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194 聖女に関するうんちく

ここは、天上界へ繋がっていると言われるバベルの塔。

緩やかな勾配がとられている回廊が延々と上へ続いており、壁に配置された開口部より入ってくる太陽光が、床に敷き詰められている石板を明るく照らしていた。

この世界に生まれてきた旅人達が、いつ到達するか分からない天上界を目指し、私達の隣を和やかな感じで通り過ぎていく。

正面には背丈が120cm程度である邪悪属性の機械少女が私を見上げながら、融合を果たした姉妹機であるバベルの塔の管理者の代理として、『塔の反逆者』を討伐する追加依頼をしてきたところだ。

死霊王が製作したという魔剣の討伐依頼を受けた後なだけに、断りにくい空気が漂っていた。

何だかうまく乗せられているような気もするがまぁそこは大した問題でもないだろう。

喋るタイミングを計っていた様子の機械少女が、私の顔色を見ながら新しい情報を追加してきた。



「三華月様。私がお願いした魔剣の破壊依頼と、姉妹機が依頼した反逆者の討伐クエストに関する共通点についての情報を、お伝えしたく思います。」

「共通点に関する情報ですか。はい。聞かせて下さい。」

「姉妹機から得た情報によりますと、反逆者と名乗る男が、死霊王が製作したという魔剣を所持しているようです。」



その話が本当だとすると、塔の反逆者を討伐すれば魔剣の破壊依頼も達成するということに繋がるのかしら。

魔槍の討伐を簡単に片付けてしまったため、姉妹機からの依頼も簡単に出来るものだと考えていた。

ミミックの無効化が完了するまでの空いていた時間を利用して、軽い気持ちで魔剣の破壊依頼を受注したものの、少しばかり問題が複雑になってきているように思える。

私からの反応を待っていた機械少女が、静かにこちらを見上げながら、その気にさせる言葉をたたみ掛けてきた。



「魔剣を破壊するついでに、反逆者を討伐してもらえればいいだけのことです。ハンバーガーを食べるついでにフライドポテトと飲み物を一緒に頼むと、単価が安くなるお得セットみたいなものではないでしょうか。何と言っても、面倒だと思えばクエストを中断して頂いても、三華月様には何らリスクは発生しません。気軽に考えてみて下さい。」



そのセットメニューの例えについては、私にとってお得なものではないではないか。

とはいうものの、説得力に欠けるように思えるが、言っていることは分からないでもない。

機械少女からの依頼は信仰心に影響がなく、クエストを失敗しても何ら問題ない。

何となくだが、まぁいいかという安易な気持ちになってきた。



「承知しました。反逆者の討伐クエストも含めて依頼を受けさせてもらいましょう。」

「三華月様。有難うございます。」



機械少女が深く頭を下げてきた。

現状では信仰心が上がる可能性を感じないものの、これも人助けみたいなものだし、たまには聖女らしいことをするのもいいかもしれないか。

頭を上げてきた機械少女が、予期せぬ言葉を口にしてきた。



「三華月様。早速ですが『精霊使いの討伐』イベントが発生しております。受注して頂けるということで、よろしいでしょうか?」



精霊使いの討伐イベントだと。

反逆者の討伐とは何ら関連性がないように思えるようなネーミングではないか。

これまでのふざけた流れを考えると、受注してはいけないクエスト依頼であると第六感が警告音を発してきていた。

私のやる気のない気持ちに気が付いたのだろうか。

機械少女が取り繕うように慌てた感じで意味不明な言葉を吐き始めた。



「三華月様。姉妹機の奴が『精霊使いの討伐』イベントに関連するかもしれない、聖女についての蘊蓄を喋りたがっております。少しだけぶちまけてもよろしいでしょうか?」



機械少女が苦しそうな表情をし、両手で口を塞ぎながら嗚咽を上げていた。

吐き気をもよおしているように見える。

崩れ落ちていった少女が「助けて下さい」と救助を求め始めてきていた。

聖女に関する蘊蓄が鬱積してきるというのは、融合してしまった姉妹機の影響を少なからず受けているのだろうか。

顔色がどんどん悪くなり、四つん這いになっている。

聖女に関する蘊蓄なんて絶対に聞きたくないと思っていたが、少女が悶え苦しむ姿を見ていると、少しくらいなら話を聞いてもいいような気がしてきた。



「三華月様。苦しいです。助けて下さいぃぃ…」



救命救急センターに運ばれてきた重体患者のような雰囲気だ。

AIが正体不明のウイルスに感染してしまったのだろうか。

見殺しをしているような気持ちになってきたし、まぁ興味がない話なら聞き流せばいいだけのことだよな。

地面に四つん這いになっている機械少女の背中を優しくさすりながら、承諾するむねの返事をした。



「聖女に関する蘊蓄を聞く件。承知しました。どうぞぶちまけて下さい。」



少女は体の震えをピタリと止めると、息を整えながらゆっくりと立ち上がってきた。

顔色は悪いものの、メタルボディの肌つやが幾分か復活している。

まさに病み上がりといった雰囲気感が漂っている。

そして少したどたどしい口調でお礼を言ってきた。



「三華月様。命を救って頂き有難うございます。」

「いえいえ。話を聞くことしか出来ませんが、言いたいことを喋って下さい。」

「姉妹機からの言葉をそのまま吐き出させて頂きます。三華月様。国を護っている聖女を追放すると、その国は滅んでしまうという法則があります。私は言いたい。たった一人の聖女に、その国の防衛を頼ってもいいのでしょうか。国民保護の三原則とは、避難・救援・被害の最小と言われており、当然、聖女の加護とやらが無くなったことに対しても備えるべきかと考えます。つまり国を守る聖女という奴等は、国を駄目にしているのです。国を護る聖女がいるとすれば、早く追放する方がその国の健全化が進むとのです。ご清聴頂きありがとうございました。」



機械少女は、胃の中にたまったガスを吐き出した後のようにスッキリとした表情をしていた。

『精霊使いの討伐』イベントについてやる気がない私を説得するため、聖女に関する蘊蓄を喋ってくるのではないかと思っていたが。

勘違いだったのかしら。

何かスッキリとしないところではあるが、質問するとやぶ蛇になりそうだし、そっとしておくべきところだろう。

復活していた機械少女がこちらに向き直し、頭を下げてきた。



「三華月様。早速ですが、『精霊使いの討伐』イベントにお連れさせてもらいます。討伐対象は精霊使いではありますが、実際のところは精霊を呼び出すことは出来ないようです。移動しながら、いろいろと説明させてもらいます。」



いつのまにか、精霊使いの討伐依頼を受注したことになっているのはどういうことなのかしら。

と言いますか、いま機械少女は、何かおかしなことを言っていたぞ。

討伐対象となる存在が、精霊を呼び出すことが出来ないというのは、意味不明だとしか言いようがない。

ふざけた存在に出会ってしまうのではないかという予感がしてきていた。

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