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192 喋る魔槍

見上げると青い空の高い位置に線のような雲が流れていた。

焼け焦げた大地が続く地平線が360度広がっている。

ここは『槍の又兵衛』の討伐クエストとなるイベント会場。

人の姿はなく、風の音だけが聞こえてくる。

トドメを刺された甲冑の武将は消滅し、機械少女は口角を吊り上げながら又兵衛が使用していた槍を持っていた。

その時である。

槍が、機械少女に対し怒声を響かせてきた。



「おい、小娘。我に触れるんじゃない!」



あの槍は意志を持ち、言葉を喋ってくるのか。

経験上、上から目線で喋ってくる奴は、出来るだけかかわってはいけない部類に入る者である。

機械少女については全く動じる様子がないところを見ると、槍が意思を持っていることを予め知っていたのだろうか。

何ら反応を示さないその少女に対し、槍が更に強い口調で言葉を叩きつけてきた。



「我を所有してよいのは、我を倒した者のみ。小娘、我はお前ごときが触れていい存在ではないのだ!」



その言葉から察するに、この喋る槍こそが又兵衛の本体だったということになるのかしら。

そう言えば、バベルの塔の管理者は、甲冑の

武将を解放してほしいと頼んできていたが、この槍の道具としてこき使われていたのだろうか。

何にしても、全く興味がないことだし、深く掘り下げるつもりも無い。

言葉遣いの悪い槍の話によると、あいつの所有者は私ということになるようであるが、もちろん却下の一択だ。

こちらへ歩いてきていた機械少女が、槍を見せながら、何やら説明を始めてきた。



「三華月様。この態度の悪い槍について説明させてもらいます。これは名工・死霊王が造った魔槍なのです。」

「死霊王ですか。そういえば、彼の本職は鍛冶師だったかしら。機械少女ルギアルプスアレクサンドラは、死霊王と知り合いだったのでしょうか?」

「はい。仕事上、付き合いがありまして。いわゆる技師仲間という感じの関係です。」

機械少女ルギアルプスアレクサンドラも迷宮の設計者でしたね。」

「私が迷宮の基本プランを作成するあたりから少しずつ協力をしてもらっておりました。そして『純白の翼竜』を製作するにあたり、魔剣と魔槍の生成をお願いした経緯がありまして…」

「つまりその槍の他に、魔剣というものが存在すると言っているのですか。」

「はい。成り行きで、魔剣と魔槍のどちらが優れているかを試すことになりまして、実験を開始しまもなく、この2本が姿を消してしまったのです。まさか、このバベルの塔へ来ていたとは。」



世間は狭いと言われるが、機械少女と死霊王は知り合いだったのか。

その魔槍を造り出したことからも、二人の組み合わせではろくでもない化学反応を起こしてしまうのだろうと想像できる。

その時である。

魔槍が私に対し、強い口調で話かけてきた。



「聖女。お前はなかなか見どころがある。我を手に取れ。世界の覇王に導いてやる。だがその前に、我には魔剣を倒すという宿命がある。我に力を貸せ!」



交渉ごとにはいくつかのポイントがある。

その一つが、誠実な姿勢を示さなければならないことだ。

他にもWin-Winな結果を目指さなければならないともある。

そもそもだが、世界の覇王という言葉に反応する者は、中二病患者くらいのものだろう。

話にならないとはことのとこだな。

魔槍からの言葉を聞いていた機械少女がその扱いについて尋ねてきた。



「三華月様。念のために確認させてもらいますが、魔槍からの話を聞き入れて魔剣と戦われますか?」

「いえ。その魔槍の扱いについては機械少女ルギアルプスアレクサンドラにお任せします。」



機械少女が案の定といった感じの表情をしながら頭を下げてきた。

魔槍から話かけられるだけで不快に感じる。

どうしてそんなに偉そうな態度をとることが出来るのかしら。

私達の会話を聞いて自尊心を傷つけられたのだろうか。

魔槍が怒声を響かせてきた。



「我を不要と申すか。我は世界の王に導く存在なんだぞ。もう一度チャンスをやる。我と契約し、手足となり魔剣を滅ぼすのだ!」

「お断りします。」

「本当にいいのか。後悔することになるぞ。」

「あなたと契約する可能性はゼロです。頑張れば何とかなると思っているとしたら、それは勘違いです。理由は分かりませんが、その自信は一体どこからくるのでしょうか。はっきりいって、あなたの性格はとても受け入れられるものではありません!」

「…」



魔槍がようやくといった感じで静かになってくれた。

しつこい者とは、自信家であり断られても何故かチャンスがあると思い込む傾向が強い。

つまりそんな奴等を撃退する最適解は、正論を振りかざしプライドを折ることだ。

少し黙り込んでいた魔槍が、所有者となる対象を変更し、機械少女へ話かけ始めた。



「おい。小娘。お前はどうなんだ。見たところ、まぁまぁ可愛いではないか。身体能力については改造していけば問題ないだろう。そうだな。我が、お前の師匠となってやろう!」



安定の上から目線の言葉だ。

機械少女は無限に稼動し続ける『太陽炉』を核にしているものの、その身体能力は冒険者レベルに当て嵌めるとD級くらいに相当するだろうか。

奴の言う通り、改造していけばかなりのレベルまで引き上げられるのだろうが、あの機体は古代人が設計したものであり、下手に触ってしまうと太陽炉が暴走する可能性がある。

そもそも論であるが、魔槍のことを全く相手にしていないその態度を見ていると、上から目線の提案を受けるとは到底思えない。

機械少女は魔槍からの言葉に一切の返事をすることなく、予想とおりの反応を示してきた。



「三華月様。私は死霊王から、魔槍と魔剣を破壊する依頼を受けております。」

「魔槍と魔剣を破壊する依頼ですか。つまり『失敗作』の処分を任されているというわけですか。』

「はい。ご覧のとおり、この槍は駄目な奴でして。とはいうものの、私ではこいつを破壊出来ないもの事実でして。三華月様、こいつへ『SKILL_VIRUS』を撃ち込んでもらえないでしょうか。」



死霊王から『失敗作』を処分する依頼を受けているのか。

この展開は魔剣の方も破壊しなければならない流れになっているような気がするが、今は目の前の事案から対応させてもらうことにしましょう。

SKILL_VIRUSの効果とは、獲得しているスキルを破壊する。

つまり、魔槍が持っている人格とは、スキルに該当するということなのかしら。

会話を聞いていた魔槍が、激怒し怒鳴り声を上げている。



「お前達。我のことを失敗作と言ったのか。許されることではない。我は世界の調和者なんだぞ。その我をお前達劣等種族が破壊なぞ出来るはずがなかろう。我こそが最強の武具。下等動物共、我を尊敬しろ。我に余計な危害を加えると天罰が下ることになるぞ!」



これはもしかして命乞いをしているのかしら。

口角を吊り上げている機械少女から差し出されてきた魔槍へ手を伸ばした。

その槍は、平常運転と言った感じで上から目線の言葉をわめき散らしている。

―――――――――――SKILL_VIRUSを発動する。

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