結局は育ての親-2
「おまえら見とるとホンマ飽きないわぁ」
「いいわね、傍観者は気楽で」
化学の授業も終わり、定位置ともいえる彼女の隣に並んで昼食を取っていた。
ちなみに僕のお弁当はハルルの手作りだ。最初の頃は僕が毎日作っていたのだが、流石に申し訳ないからと火曜日と木曜日は彼女が作ってくれることになった。
僕にとっては愛妻弁当。これをいうとハルルは「妻でもないし、ただの義理弁当よ」と返してくる。それでも、僕はめげずに言い続けるのでクラスメイトからあたたかな目で見られるのであった。
「カガヤのお弁当は相変わらず豪華ね。私の茶色ばかりお弁当と違って色も華やかだわ」
「レディー、色はなくても今回のお弁当は健康は考えられていますよ」
「余計な一言あるけど、フォローありがとう……」
「せやろ~。お手伝いさんにはホンマ感謝やわ~。でも……」
そう言ってカガヤは嬉しそうに一つのおかずを箸で掴んで、僕たちに見せてきた。
アスパラとベーコン巻き。シンプルなおかずだ。
「あら、カガヤの嫌いなアスパラじゃない。なんで、そんな嬉しそうに見せるのよ」
「これ、第二夫人が作ってくれたんだー!」
「あァなるほど」
どうしてカガヤが嫌いな食べ物なのに、嬉しそうにしているのか。
彼の応えにて僕もハルルも納得のこえを上げる。
地位が高い者ほど。権力が高い者ほど。魔法使いとして価値がある者ほど。
この魔法世界では一夫多妻制が許される。
勿論、この東の日の国では一夫一妻が基本決まりだ。
しかし、魔法使いは世界的に見ても数が少ない。また、上に行くほど後継者争いは酷く、また外部から命を狙われやすい。
そのため、優秀な血を残すために、魔法界では『六大魔賢者』の地位を持つ家柄を始め、魔法機関から許された者のみ一夫多妻制を認められるのである。
そして、輝光カガヤは東の日の国にて一夫多妻を認められた優秀な魔法使い一族『輝光』の第三子である。
「料理苦手なんやけど、俺のために一生懸命作ってくれはったんだ」
「でも、なんでアスパラ? 一歩間違えれば嫌がらせよ?」
「自分が頼んだんや」
「いや、なんで?」
わざわざ自分から嫌いな食べ物をお願いする意味が分からない、といったところだろう。カガヤの応えにますます意味が分からないと首を傾げるハルル。
「だって、むっちゃ好きな人が作るご飯は嫌いなもんでも美味しく食べたいやろ」
「そういうもん? 私、ママが作る料理でも嫌いなものは嫌いって拒否ってたわよ」
「それは琉々宮の考え方や。琉々宮は琉々宮、自分は自分や」
「そう、よね……。そうよね」
「僕はカガヤのそういうところを尊敬しますね」
自分は自分。他人は他人。
カガヤのそういうところが、僕の友人になれる理由の一つかもしれない。
「それ、にカガヤの考えには僕も同意します。愛する人の料理はなんでも美味しく食べたいですもんね」
「……ちょっと、待って。もしかして、私、今まであんたの嫌いなものお弁当に入れてたりしてた」
「ふふふ♪」
「ふふふ、じゃないのよ!? え、何。いま入ってる、入ってたりしてる!?」
「いいじゃないですか。入っていても」
「私が嫌なのよ!!」
実は正解。このお弁当箱の端に入っている緑の悪魔が、僕は好きではない。だけど、頑張れば食べれるという、「食べれないわけではないが好き好んで食べるようなものではない」って感じで嫌いなタイプ。どうもあの苦味が得意になれないのだ。
ちなみに、彼女に作るお弁当には絶対に嫌いなものはいれたりしない。彼女の嫌いな食べ物は日々更新して理解しているので、必ず避けて美味しい料理を作るように心がけている。
「教えなさい!!」
「嫌ですよ。せっかくここまで上達したんだから。好き嫌いを入れないのは上級者のやることですし、まだ早いです」
「余計な一言あるけど、フォローありがとう!! でも、教えなさい!!」
「あはは! ホンマ飽きないわぁお前ら」
「恋人に見えます?」
「見える見える」
「あんたは余計なこと言うんじゃないわよ!」
こんなに騒がしいお昼だが、実はいつもこんな感じだ。
だから、クラスメイトもあたたかな目を向けるだけで、誰も注意なんてしてこない。
「まぁまぁ、それだけ愛が深いっちゅうことやろ。許してやれや」
「はぁ……せめて、本当に苦手なものだけ教えてくれないかしら? 作っている人間として申し訳なるから」
「僕は別に入っていてもいいんですがね。とりあえず、納豆は止めてください」
「あら外国人みたいな答え」
「半分外国人ですし、外国に住んでいましたから」
東の日の国の血が入っていようが納豆は嫌いだ。何故、彼らはあれを食べようと思ったのか。その心理が理解できない。
「あれを食べようとしたときって餓死寸前だったんでしょうかね」
「そういう話なら貝も当てはまりそうよね。昔、貝を食べない人が東の日の国の人が食べた姿を見てドン引きしたそうよ」
「ホンマ食文化って不思議やなぁ。自分、エスカルゴとか食べるのにいまだに抵抗あるわ」
「でも、第二夫人の方が作ったら食べるのでしょう?」
「当たり前や!」
カガヤはそう言って、アスパラのベーコン巻きを口に含んで一生懸命かみ砕出て飲み込んだ。その表情から、本当に嫌いなのだと伝わるがそれでも一つ残らず噛んで飲み込んでいく。
「実の子でもないのに愛してくれるんやで。生みの親よりもむっちゃ好きや」
「ほんと、失礼だどわかっているけど、私には理解できないわ」
ハルルは、母親にとても大事に愛されて育ち、反対に父親に愛されなかった。
魔法使いの中でも、優れたものには称号を与えられる。
特に魔法機関から優れた女性だと認められたとき、その者は『魔女』と名乗ることが許されるのだ。
「私は優秀なママの血を引いているの」
流々宮ハルルの母親もまた、魔法機関から『魔女』の名を与えられた。
死にゆく大地を救い、作物のための環境を。建物を建てるための地場を。塞がれた道に新たな道を。
そんな人々の生活から経済まで大きく貢献した彼女が、何故あんな男と結婚してしまったのか。
魔法界とってはいまだに解き明かせない謎の一つとされている。
そんな優秀な魔女の血を引いている魔法使いであり、三百年振りに発見された新しい属性。
それは世界中から貴重な実験サンプルとして見られるということ。
そんな誰もが手を伸ばして欲しがる彼女を、実の父親は価値もわからず、なんと一千万如きで売ってしまったのだ
「さから、復讐してやるのよ。優秀なママの血を引いているこの私を……たかが、一千万ごときで叩き売ったあのくそ親父にね!!」
これが、彼女が魔法使いとなる目標の一つだ。
「本当にごめんなさい……」
「育ってきた環境がちがうとそういうもんやろう。それでも、理解しようと頑張ってくれることは嬉しいもんやで」
「僕は母親に関しては微妙な感じですね。レディーにもカガヤにも寄り添えなくて申し訳ありません」
産みの母親に愛情を一杯注いでもらって育ったハルル。
育ての母親に愛情を一杯注いでもらって育ったカガヤ。
こんなに正反対な環境で育ったはずなのに、二人は友人関係。
カガヤにも嫉妬することはあるが、カガヤ自身がハルルにそういう気持ちが一切ないことは知っている。
これはカガヤの育ての親、第二夫人の教育のおかげで「婚約者以外にそういう気持ちを持つのは禁止」といって育てられたようだ。
古風なのか、はたまた洗脳か。どちらかは僕にとって知りもしないことだが、そのおかげで僕はカガヤを数少ない友人として行動することができる。
第二夫人には感謝様様だ。
……それに、カガヤにはもう一つ感謝するべきことがあるのだ。
「そない気にするな~。せや、実は今日、第二夫人が美味しいケーキを買ってきてくれるみたいなんや、みんなで一緒に――」
「おい、輝光!!」
楽しそうに自分の家へと招待しようとするカガヤは突然声をかけられた。
「うん?」
「お前に聖なる決闘を申し込む!」
僕がカガヤを好ましく思う理由は一つだけではない。
カガヤは面白いほど聖なる決闘を挑まれる、ハルルとは違ったトラブルメーカーなのである。
「あー今日も面白そうですね」
「あんた本当にいい性格ね」
「勿論、一番は貴女ですよ」
「面白さでも一番は取りたくないわね」
カガヤくん、いい子過ぎて大丈夫かこの子!?と心配しているそこのあなた。
この物語でおかしくない人はいません。