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195 お茶目とは

ここは延々と続く回廊が天上界へ繋がっていると言われているバベルの塔。

石版が敷き詰められている壁に空いた開口部へ視線を送ると、青い空が見え、眼下には雲が広がっていた。

周りではこの世界に生きる旅人達が和やかな雰囲気で次々と上を目指して歩いていく姿がある。

塔の管理者と融合を果たした機械少女から、『魔剣の破壊』、そして『反逆者の討伐』に関する依頼を受けた後、今しがた『精霊使いの討伐』についての依頼を受注したところだ。

正面に立っていた機械少女が、かしこまった表情をしながら深く頭を下げてきていた。



「三華月様。これから『精霊使いの討伐』イベントが行われる会場へご案内させて頂きます。私の方は、ここから遠隔支援をさせて頂ければと思っております」



遠隔支援をするとは、イベント会場が開催される場所へ行くのは私だけだと言っているのかしら。

邪悪属性である少女が何故付いてこないのか気になるところではあるが、単騎にてそこへ行くことについては依存がない。

周囲の景色が歪み始めていた。

先で行われた『又兵衛の討伐』イベントのように、またどこかの空間へ連れていかれるようだ。


――――――――――穏やかな波の音が聞こえ、潮の香りが漂っている。

気がつくと、見渡す限り水平線が広がる中、海上に延々と続く橋の上を歩いていた。

歩くたびに木質がもつ独特の温もりのような感触が橋の床から伝わってくる。

橋の幅は10mくらいあるだろうか。

真っ青な空から落ちてくる太陽の陽射しが反射し、キラキラと光る海面がすぐそこに見えていた。

気温は高いものの蒸し暑さというものは感じない。

橋から乗り出し下を覗き込むと、海水は濁りなく透き通っており、100m以上はありそうな海底に都市のようなものが広がる姿が見えていた。

ここが『精霊使いの討伐』が行われる会場なのだろう。

歩く先に2人の男が、余裕綽々な感じで木製手摺りに体をもたれている姿がある。

よく知っている顔の男達だ。

1人は身長が180cm以上あり、体格がよく背中に大剣を背負い、もう1人は黒装束に身を包んだ目立たない感じの男だ。



勇者と強斥候の2人がそこにいた。



何故、ここに奴等がいるのだろうか。

2人に関しては、私の姿を見て目を丸くして固まっている。

『精霊使いの討伐』依頼を受け、ここにやってきたのであるが、勇者と強斥候以外の姿は見当たらない。

消去法で考えると、うんこ達二人が精霊使いであり私の討伐対象になってくるのかしら。

同族殺しは禁止されている。

だが、世界の役に立たない奴等ならば、半殺しくらいにしても問題ないのかしら。

歩みを止め迷いなく運命の弓を召喚しようとした時。

身の危険を感じたのだろうか。

勇者と強斥候は慌てた感じで身を乗り出し、必死な形相で訴えかけてきた。



「三華月。待つんだ。俺達一般人に牙を剥いたら駄目だろ」

「そうっす。待って下さい。心が汚れている聖女は、それはもう聖女じゃないっすよ」

「まずは俺達の話を聞いてくれ」

「僕達は、簡単に高額報酬を得られると聞いてここにやって来たんす」

「そうなんだ。このアルバイトは違法ではない、ホワイト案件だという説明を受けていたんだ」

「分かって下さい。高額報酬という甘い言葉で巧みに誘われただけなんです」

「つまり、闇バイトは今回が初めてなんだ」

「まだ僕達は犯罪行為に手を染める前の状態なんです。これってセーフですよね」

「だからまだ俺達は、お前の処刑対象にならないはずだろ」

「僕達も被害者なんです」

「勇者である俺が言うのも何だが、聖女なら俺達一般人を救うっていうのが当然の使命なんじゃないのか」



何も聞いてもいないのに、よく喋るものだ。

話を聞く限りでは、闇バイトの勧誘であると認識しながら、この仕事を前向きに受けたように思える。

そして、今まさに犯罪に手を染めようとしていたところといった感じか。

奴等を処刑する神託が降りてくる気配が無いが、心は相当汚れているはずだ。

信仰心の餌になるまで生かしておくべき物体なのだろうが、不愉快極まりないない生物であることは変わりない。

とはいうものの、今は『精霊使いの討伐』クエストの方を優先させてもらいましょう。

止めていた足を前に出し、間合いを詰めながら質問をした。



「勇者と強斥候。あなた達に、いくつか質問をさせて下さい」

「信じてくれ。俺は無実なんだ」

「決めつけは良くないっす」

「おい、三華月。なんで間合いを詰めてくるんだよ。物騒過ぎるぞ」

「三華月様。質問には答えます。でもそれ以上、僕達に近づいてくるのは勘弁してもらえませんか。マジて精神をやられてしまいそうなんです」



勇者と強斥候が腰を引き後退りをしていた。

その顔からは汗が滴り落ちている。

私を猛獣か何かと思っているのかしら。

一応、容姿だけは清らかかつ清楚な美少女なはずなのだが。

その時、勇者達が不意に意味不明なことを口走ってきた。



「三華月。勘違いするなよ。お前は確かに美人ではある。それだけは認めてやるぜ」

「僕も認めます。それだけっすけど」

「だが、性格も大事なんじゃないのか?」

「男のもてる女性の性格を知っていますか。それは、褒め上手で、どんなことでも楽しめる。そしてお茶目で、適度な隙があり、周囲に気を使え、甘え上手な女性が心の美人なんですよ」

「三華月が、甘え上手であるかといえば、それはもう壊滅的だろ!」

「いやいやいや。全面的に女子力は破壊的ではないでしょうか?」

「確かに、違ぇねぇー」

「ですよねー」

「「ゲラゲラゲラゲラ」」



質問したいことがあると聞いたが、それは女子力についてではなく、あなた達が精霊使いであり討伐対象であるかを知りたかったのだ。

もう確認する必要もなく処刑して問題ないように思えてきた。

だが、強斥候が男にもてる女の要素について並べていたワードの中に、一つだけ気になるものがあった。

一応、尋ねておくべきどころかしら。



「念のために確認させて下さい。自分でいうのも何ですが、私は『お茶目』であるという項目には該当するのではありませんか?」



「え。お前、マジで自分のことをお茶目だと言っているのか?」

「ふざけて言っているんですか?」

「お茶目とは、無邪気で、ふざけて人を笑わしたりする様子のことなんだぞ!」

「三華月様って、無邪気では無く、どう見ても邪気の塊っす。邪気っす!」

「マジで笑うことが出来ない冗談だぜ」

「やられている僕達の気持ちを少しくらい考えて下さいよ」



酷い言われようだな。

やられている方の気持ちを考えろというが、それは勇者達に問題があるのではなかろうか。

だが、私に女子力があろうとなかろうとどうでもいい。

不毛な会話はこれくらいにして、話を戻させてもらうことにしよう。



「いいでしょう。お茶目の件については保留させてもらいます」

「おい。勝手に保留してんじゃねーよ!」

「そうっす。結論は出ています。三華月様は、お茶目ではないっす!」

「はいはい。分かりました。私はお茶目でなくても結構です」

「なんだ。その雑な終わらせ方は。諦めてないのかよ」

「マジで、往生際が悪い聖女なんすね!」

「本題に戻ります。私が確認したいこととは、あなた達が私の討伐対象となる『精霊使い』であるかどうか、教えて下さい」

「何だ。そんなことを聞きたかったのか」

「それって、どうでもよくないことじゃないっすか?」

「どうでもよくはありません。あなた達は精霊使いということでよろしいのでしょうか?」

「質問の件だが、その通りだ。俺達がその精霊使いだということで間違いはないが、話を少し聞いてくれ」

「僕達は、この世界の反逆者に魔王を倒すために力を貸してほしいと頼まれたんすよ。まさか、その魔王が三華月様だったとは…」

「まぁ、あれだ。俺達は『潜入調査』をしていたんだ」

「そう。それっす。僕達は『潜入調査』をしていたんす」

「おい。三華月。お前、忘れていないか。俺は世界を平和に導く勇者だんだぞ。悪事に手を貸すことなんてあるはずないだろ」

「そう言えば、僕達は、三華月様の仲間じゃないですか。仲間でしたよね?」

「おう。そうだった。俺達は仲間だよな。いいだろう。ここは三華月に力を貸してやるぜ」



上から目線の言葉遣いが気になるところではあるが、これで『精霊使いの討伐』依頼は完遂したという事になるのだろうか。

勇者と強斥候が、緊張した面持ちでこちらを見ている。

私からの反応を待っているようだ。

普通に考えて、戦力外の二人が私に力を貸すことなど、出来るはずがない。

仲間に加わる申し入れについて断ろうとしたその時である。

予期せぬ新しいメッセージ画面が浮かび上がってきた。



【精霊使いの討伐依頼を達成しました。成功報酬として、勇者と強斥候がパーティに加わります】



勇者と強斥候は、海上へ浮かび上がってきらメッセージ画面に視線を送ると、安堵したのだろう。

深い息を吐き、胸をなで下ろしている。

討伐クエストが完了したのはいいのであるが、足でまといの二人が仲間に加わってしまった。

罰ゲームのような成功報酬ではないか。

海上に浮かび上がっているメッセージ画面が、切り替わっていく。



【海底都市にて緊急クエストが発生しました。三華月様、現場へ急行してください】

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