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155話 ソフトな言葉へ変換しないで下さい

異世界の真っ青な空に光る太陽が世界を照り付けていた。

囲まれた街の気温が既に40度近くまでなっており、空気に気温の差が生じた結果、景色がところどころに歪んで見えている。

3階のテラスデッキから街を見渡すと、雑多な街に虫が隙間なくもぞもぞと動くように、見通しのよい幅広の主要道路が人で埋め尽くされていた。

雑居音が街全体にこだまし、大気が汚れている。

マッシュヘアーのイケメンが体からプラズマを放電し続け、無数の電気にラインが走っていた。

最初の階層を守護している監察官と現在、世界を賭けて戦っているところだ。

私達の周囲には暗黒物質の球体が無数に浮遊しており、監察官が放つプラズマを吸収してくれていた。

隣で片手にA4サイズのタッチパネルで何かを検索していた鳳仙花が、雷撃を発射し続けている監察官を挑発するように、更なる情報を獲得するため動き始めた。



「監察官さん。あなたが放電しているプラズマは、調べてみると磁力を発生させたり、物質の性質を分解する特性を持っているというらしいじゃないですか。」

「えっ。磁力って何。物質の性質を分解するって、何を言っているのかよく分からないんだけど。」

「ああ。そうですか。それはそれは。今した質問は聞かなかったことにして下さい。ということは、つまりその『雷撃』で、監察官さんからの攻撃はもう手詰まりなったと考えてよろしいのでしょうか。」

「ふん。お前達の方も、その暗黒物質で俺の攻撃を凌いでいるものの、それ以上のことは出来ないじゃないか。」

「ああ。なるほど。もの凄い勘違いをされているようですね。」

「勘違いだと。どういうことだ!」

「この暗黒物質は私をプラズマから守るために展開したものです。」

「それはつまり、その聖女は俺のプラズマ攻撃を受けても平気だとでもいうのか。」

「はい。自己再生を獲得している聖女様には、そのクソしょうもないプラズマなんて効きません。」

「おい。今、なんと言った。俺の『雷撃』がしょうもないと言ったのか!」

「しょうもないではなく、クソしょうもないです。勝手にソフトな言葉へ変換しないで下さいよ。」



監察官が顔を真っ赤にさせている。

予備動作無しから発射される先制攻撃を防がれ、攻め悩んでいたところに、おかっぱヘアーの少女から言われた言葉が深くこたえた様子だ。

雷撃には火傷・痺れ効果があるが、鳳仙花が指摘したとおり自己再生の回復効果の速度が遥かに上回っている。

攻撃を受けたとしても、肌かゆい程度のものにしか感じないだろう。

交わされた会話を聞く限りでは、監察官の攻撃手段は『雷撃』しか持ち合わせていないようだ。

煽りながら言葉巧みに相手の情報を引き出している鳳仙花は、さすが元闇商人といったところか。

おかっぱヘアーの少女が大きくため息をつきながら、マッシュヘアーの男へ最終勧告を開始した。



「監察官さん。こちらの聖女様は最高神の一角であるアルテミス神から無限に威力を上げられるという運命の弓を授かっておりまして、つまり簡単ここからあなたを撃ち抜くことが可能なのです。」

「何。聖女なのに弓を使うのか。」

「そうです。聖女様の弓から発射される超音速の矢の餌食になる前に、降伏することをお勧めさせてもらいます。敗北する運命は決まっているのですから、痛いおもいはしない方がいいでしょう。」

「俺を舐めるな。プライドにかけて俺は最後まで戦うぞ。」

「プライドも大事ですが、死んでしまったら元も子もありませんよ。」

「え。俺を殺すつもりなのか?」

「こちらの聖女様は、見た目は天使。中身は猛獣ですよ。」

「その聖女の中身は猛獣なのか。」

「これはマジです。私は監察官さんが心配なんですよ。食い殺される前に降伏して下さい。」



鳳仙花が泣きそうな顔をしながら心配しているその表情は、まさに迫真の演技だ。

この高い演技力で、土竜にアイテムを売りつけたのかしら。

マッシュヘアーの男は目を見開き、あからさまに動揺している。

もしかしてさんざん煽られたにもかかわらず、心配されている言葉をかけられ感動しているのだろうか。

それにしても、脅すつもりとはいえ、聖女である私の中身が猛獣だなんて、酷い言い方をするものだ。

もっと違う言い方はなかったのかしら……。

監察官は、発射し続けていたプラズマ放電を停止し態度を変え、不適な笑みを浮かべてきた。



「俺から情報を引き出そうとしていたようだが、実はその逆よ!」



マッシュヘアーの男は仕切り直しのような感じで、身構え始めた。

おかっぱヘアーの少女についてはやれやれの仕草をしている。

監察官は私の情報を引き出したと言っているが、ろくなものは無かったはず。

どうしてそんなに勝ち誇っているのだろうか。

何か切り札のようなものを持っているのかしら。

自信満々な様子で、私の攻略法について宣言をしてきた。



聖女(おまえ)は弓を使用するということは、つまり近接戦が苦手ということなんだろ。」

「あー。なるほど。そう受け取ってしまいましたか。」



隣にいる鳳仙花が頭を抱え、やらかしてしまった時にする呻き声を上げた。

その様子をみた監察官は、勝ち誇った表情を浮かべている。

指摘のとおり、狩人は近接戦が苦手であるのが通常だ。

一般的には、マッシュヘアーの男のその推測は間違っていないのだろう。

だが、実際のところ、私は、ゼロ距離での対人戦は、距離を置いて戦うよりも得意だったりするのだ。

監察官がどれほどの戦闘力かは不明であるが、こちらとしては望むところ。

受けて立ちましょう。



周囲に浮遊させていた暗黒物質の結界を解くと、派手な十字架のデザインが刻まれた聖衣の状態へ戻り始めていく。



監察官との距離は10m。

間合いを詰めるために一歩足を差し出すと、監察官は慌てた様子で半歩後退りをした。

近接戦に応じた態度に驚いているようだ。

おかっぱヘアーの少女が言っていたとおり、私の勝利は約束されていた。

余裕を失くしている監察官と鳳仙花が、再び問答を開始した。



「どういうことだ。何故、狩人である者の方から間合いを詰めてくるんだ?」

「説明不足のようでしたが、こちらの聖女様は狩人であり、そして修羅界の頂点に君臨する拳聖なのでもあるのです。」

「修羅界だと。」

「修羅界とは、その世界へ落ちると終始戦わざるえない世界のことです。まさに最強を決める世界なのです。」

「はったりだろ。そんな薄っぺらい体で、拳聖であるわけがないだろ。」



今、聞き捨てならない言葉を言いやがったぞ。

薄っぺらい人という言葉があるが、それは中身がないと感じる者のことをさす。

つまり、薄っぺらい体という言葉にその意味を置き換えると、中身のない胸となる。

なめてんのか、このガキ。



「少しくらいの中身なら、ありますよ!」



一喝した言葉に、監察官と鳳仙花が言葉を失い戸惑っている。

気まずい空気が流れ始めた。

何かおかしなことを言ってしまったのかしら。

隣にいた鳳仙花が我に返ったようで、慌てて言葉を追加するように監察官へ余計な説明を開始した。



「監察官さん。聖女様が言った《《中身》》とは胸のサイズのことを指しておりまして、おかしなことを言ったわけではありません。」

「それは、俺が《《そんな薄っぺらい体》》と言ってしまった件について、気を悪くさせてしまったということなのか。」

「はい。そういうことになります。」

「そういうつもりで言ったわけではないが…。いや、言い訳はよくないな。深く傷つけてしまい、申し訳なかった。」



マッシュヘアーの男が気まずそうに頭を下げてきた。

鳳仙花は視線を合わせようとしない。

何だか物凄く空気が重くなってしまった。

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