表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

199/200

199 ポイ捨てについて

ここは水深100mの海底に広がる都市。

浮かび上がってきている立体フォログラム映像からの情報によると、街は10km四方の大きさがあり、中央にはタワービルが建っている。

勇者と強斥候を仲間にした私は、参加しているイベントで、魔王軍公爵側の陣営に配置されていた。

勝利条件は、タワービル内にいるという魔王軍公爵が倒されないように守りぬくこと、都市の治安指数が100になるまでに、魔剣を持っているバベルの塔の反逆者を倒すこととなる。

目の前では、勇者と強斥候が機嫌良くハイタッチをしている姿があった。

今しがた、反逆者が招き入れたA級冒険者の一部となる5人に勝利し、2人で互いを祝いながら交わす会話が聞こえてくる。



「A級冒険者と言っても、思っていたより手応えが無い連中だったな」

「そうっすね。もっと手こずるかもしれないなと思っていたっすよ」

「そうだな。今更だけど、肩透かしにあったような気分だぜ」

「A級冒険者と聞いていたせいか、警戒し過ぎていったすよ」

「俺達。結構、無敵なんじゃないのか」

「どうなんでしょう。僕が思うには超無敵なんじゃないでしょうか」

「ククク。三華月の名前を聞いた時の奴等の慌てようは傑作だったな」

「そうそう。強い者には弱いって、まさに悪党属性そのままっす」

「勇者が勝つのは世界の自然法則みたいなものだからな」

「でも僕達、魔王公爵側の陣営に配置されているんすよ」

「まぁそれは、俺達の仲間に三華月がいるしな。魔王軍側に配置されたのは仕方がないことなんじゃないのか」

「そうっすね。納得です」

「とにかくだ。三華月。この後も頼りにしているぜ」

「僕達は三華月様が頼りなんす。よろしくお願いします」



調子に乗っている2人ではあるが、言葉巧みにA級冒険者達をログアウトへ追い込んだことは事実である。

信仰心が最も高く世界を護る使命をもった聖女は、ウンコである二人にとって魔王のような存在であるのは、いたしかたないことなのかもしれない。

同族殺しが禁止されている身である者としては、対人戦において言えば少なからず二人が頼りになるのは確かなようだ。

とはいうものの、この手法がこれかれも通じるかと言えば、疑問ではある。

その時である。

私が抱いた疑問をなぞるように、勇者達が自分ふうに変換した言葉を喋ってきた。



「三華月。一言いいか。今回はうまくいったからといって油断するなよ」

「そうっす。物事というのは、うまくいかないことの方が多いものなんです」

「そうだ。熟練の冒険者っていうのは、常に最悪の状況を想定していくものなんだぜ」

「三華月様って、人生なんて超楽勝と思っているっすよね」

「そう、それだ。お前って、現実とかけ離れている頭の中がお花畑のような聖女だよな」

「このイベントにしても状況を分析し、攻略法を練っていく必要があるっす」

「策もなく敵とエンカウントをすることを待っているだけでは、都市の治安指数が悪化していくだけだろう」

「僕は、論理的に効率よく動くべきだと考えます」

「論理的か。数が多い敵に効果的な策とは、弱いものから叩いていき敵戦力を少しずつ削いでいくのが一般的だな」

「だが、その戦略は時間がかかるという欠点があるっす」

「そうだな。現状には適していないのだろうな」

「今回は、頭となる指揮官を見つけだし少数精鋭部隊で叩くべきでないっすか」

「少数精鋭か。俺達にピッタリの策じゃないか」

「問題は、敵の指揮官をどうやって探し出すかっすね」



おいおいおい。頭の中がお花畑なのはお前達の方なのではないか。

少数精鋭という言葉についても引っかかる。

だが、優先的に指揮官を叩く案については賛成だ。

敵を見つけだすには、高い位置から索敵を行うことが定石であり、この海底都市で最も高い場所と言えばあの中央にあるタワービルである。

敵よりも早く行くことができれば、魔王公爵を護ることもできるし、高い位置からなら狙撃をするのが効果的だ。

『跳躍』と『瞬足』を持つ私ならばそれほど時間をかけることなく辿り着くことが可能である。

問題になってくるのはやはり足手まといとなる雑魚の2人だ。

逃げ足だけは早い奴等だし、放っておいても大丈夫だろう。



「私から二人に提案があります」

「すまん。その提案は却下だ」

「僕も、その危険きわまりない提案は受けかねます」

「いやいやいや。まだ何も言っていないではないですか」

「過去の経験則に当て嵌めて返事をさせてもらっているんだよ」

「常軌を逸脱した提案だということは分かっているんすよ」

「そういうことでしたか」

「分かってくれたらそれでいい」

「三華月様の提案を断るという僕達の勇気ある行為を、称賛して下さい」

「戯言を言うのはそれくらいにしてもらえないでしょうか。前にも言ったと思いますが、あなた達に拒否権はありません」

「俺は一応世界を護る勇者なんだ。仲間を危険な行為にさらすわけにはいかないんだ!」

「いくら心が汚れているとはいえ、聖女様が一般の冒険者である僕を見捨てたら、駄目じゃないかと思うっすよ」

「改めて言います。二人に提案があります。あなた達に断るという選択肢はありません」

「なんだよ、この罰ゲームは!」

「抵抗するだけ無駄だっていうことっすか」

「私はあなた達をここでポイ捨てして先を急ぎます」

「ちょっと待て。ポイ捨てだと。世界を救う使命をもっている勇者をポイ捨てしたら駄目だろ!」

「僕達は三華月様だけが頼りなんす。約束を違えたら駄目でしょ!」

「そもそもだ。俺達をここに置いていっても本当にいいのか」

「僕達に海底都市の住民を狩られてしまうと治安指数が下がってしまうのではないっすか」

「そうだ。よく考えた方がいいと思うぜ」

「ポイ捨てされたら、暴れまわるかもしれませんよ」

「全ての可能性を考えて行動をするところなんじゃないのか」



二人からは鬼気迫るものが伝わってくる。

確かに普通の勇者はポイ捨てしたら駄目なのだろう。

何かを約束したという記憶はない。

そうか。ポイ捨てされると、暴れまわるのか。

話を聞いているうちに、街の美化を守るためにも生ゴミである奴等二人を置いていくわけにはいかない気持ちになってきた。

立体フォログラム映像を見ると、中央タワービルまで真すぐ繋がる大通りが近くにある。

勇者達を護衛しつつ、最短ルートで目的地を目指すのも有りかもしれないか。

二人へ、その立体フォログラム映像を指さしてみせた。



「分かりました。これから海底都市の大通りを使用し最短距離で中央タワービルを目指します。二人は後ろに続いてください。見通しがいいルートで危険ではありますが、フォローさせてもらいます」



私からの言葉を聞いて二人が沈黙した。

また良からぬことを考えているのかしら。

私達がここへ侵入している事を、塔の反逆者が認識しているとしたら、この大通りで網を張っている可能性が極めて高い。

時間をかけることなくA級冒険者を無効化できるか心配ではあるが、迷う時間がもったいない。

考え込んでいた2人からすると平常運転なのだろう。再び意味不明な言葉を連発し始めてきた。



「三華月。真っ直ぐタワービルへ行くつもりなのか」

「そこを行くとなると、かなり危険が伴いそうっすね」

「だが、勇者として意見を言わせてもらうと、俺は仲間からの頼みを断るわけにはいかねぇな」

「そうっすね。三華月様の無謀な行動に突き合わせてもらうっす」

「俺達は中央のタワービルまで突っ切ることにするぜ」

「覚悟は決まったっす」

「三華月。先頭はお前に任せるぜ!」

「僕達は背中に隠れながら、できるだけ安全に付いて行くっすよ」





先頭を走り、背後から2人が付いてきていた。

中央タワービルまでの距離は5km。

身軽な強斥候はともかく、ある程度の装備品で身を固めている勇者の走る速度が遅い。

おれでも20分程度あれば到着するだろうか。

大通りの幅は20mほどあり見通しがよく、離れた正面には目的の建物が見えていた。

2階建ての商店が軒を連ねているが、住民の気配は感じられない。

走り始めて5分程度が経過した時である。

真正面から地を這うように物体が接近してくる姿を視認した。

かなり速い。

時速100㎢程度は出ているのではなかろか。

よく知った声が頭の中へ飛び込んでくる。

外部からバックアップしてくれている機械少女からの念話である。



≪三華月様。魔剣が接近してきます。注意して下さい≫



魔剣。

機会少女からの依頼を受け、アルケミストである死霊王が創り出した武器のこと。

現時点に至っては、私がその破壊を請け負っている。

そして、塔の反逆者という者が所有している剣だ。

敵の方からお出ましということか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ