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愛を学べ。復讐娘と腹黒紳士  作者: 乃蒼・アロー・ヤンノロジー
4/10

今日も頑張って『愛』を学びます-4


「ダーリン待ってー!」

「くるなぁあああ!!」


 今日もメンヘラ女に追いかけられるゲス男。

 だが、周りは学園の風物詩といったように「またか」と呆れる様に見るものばかりで、誰も助けるものなどいない。

 当然だろう。あんなゲス男助けたところで一害あって百利なし。関わらないことが一番だ。


「あんたも性格悪いこと簡単にするわよね」

「そうですか? 彼女にとっては良いことをしたと思いますが」

「よく言うわぁ……」



 結局あの後、力の差を見せつけられたメンヘラ女は敗北を認め、呪いを消した。

 僕としてはあのまま呪いがハルルに届いたとしても、魔法属性:『愛』にて打ち返されて呪い返しされるようなもの。寧ろ、そのような危機から救って差し上げたことに感謝してもらいたい。


「はうう、ダーリンごめんね……」


 不気味な人情を抱きしめて、メンヘラ女はメソメソとぶりっ子の如く泣き始める。

 はっきり言って、ウザい。


「あんなのゲス男の何処がいいのかしらね」

「ダーリンはゲスじゃない!?」

「いや、ゲスでしょう? 三股されたのよ、あんた」


 こんなメンヘラ女と普通に会話をしようとする彼女は逞しいのか、真面目なのか。僕はさっさと放っておいて、「図書館へ向かう」という放課後デートを楽しみたいというのに。


「そんなことないもん。ダーリンは私が一番だもん。浮気されたのはあの二人!」

「駄目だ。話通じない」

「わかりきっていたことでしょう?」

「いーからダーリンに謝りなさいよ!! 私に謝りなさいよ!! 呪うわよ!!」

「ちょっと、私、過去に戻った? それとも並行世界に干渉されてる?」


 さっき呪って負けたく癖に、また呪いをかけようとしてくるメンヘラ女。感情に任せて言っているようなので、多分何を言っても堂々巡り。似たようなことしか話さないと思われる。


「メンヘラ女さん。寧ろレディーに感謝するべきではないですか?」

「ちょっ、メンヘラって私のこと!?」

「はい。あ、名乗らなくていいですよ。どうせ僕すぐ忘れます」


 生きていく上で必要のない人物の名など覚える必要はない。必要ない記憶を脳内に残すなど、非効率的だ。


「はぁ!? 失礼な!?」

「失礼で結構。僕はそういう人間なので。で、話は戻しますが、貴女はレディーに感謝するべきですよ」

「どうしてよ!!」

「だって、あのゲス男は貴女だけのものになるでしょう?」


 貴女だけのもの。

 その言葉に先程まで煩かったメンヘラ女の口が止まる。


「あんな醜態をさらした男を貴女は見捨てずに、あまつさえ『ダーリン』と恋慕っている。いや、『恋』というより、これを『愛』とは言わずに何というんですかね?」

「愛……!」

「うっわ……」


 『愛』という言葉に、メンヘラ女の目がキラキラと輝きだした。それと同時に、ハルルからはドン引きしたような声が聞こえた。勿論、僕は聞いていない。


「そんな一途で健気な愛なんて中々ないものですよ。だから、こんな復讐のようなことに時間を使うよりも、そんな貴女の大きくて強い真っすぐな愛を彼にぶつけていった方がもっと唯意義な時間になると思いますよ」

「そ、そうかな」

「そうですよだから、僕らに絡むよりも傷ついて可哀そうな彼を慰めに行った方がいいのでは? きっとあなたにしかできない愛の行為ですよ」


 そう僕が締めにニッコリとすると、メンヘラ女は不気味な人形を抱きしめて、自分の世界――妄想の世界に惚け始める。

 そして、力強く頷き、決意した力強い目で僕たちに宣言した。


「その通りよ! 彼を慰められるのは私だけ!!」



 で、結果はこの通りである。


「助けてくれぇえええええ!!」


 その後、メンヘラ女はゲス男にベッタリだ。

 最初はゲス男もメンヘラ女を利用して傷ついた男のプライドを回復させようとしていた(男のプライドは回復できたとしても、魔法使い・人間としての二つのプライド回復は不可能だろう)が、段々メンヘラ女のメンヘラ本気が出てきたのであろう。今では、顔面真っ青になってメンヘラ女からなんとか逃げようとしている。

 だが、時に女は男より逞しい。どんなに策を練っても、愛に溺れる女の恐怖に敵うはずがない。だから、今日もどうせ逃げるのに失敗して、その精神を大きく削り取られることになるだろう。


「彼女は僕らにウザ絡みしない。ゲス男は僕らに復讐する暇もない。素晴らしい、一石二鳥ですね!」

「爽やかな笑顔ねぇ~」


 そんな呆れた目を向ける彼女も最高に美しいと僕は思う。


「『愛』ね……」


 窓縁に寄り掛かり、メンヘラ女とゲス男の追い掛けっこを見つめながら、彼女は呟いた。


「振り向いてもらえないのに、よく頑張るわよね」

「レディー?」


 先程までとは違い、寂しげな雰囲気を漂わせた彼女。追いかけっこを見ているはずなのに、その目に映らせるだけで。何か違うことをその頭の中に思い浮かばせているようでもあった。


「スイン。私、これでも感謝しているのよ」

「僕に?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()


 風が吹き抜ける。

 気付くと風は一枚の桜の花びらを僕に届けてきた。


 ――もう、二年になるのか。


 彼女と出会い、僕の恋心を奪われて二年。

 短いと思われるだろうが、それでも僕にとってとても充実した二年間。

 そして、これからもその日々は続いていくと僕は確信している。


「だけど、何度も言うけどあなたの想いには私は答えられないのよ。叶うはずのない恋ならば、諦めて違う恋を探してよ」

「いいえ、嫌です。僕は諦めません。諦めるぐらいならあなたを巻き添えにして死にます」

「本当に物騒ね、あんた」

「それほどでも」

「褒めてない」


 諦めて――それは、彼女が何度でも僕に言う言葉だ。


 諦めるはずがない。

 僕の激情とも表せる初恋を。楽しくて嬉しくてたまらないこの『愛』を。

 諦めろという方が無情である。


「後悔するわよ。時間を無駄にしたって」

「この愛を捨てた方が死ぬほど後悔しますよ」

「初恋は敵わないっていうわよ」

「そんな迷信、僕がぶち壊して差し上げますよ」

「……あっそ」


 何を言っても無駄だと思ったのだろう。こういう会話をするとき、いつも彼女が先に折れて会話を終了させる。

 そう、これはお決まりの会話なのだ。



 彼女は容姿もそうだが、性格や考え方も母親に似なかったという。

 父親似……正確に言えば完璧に父親似というわけではなく、父親の親族側のような考え方を持つ。

 それは生まれ持った性格。だが、ある程度は育て方によって価値観も変わるものだ。

 だが、彼女は恐れているのだ。父親に似てしまった自分を。


 彼女は相手を幸せにする自信がない。


 あれ程毅然としていてどんな相手でも誇り高く、強く生きようと頑張る彼女でも、『愛』に関しては無意識に憶病なのだ。

 

 彼女が言うには、父親は自分に無関心だったという。


『昔は、愛されていたのかもわからなかった』


 かつて、そんなことを彼女は言っていた。だが、魔法機関に売られたことで「自分は愛されてなんかいなかった」という真実を突き付けられ、彼女は売られたその日から父親への怒り炎をその身に宿した。


 ……だけど、僕は思う。

 いきなり『怒り』が宿ったのではない――

 先に『悲しみ』が宿り、それが『怒り』へと変わっていったのだ、と――



『理事長。釘バッドについては彼女のことを責めないでください』


 あの日、理事長室から退出する時、僕は少し遅れて彼女のあとを追った。


『愛で具現化した釘バットは、彼女の心、そのものです。刺々しいものかもしれませんが、『愛されたかった』っていう、気持ちの表れでもあるんですよ』


 どんなに怒りの気持ちを向けようとも、父親。

 根っから嫌いになれたらどんなに嬉しいことか、()()()()()()


 母親に大事に愛され、父親に愛されなかった女の子。

 それが『釘バット』として現れるぐらいなら、まだ可愛いほうではないだろうか。


 

「ハルル」

「……何よ」


 珍しく名前で呼ぶ僕に彼女は眉を潜ませながら目を向けた。


 愛は全世界を救う。……と、いう大げさなことは思わない。

 というか、「愛で世界を救う」なんて正義感・博愛主義なんて僕の人生にはどうでもいいものだ。


 ただ、思うのは、彼女の信じる『母の愛』を超えること。

 彼女を束縛する『父の呪い』を、どうでもいいものにすること。


 ただ、それだけだ。


「これからも愛してますよ」

「あんたね~」


 そう言って彼女は頭が痛いとでもいうように手で押さえ、僕はそんな姿にニッコリと笑うのであった。


……あ、そうでした。

あの後、ゲス男は親の金を使い、逃げる様にこの学園から別の学園へと転校していきました。

まぁ、あのメンヘラ女もそのあとを追いかけるようにしてこの学園を去りましたけどね。




今日も頑張って『愛』を学びます 終

UNISON SQUARE GRRDENの「桜のあと(all quartets lead to the?)」に出てくる歌詞、「愛が世界救うだなんて僕は信じてないけどね」の部分が凄く好きなんですよ。

お時間あるときにお聴になってみてください!

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