ぐわり”と浮上してくるかのように、黒髪の青年がせり上がるように姿を現したきた。身長は標準よりやや低め。黒髪で、特別派手な容姿でもない。だが、まとわりつくような薄暗い気配が、否応なく目を引く。


召喚が完了するや否や、青年は浮いていた魔剣をひょいと掴み、少し悪ぶった声色で名乗りを上げてきた。


「俺が塔の反逆者。魔剣グラムの所有者だ!」


「私は三華月と言います。あなたの討伐と、その魔剣の破壊を依頼されてここへ来ました」


薄く立ちこめていた霧が、ゆらりと揺れ、割れていく。

ぴん、と塔内部の空気が張りつめ、肌に刺さるような冷気が走っていた。


青年は肩をすくめ、くつ、と乾いた笑いを漏らす。


「俺の討伐だと? いやいや、まったく馬鹿げてるぜ。どうして俺が討伐されなきゃいけねぇんだよ」


「討伐理由……ですか。それは、あなたが反逆者だからではありませんか」


「たったそれだけでかよ。やれやれ、雑な理由だなぁ」


ひゅう、と塔の奥から風が駆け抜けると、足元の砂がこすれ、しゃり、と乾いた音を立てていた。


私は静かに首を傾げ、告げていく。


「これはバベルの塔の管理者から下された正式判断です。とはいうものの……諦めて討伐されて下さい」


「その前に話を聞けって! 俺は、この《《歪んだ世界》》――バベルの塔を変革したいだけなんだ!」


「世界を……変革なさるのですか」


「そうだ。俺は今、“死亡ルート”に乗ってるんだよ。いわゆる、時間が巻き戻った俺が、生き残るために頑張りますってやつだ!」


青年の瞳がぎらりと燃え、胸の奥で何かがゴウッと燃え上がっているのが伝わってくる。


(……ああ、そういう物語のやつなのか)


物語の主人公に殺され、理由もなく数年前に巻き戻り、自分だけが知っている歴史を武器にフラグを折りまくる量産型の転生ストーリー。

歴史が少しずつ変わっていく謎はさておき、最大のミステリーは、なぜかハーレムだけが着実に増え、初期ヒロインが自然消滅していく点だ。


やれやれ、面倒なことだ。

とはいうものの、ここは一応、話を聞いておくべきところか。


私は軽く息を吸い直し、問いを投げた。


「あなたが言う“歪んだ世界”について質問させて下さい。私の見た限り、バベルの塔には魔物も見当たりませんし……平和な世界だと思えます」


「聖女……つまりお前は、この世界が歪んでないと言うのか? 俺が言いたいのは、まさにそれだ!」


「まさにそれ……なのですか?」


「そうだ! この世界の連中は完全に平和ボケしてるんだよ!」


青年が勢いよく身を乗り出してくと、空気がビリリと震え、塔の壁がかすかにゴウンと鳴り、不穏な振動が足元から伝わってきていた。


平和ボケ。

争いが起きるはずがないと信じ、現状を正しく見ようとしないこと。もしそれが事実なら、バベルの塔は危機の直前にあるということなのか。


「反逆者さん。確認させて下さい」


「俺に確認? いいぜ、聞いてやろう」


「外から見る限り平和に見えるバベルの塔に……裏の姿があるのでしょうか」


「裏? おい、急に分かりにくいぞ」


「あ、失礼しました。では……言い換えます。バベルの塔には〈平和を乱そうとする者〉が存在し、いつ争いが起きてもおかしくない状態になっているのでは、ということです」


「なるほど。そういうことか。平和を乱す奴の存在を知りたいんだな」


「はい。平和を乱す者です」


青年は腕を組み、ふん、と鼻を鳴らした。


「そうだな……そいつは俺だろうな」


「……そうでしたか。あなたでしたか」


「俺が反逆者であり、変革者だからな!」


「では、バベルの塔の平和を乱すあなたが《《世界の歪み》》だとすれば……その歪みは、あなた自身ということになりませんか」


「は? どういう意味だ。俺が世界の歪み……なのか?」


「はい。あなたです。あなたこそが、平和を乱す歪みです」


「そう……だったのか。俺が歪み……だったのか?」


青年の表情が、ぴたりと固まる。

口元がわなわなと震え、思考が追いついていないのが手に取るように分かる。


「つまり、“世界の歪みを正す”あなたは……自分自身を正そうとしていることになりませんか?」


「俺が……俺を正す? おいおい、話がややこしくないか……?」


「はい。整合していません」


青年はがくりと肩を落とし、その場で完全に固まってしまった。

先ほどまでの熱気は消え失せ、ぽかんとした表情のまま口を開閉している。


「俺は……歪んだ世界を変革する者……だったはずだろ。何が何だか分からなくなってきたぞ……」


不自然な理屈と、矛盾だらけの主張。

どうにも騙されやすい性質なのか、青年はみるみる混乱していく。その背後で――。


バンッ。


重たい足音が、空気を震わせた。

風がすぱっと斬られたように揺れ、濃密な気配が一気に迫っていく。


「その聖女の言葉に惑わされるな! 我こそが正義! 我の言葉を信じよ!!」


青年の手に握られた魔剣が、上から目線の口調で怒鳴りつけてくる。

やはり、この魔剣も喋るらしい。

その言葉よりも、魔槍と同様、どうしようもなく駄目な性格をしていることだけは、嫌というほど伝わってきていた。

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