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ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』  作者: ヨシムラ


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20/222

20 (外伝)数年前に私がした行為について

(過去に遡る)


私が“聖女”として名を与えられ、異界の神への絶対的な信仰を旗印に掲げ、この世界を混沌の底へと押し沈めようと蠢く哀れな雑魚どもを、一体ずつ、順番に、粛清して回っていた頃の話である。


ある日、何の前触れもなく、神託が降りてきた。


――――――――――

地上世界の覇権を握ろうと画策する機械兵(ゴーレム)達の野望を阻止せよ


YES_MAIN_GOD


承知しました。我が至高の主よ


即答だった。疑念も逡巡も存在しない。それが、聖女という役割なのだろう。


覇権、か。

どの種族にも、己の器を理解できぬ愚か者は必ず湧くのだろう。

とはいうものの、そうした愚か者たちが蠢いてくれるおかげで、私の信仰心は、実に心地よく肥えていくのだ。


世界という舞台は、つくづくよくできている。


野望を抱いた末に滅びゆく未来など、私にとっては酒の肴にもならぬ。――それほど、見慣れた光景だったのだ。


————


帝都の南方。


一年を通して、雲ひとつ影を落とさぬ灼熱の砂漠が広がっていた。

中央部では常時100度を超え、空気は乾ききった獣の喉よりも荒み切っている。


昼になれば、地表の砂は“じゅうっ”と音を立てそうなほど焼け、うっかり素肌で触れれば、そのまま黒く焦げ落ちるだろう。

歩くという行為そのものが、死と肩を並べる世界である。


その砂漠のど真ん中。

地底深く、人類史上でも“最凶”と恐れられた巨大迷宮が、口を開けて私を待ち受けていた。


最深部には、“異世界へ通じる門がある”――

そんな与太話めいた伝承が囁かれていたものの、神託はそれを事実として断じていた。


だから、私は迷うことなく踏み込んでいく。

人類として、初めて。

迷宮の最下層。

濃密な魔力の澱が渦を巻く空間で、私は異世界へと続く扉に手をかけ――ギィ、と音を立てて押し開いた。


————


そこは、機械兵達の“小さな世界”だった。


文明水準は、かつて地上世界の古代人が築いた超文明に、肉薄している。

とはいうものの、その世界の息吹は、すでに終わりかけていた。


空気は腐敗し、吸い込むだけで肺が溶けるような錯覚に襲われていく。

大地は焼け爛れ、海はどす黒い泡をぶくぶくと吐き出しており、空の光は濁り、風は死臭を運んでくる。

生命と呼べるものは――1秒たりとも、存在できない。


ここは、“寿命を越えた屍の世界”。


進みすぎた文明は、世界そのもののキャパシティを完全に超過していた。

その末路が、この光景。


機械兵達が延命できていたのは、ただひとつ――

彼らが“機械だから”に過ぎない。


世界が崩壊していく未来を冷静に理解していた彼らは、生存のために“脱出”という道を選んだのだろう。

そして、その計画の中核に据えられていたのが――

一部の機体が、人類に代わって“地上世界を支配する”という案であった。


あまりにも、ふざけている。

だが、こうした不穏で傲慢な野望ほど、私の信仰心を高揚させる材料はない。


――ありがとう、機械兵達よ。

実に立派な供物だ。


————


かくして、“vs全機械兵”の戦端が開かれた。


異世界である以上、私の力の源たる『月の加護』は届かないため、全力には、ほど遠いものの、機械兵達の平均戦闘力はB級相当。

私からすると、数だけが多く、耐久性だけが無駄に高い――ただそれだけの存在であった。


私にとっては、玩具に等しかった。

“てこずる”などという言葉を使う余地すら、最初から存在しない。


私は慈悲深い聖女ではない。

滅びる世界なら、最後にトドメを刺してやる方が、よほど慈悲深い――そう、確信していた。


――その直後までは。


掃討戦を開始した頃、突如として、機械兵達が、白旗を上げたのである。


降伏。

全面降伏。


敵前逃亡も同然の無様さだが、問題はそこではない。


――――――降伏したことで、神託が『完了扱い』になってしまったのであった。


胸に落ちてきた神意は、驚くほど軽く、拍子抜けするほど、薄い。


見込んでいた信仰心の上昇値は、あまりにも低くなってしまったのだ。

期待を裏切られた怒りと、報われなかった渇望が、血流となって全身を駆け巡っていく。


私は……どこで判断を誤ったのか。

そう考えかけた、その刹那。


機械兵達の世界が――崩れ始めた。


地が裂け、天が震え、黒く濁った海が泡立ち、世界そのものが、ずるり、と底へ沈み込み始めていく。


おそらく、私が戦闘で撒き散らした“運命の矢”が、崩壊を早めたのだろう。


残された機械兵達を救う方法は、ひとつしかない。

それは地上世界へ、送り出すこと。


とはいうものの、彼らは地上世界からすれば“外来種”のような存在であり、危険でしかない。

ゆえに私は、絶対条件をひとつだけ課すことにした。


「地上世界の生態系を破壊しないこと」


それさえ守るならば、地上世界へ受け入れてあげましょう、と。

世界のゴミ箱から拾い上げる行為としては、十分に温情深かったのかもしれない。


——————


――そして、数年が経過した。


あの機械兵達が、葭ヶ谷亜里亜の屋敷で“不穏な計画”を進めている――そんな報告が、私の元へ舞い込んできたのである。


私との約束。

“生態系を壊さないこと”。


それを破ったのなら、神託が再び降りるのは確実である。

討伐対象として、正式に認定されるということ。


異世界で取り損ねた信仰心を、取り返す時が――

ようやく、巡ってきた。


私はひとつ、長く息を吐き、目を細め、ゆっくりと微笑んでいた。


――さて。

神罰の時間だ。


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