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軍船へ侵入

太陽光が厚い雲に覆われ、夜のように暗い世界が広がっている。

穏やかな生暖かい風が吹き、柔らかい雨が降っているものの、海は嵐のようにうなりを上げていた。

ところどころに数キロ単位の渦が出来、潮が激流の河のように流れている。

全長200m級の帝国旗艦ポラリスの甲板から海を見渡すと、すぐそこに木目模様をした流線形の船の姿がある。

運命の弓でエンジンを撃ち抜かれ、航行不能な状態に陥っているラーの軍船だ。

船内にいる漂流者達を救助するため、渦潮を乗り越えて接近してきたのだ。



「ペンギンさん。私はこれから軍船内へ侵入し、状況を確認してこようと思います。」

「そうですね。船内の安全が確認された後、漂流者達をこちらの船へ移すことに致しましょう。」

「ペンギンさんの方は、ポラリスが軍船から離れないように、船をコントロールしていて下さい。」

「承知しました。これより、三華月様が軍船へ空けた穴に向け、アンカーを打ち込まさせてもらいます。」



潮の流れが速い状況下であるが、船体はペンギンの操舵技術により安定し始めていた。

ポラリスが接岸の際の使用するアンカー台が器用に動いている。

そしてペンギンの号令で甲板から発射されたアンカーが、正確に軍船の装甲に空いた穴へ引っかけられた。

100m級の軍船が、200m級のポラリスから必要以上に離れないように鎖で繋がったのだ。

その距離100m程度。

これ以上近づくと、コントロールを失っている軍船と接触する可能性がある。

抱きかかえていたペンギンを甲板へ降ろし軍船へ侵入する準備を始めると、ペンギンが真剣な顔つきで気遣う言葉をかけてきた。



「三華月様。絶対に無理はしないように願います。」

「お気遣い頂き有難うございます。未知の場所に侵入するので不安ではありますが、まぁ私なら大丈夫だと思います。」

「誤解を招くような言い回しをして申し訳ありません。言い直させてもらいますと、無理だと感じたとしても無茶苦茶な事だけは絶対にしないで下さい。」

「ん。もしかして、私を気遣っているわけではないのでしょうか。」

「もちろんです。軍船を破壊するような行為だけは、絶対に避けるように深く願いします。」

「なるほど。ペンギンさんが心配している対象は、私ではなく軍船の方ということでしたか。」

「三華月様。もう一度繰り返しますが、絶対に船を破壊しないように穏便にお願いします。」

「そう何度も言わなくても大丈夫です。」

「またやらかすのではないかと、マジで心配なんです。何でしたら、もう3度程度ほど念押ししたいくらいです。」

「ペンギンさん。一度言われたら理解できますし、私はやれば出来る子なのですよ。」

「やれば出来る子とは、出来ない者に対して奮起を促す言葉ですよ。」

「私が軍船を破壊してしまうフラグをたてるような言い回しはやめて下さい。」



ポラリスの甲板から見下ろすと、軍船の最後尾に穴が空いている。

人が入れることが可能なサイズだ。

スキル『跳躍』を使用しても100mには届かない距離であるが、行かない選択肢はない。

海に落下したとしても、スキル『壁歩』の効果により海面を移動すればいい。



「ペンギンさん。行ってまいります。」



ペンギンが何かを言ってくる前に、甲板から高く跳躍した。

吹いている風に体が流される。

空中から見下ろすと、ほぼ狙いどおりのポイントへ着地できそうだ。

ポラリスと軍船とを繋いでいるアンカーの鎖へ降りると、その鎖の上をスキル『壁歩』にて移動し、軍船内へ侵入に成功した。


全長100ⅿ程度ある軍船の20%を占めているエンジン室の中央には、巨大な砂時計が破壊された状態で宙に浮き静止していた。

次元列車に搭載されていた『時騙しの砂時計』と酷似している。

『時空騙しの砂時計』とは、次元時間に歪みを生じさせ、並行世界を行き来できるという代物だ。

この軍船も別世界へ旅立てるスペックが備わっているということなのかしら。

エンジン内を見渡すと、船頭の方向へ延びる通路がある。

物干し竿にて空けた穴からたえず入り続けてくる海水は、排出口へ吐き出され続けていた。

ペンギンへ、船内を調査してくると言ったものの、スムーズにいくとは思えない。

私は軍船からすると外来種のような存在であり、防衛プログラムが組まれていたならば排除しようとしてくるだろう。

ここで迎えうたせてもらいます。

私は運命の弓を召喚する。

全長3m超の白銀に輝く弓が姿を現すと、軍船内にいるかもしれない敵に対し宣戦布告をした。



「破壊したエンジンが動き出し、再びヨムンガルドが目を覚ましてしまうと面倒です。」

「…。」

「そう言うことなので、こちらの『時空騙しの砂時計』を完全破壊させて頂きます。」

「…。」



特に反応は無しか。

ペンギンからは軍船を破壊しないように言われていたが、この時計は対象外と考えて問題ないだろう。

装甲が比重の重いダマスカス鋼で出来ている軍船が浮いている理由は、緋色の『フロート』によるもの。

砂時計を破壊したとしても沈まないはずだからだ。

運命の矢をリロードしようとした時である。

軍船の先端方向へ伸びる通路から何かが近づいてくる音が聞こえてきた。

敵意を感じる。

やはり敵は船内に息を潜めていたようだ。

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