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198 目立ちたくない勇者

ここは機械少女からクエスト依頼を受け、やってきた水深100mに広がる海底都市。

バベルの塔で開催されているイベント会場となる世界である。

その周囲は透明の結界に護られ、地上と変わらぬ快適な環境が保たれており、10km四方に街が広がっていた。

融合合体した機械少女から受けたクエストの内容とは海底都市の平和を守ること。

都市の中心にいるであろう魔王軍公爵が倒された時、そして都市の犯罪指数が100になってしまった時がクエスト失敗となる設定になっている。

向こうに見える建物の影から、『塔の反逆者』が招き入れたA級冒険者達の一部であろう5名が姿を現した。

メンバーは、騎士、侍、上級武闘家、黒魔導士、賢者で構成されており、離れた位置からこちらの様子を伺っている。

魔王軍の陣営側に配置されている私はA級冒険者達と敵対している立場ではあるものの、同族殺しに繋がる行為、すなわち彼等に対し危害を加えることが出来ない。

彼等への対応策について考えていると、背後に控えていた勇者と強斥候の2人が、A級冒険者達へ向かって両手を上げながら距離をゆっくり詰め、互いに挨拶を始めていた。



「俺は異世界となる地上世界からやってきた勇者だ。よろしく頼むぜ」

「僕は相棒の強斥候です。よろしくっす」

「私達はバベルの塔に暮らすA級冒険者パーティだ。君達は異世界からやってきたと言っているのか?」

「そうだ。塔の反逆者という名乗る者から、魔王の討伐に関する協力要請を受けたんだ」

「そうそう。魔剣を持っている反逆者さんから声をかけられ、こっちの世界に来たんすよ」

「塔の反逆者から魔王討伐の協力要請を受けてこちらの世界にやってきただと。どういうことだ。バベルの塔には魔王など存在しないはずだぞ」

「なんだ。お前、魔王のことについて何にも知らないのか」

「僕達の世界にいた魔王がこの世界へやって来ているんすよ」

「君達の世界にいた魔王が、こちらの世界であるバベルの塔へやって来ただと。その話は本当なのか?」

「そうだ。そういうことだ。俺は勇者だからな」

「僕達としても、やれやれという感じなんすよ」

「君達はその魔王について、よく知っているということなのだな?」

「まぁな。だから俺達が呼ばれたわけなんだろ」

「そうっす。僕達以上にその魔王の恐ろしさを知る者はいないっすね」

「そうだったのか。つまり、君達は地上世界からやってきた魔王を追ってバベルの塔へやってきた。そして討伐してくれるというのだな?」

「その返事をする前に一つ訂正させてくれ。実際はその者は魔王ではない。もっと恐ろしい存在である魔神なんだ」

「だが問題ないっす。僕達はその魔神に関する取扱説明書を持っています。安心して下さい」

「どういうことだ。もう少し分かるように説明してくれ」

「さすがに勇者である俺でも魔神は倒せないということだ」

「落ち着いて聞くっす。倒せないにしてもコントロールすることくらいなら出来るということっす」

「つまりお前達は魔神を倒せないが、コントロールすることが可能だと言っているのか?」

「そうだ。一歩間違ったらマジで地獄になる。マジのマジだぜ」

「絶対に戦ってはいけない聖女なんすよ」

「聖女だと。その魔神というのが聖女だというのか!」



A級冒険者達の視線が派手な十字架がデザインされた聖衣を着ている清らかな姿をした私に集まってくる。

話の流れ的に、その魔神という聖女が私だと勘違いしたのだろう。

いや、間違えていないか。

勇者と強斥候は、私を従えているような空気感を演出しながら、動揺するA級冒険者達へ、こちらの立場を説明しつつ海底都市からの退出勧告を言い始めだした。



「これから言うことをよく聞いてくれ。俺達はこの海底都市の治安を護るというクエストを受けている」

「僕達は魔王軍公爵側の陣営にいる者なんす」

「どういうことだ。君達は私達と敵対関係にあると言っているのか」

「そうだ。だから素直に降伏してくれないか」

「海底都市の住民である魔物を狩られてしまうと、こちらにいる聖女様がお怒りになるんすよ」

「異世界の勇者に質問だ。君達の降伏勧告を受け入れなかったとしたら、私達と戦うつもりなのか?」

「おいおいおい。馬鹿なことはやめておけ」

「狂犬が暴走する前に身をひくことをお勧めするっす」



勇者と強斥候が自信満々に笑っているその時である。

A級冒険者達の一人である黒魔導士が、突然スキル『鑑定』を発動させ、微弱な衝撃波を飛ばしてきた。

当然であるが、私のステータスを推し測れる者など存在するはずもなく、衝撃波は弾き返されてしまうが、クソ雑魚である勇者達についてはしっかりとステータスを覗き見されてしまっている。

早速といった感じで、鑑定結果に関してA級冒険者達が交わす会話が聞こえてきた。



「あの聖女については明らかに私達より格上で間違いないようだ」

「そうか。あの聖女はS級で確定だということか」

「ああ。底知れぬ力を感じる」

「そうか。それではペラペラと喋っている勇者と強斥候の2人のステータスはどうなんだ?」

「奴等2人はB級相当の実力だ」

「あの2人はB級なのか」

「そうだ。私達ならば、B級相当の2人は簡単に倒すことが可能だろう」

「注意するべき敵は聖女だけとなるわけか」

「S級といっても所詮は聖女だ。攻撃力は皆無だろ」



A級冒険者達は私がその辺にいる聖女だと思っているようだ。

勇者達が可愛くて清純な容姿をしている私のことを魔神であると告げた言葉については無視しているようだが、まぁ妥当な判断と言えるだろう。

使いものにならない勇者達を殺処分してもらいたいところではあるものの、さすがに見殺しにすることも出来ないか。

A級冒険者達の話を聞いていた勇者達が、余裕綽々な感じで再度喋り始めた。



「フッ。俺のことをB級相当の実力と思っているのか」

「鑑定結果をそのまま信じているんすか」

「君達。それはどういうことだ?」

「つまりだ。俺はいわゆる『目立ちたくない勇者』であるということだ」

「悠々自適なスローライフを送るために実力を隠す法則のことっすよ」

「あのことか。魔王討伐をした後にする定番のあれのことを言っているか?」



その定番な話なら知っている。

魔王を討伐した後、もしくはS級パーティを抜けた後、スローライフをしたいという理由で素性を隠して田舎に引っ込むのであるが、実際のところは以前よりも忙しくなり、活躍をしてしまう流れのことだ。

だが、そんな空想世界の話など普通は信じるはずがない。

案の定といった感じで、A級冒険者達は警戒しながら一歩二歩と距離を縮め始めてきた。

その様子を見た勇者達は、ゆっくりと後退を開始し、私の背後へ下がっていく。

そして当然のような口調で、私へ声を掛けてきた。



「三華月。奴等、戦うつもりようだぞ」

「ここは適当に相手をした方がいいんじゃないですか。これは正当防衛っす。半殺しにしてやっても問題ないと思うっす」

「そうだな。少しばかり俺達の実力を見せておくべきところだろうな」

「僕も同意っす。三華月様。やっちゃって下さい」



余裕綽々だった勇者達の表情が、急速の青ざめていく。

他人事のような言葉なのは何故なのかしら。

やはり私が戦うことが前提だったのか。

どうしたものかと思い始めた時である。

慎重に距離を詰めてきていたA級冒険者達が、ピタリと静止していた。

何故か、及び腰になっている。

何かあったのかしら。

彼等が交わす会話が聞こえてくる。



「おい。今、三華月と言っていなかったか」

「ああ。間違いない。あの聖女のことを三華月様と呼んでいた」

「マジかよ。絶対攻略不可能である『槍の又兵衛』を討伐した者の名前と一緒ではないのか」

「この世界のS級冒険者達が攻略出来なかった槍の又兵衛を葬った最強種が、あの聖女だと言うのか」

「又兵衛を倒した者は、異界の聖女であるという噂を聞いたことある」

「完全に話が合致するじゃないか」



A級冒険者達の慌てた音量が少しずつ大きくなっていく。

191話でバベルの塔の空に『最強種筆頭・三華月様 WIN、槍の又兵衛 LOSS』と流れており、この世界に私の名を知らない者はいないということか。

私の背後で、A級冒険者達が交わす会話を聞いていた勇者達が、また前に出てきた。

悪かった顔色の血色が復活している。

敵が弱っている姿を見て元気になっているようだ。

勇者達が海底都市の天井を見あげ、そこに誰かがいるかのように大きな声を出した。



「運営。俺達を見ているんだろ。あいつ等は戦意喪失しているぞ!」

「A級冒険者達は、イベント会場からログアウトさせるべきじゃないっすか!」



運営というのは、姉妹機と融合合体した機械少女のことを指しているのだろう。

5人のA級冒険者達は動けないでいる。

その時である。5人のその姿が突然消滅した。

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