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第189話 冒険者達vs又兵衛

緩やかな勾配がとられている石板が敷き詰められた回路が延々と続いていた。

壁に空いた開口部からは青空が見えており、太陽光が差し込んでくる。

ここは神の世界へ通ずると言われているバベルの塔。

機械少女へミミック達を無効化する作業を任せ、ぶらぶらしていた私の前に前触れなくメッセージ画面が浮かび上がってきていた。


――――鬼畜クエスト発生中――――

・クエスト名 槍の又兵衛

・参加条件 S級以上

・現参加者 58名

・発生期間 90日(残1時間)

・成功確率 0%

・報酬   S級スキル


成功確率が0%である鬼畜クエストであるにもかかわらず、冒険者達はどうしてこのイベントに参加しているのかしら。

そもそも論となるが、この世界の回廊内には魔物は存在しないはず。

上へ登っていくために、S級冒険者である必要はないだろうし、報酬となるS級スキルにしても不要なのではなかろうか。

何にしても、地上世界の住人である私にとってはどうでもいいこと。

客観的に考えて、現れてきている画面については無視して問題ないだろう。

止めていた足を進めようとした時である。

この塔の管理者と名乗る者からの声が聞こえてきた。



『三華月様。初めまして。私はこのバベルの塔の管理をしている者です。よろしくお願いします。』



周囲を見渡すと、冒険者の家族が楽しそうに上を目指して歩いている姿がある。

声の主であるだろうと思える者の姿は見あたらない。

このバベルの塔そのものが、管理者ということになるのかしら。

かかわり合いになる必要性は感じられないが、挨拶くらいはしても問題ないか。



「私は地上世界から、ミミックを無効化するためにこの世界へやってきました。」

『はい。存じております。』

「管理者さんに質問です。私の前へ鬼畜クエストについての画面を映し出しているのは、あなたの仕業なのですか。」

『肯定です。三華月様にクエストへ参加していただきたいと思いご案内させてもらいました。よろしく願いします。』

「やはりそういうことでしたか。残念ながら、そのお願いはお受けできません。」

『え。どうしてですか。何故、鬼畜クエストへ参加してもらえないのですか?』

「はい。普通のクエストならまだしも、鬼畜クエストというのは、さすがにちょっと気持ちが引いてしまいました。」

『三華月様。ご案内しましたとおり、現在参加している冒険者達の力量では、この鬼畜クエストを成功する確率は0%なのです。参加している58名の冒険者達を見捨てないで下さい。彼等彼女達を助けてやって下さい。三華月様は、人を助ける使命をもった聖女ではありませんか。』

「残念ながら、私は信仰心が関係しない人助けについては、前向きな気持ちになることが出来ない聖女なのです。そもそもな話ですが、その冒険者達は強制的にクエストへ参加したとでもいうのでしょうか。」

『いえ。彼等彼女達は、自身の意思によりクエストへ参加しております。』

「それでは、クエスト失敗は自己責任ということでいいではありませんか。」

『三華月様。生意気なことを申し上げますと、一般的な聖女様とは、自身が聖女であることを隠そうとするものの、人助けをして氷の騎士団長に正体がばれて恋愛に発展してしまうというのが定型の流れなのです。』

「つまり、人助けをするのが聖女の定番だといいたいわけですか。」

『肯定です。』

「私は、聖女であることをひた隠しにはしておりません。氷の騎士団長とやらにも一切の興味がありません。残念ながら、その定番の話では鬼畜クエストに参加しようという気持ちにはなれません。」

『三華月様。もう一つ、定番の聖女様の話について聞いて下さい。偽物の聖女ということで国外追放をされたとしても、結局は本物でしたということで、追放してしまった国は滅亡し、追放先の国が栄え腹黒王子と溺愛されるものなのです。』



管理者は、一体なんの話をしているのだろうか。

定型の聖女の話については何ら感化される点はない。

逆に、かかわる男達から言い寄られたり、溺愛される方が気持ち悪い。

とはいうものの、管理者のことを無視してしまうと、量産品の聖女についての話を延々と垂れ流してくるかもしれないか。

機械少女は作業が24時間程度かかるといっていたし、参加するだけなら問題ないか。



「分かりました。とりあえず、その鬼畜クエストとやらに参加させてもらいましょう。」

「有難うございます。調子にのっている冒険者達に、三華月様の鉄槌を落して下さい!」



話がおかしな方向へ暴走していないか。

槍の又兵衛をいう者を倒すクエストに参加するのであって、何故、冒険者達へ鉄槌を落とさなければならないのだ。

嫌な予感がするが、不都合があればクエストそのものを破壊すればいいことだし、問題ないだろう。

正面に景色が歪み、片開きの木製扉が現れてきた。

これは一般的に、どこで〇ドアという奴だな。

この扉の先に、目的地となるクエスト会場があるということなのかしら。

促されるまま、扉を開き、その先へ足を踏み入れた。


◇◇◇◇


青空に流れている雲の速度が速い。

焼け野原となった大地が広がり、冷たく吹く風の音が聞こえてくる。

360度に地平線は続いており、建物のようなものは見当たらない。

ここが鬼畜クエストが行われている会場なのか。

冒険者達が包囲網を敷き、1人の武将と戦う姿が向こうに見えていた。

あれが、槍の又兵衛なのだろうか。

姿形は私達とさほど変わらない。

背丈は2m弱。

全身に甲冑を装備し、3m以上ありそうな槍を振り回している。

現在は冒険者達から集中攻撃をされており、器用に槍を振り回し防御に徹していた。

包囲網を敷いている冒険者達は、槍の武将がどう動くのか予知しているかのごとく、全員が迷うことなく行動している。

攻撃、防御、補助、回復の役割分担が明確化されており、見事に連携する姿が繰り広げられている。

隙を見て槍の又兵衛が攻撃に転じる際も、ノータイムで対応していた。

管理者からはクエストの成功確率が0%とされていたが、確実に攻略ルートにのっているように見受けられる。

離れた位置から戦況を見ていると、戦闘には参加していない神官が私の存在に気が付き近づき深く頭を下げてきた。



「地上世界の聖女、三華月様でしょうか。私はバベルの塔で神官をしている者です。こちらの世界に渡ってきたと私が仕える神より聞いておりました。まさかこのような場所に来ていただけるとは驚きました。」



神官の年齢は30過ぎ。

背の高いやせ型の親父だ。

神父専用の黒いローブを身に着け、それらしく見える杖を持っている。

クエスト参加条件はS級相当となっていた。

私には遠く及ばないものの、かなり神格が高いように見受けられる。

最も信仰心が高く、清く可愛いらしい聖女がバベルの塔へ来ことが、大きなニュースになっているのか。

一般的にいうアクセスランキング1位というやつのことだな。

深く頭を下げていた神官が、自身の役割と、戦況について説明を始めてきた。



「私の役割は万が一の事態に備えて、ここで待機をしております。」

「それは、予備戦力の扱いということですか。」

「はい。実際に我々は槍の又兵衛との戦いに既に12回ほど敗北しており、そのつど私が撤退戦を指揮させてもらいました。」



神官は撤退戦に関するマニュアル書のような分厚い本を手に持っていた。

相当の量の情報が書き足されているようだ。

敗北を繰り返し、緻密に戦術を組み上げてきているということかしら。

冒険者達は、槍の又兵衛がどう動いてくるのか予知しているように動いているのは、敗北を繰り返し、データを蓄積してきた結果に導いき出しだということか。



「ここから見た感じ、冒険者達は『槍の又兵衛』に対し確実にダメージを積み重ねていっているようですね。」

「はい。現在の戦闘は、開始されてから50分程度続いております。シュミレーションとおりいけば、まもなくこの戦闘は終わる予定となっております。」



戦闘が始まり50分ほど経過しているにもかかわらず、冒険者全員の動きに乱れが見られない。

この戦闘のスキームを組み立てた指揮官は相当優秀な者なのだろう。

その時である。

戦況に大きな動きが見られた。

―――――――――――槍の又兵衛が、一瞬の隙を付き天高く跳躍をしたのだ。

冒険者達の頭上で、20m程度は飛んでいるだろうか。

最高到達点に達した位置で、派手な動作をやり始めている。

もしかしてあの意味不明なアクションは、必殺技を出す前にやるモーションなのかしら。

草原にいる冒険者達は素早く密集体型を取り始めていく。

隣にいた神官が、これからの動きについて説明をしてくれた。



「三華月様。又兵衛が『破滅の炎』を繰り出してきます。」



大地が焼け野原になっているのは、その物騒な技のせいということか。

必殺技を繰り出す際に行うその動作。

格好いいと言えばそうなのだけど、攻撃方法を対戦相手へ告知しているようなものだぞ。

密集体型をとっている冒険者達は、頭上から降り注がれてくる『破滅の炎』に備え、シールド展開を開始させている。

槍の又兵衛は、相当のダメージを蓄積しているようで、戦況を一変できる大技を使用するつもりなのだろう。

神官からの言葉のとおり、この戦いも終わりがすぐそこまで近づいてきている。

冒険者達の勝利は目前だ。

宙へ跳躍した甲冑の侍の体から炎が舞い上がったタイミングで、眼下にいる冒険者達はシールドを完成させていた。

――――――――――又兵衛は咆哮を上げながら、槍の先端から冒険者達へ向け火柱を発射させてきた。

熱風が舞い上がってくる。

焼け焦げた大地に炎が広がった。

一面が火の海の状態だ。

私の横にいる神官についてもシールド展開をさせていた。

1秒程度経過したくらいだろうか。又兵衛の全身から発せられていた炎が消えていく。

その様子を確認したのだろう。

冒険者達の中心にいた指揮者が全員へ叫んだ。



「シールドを解除して、又兵衛へトドメの一撃を入れるんだ!」



必殺技を放った又兵衛は無防備の状態に加え、蓄積したダメージにより体力も残っていない。

冒険者の勝利が確定した瞬間。

思ってもいないことが起きていた。

―――――――――――時が巻き戻り始めていたのだ。

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