今日も頑張って『愛』を学びます-3
魔法使いの中でも、優れたものには称号を与えられる。
特に魔法機関から優れた女性だと認められたとき、その者は『魔女』と名乗ることが許されるのだ。
「私は優秀なママの血を引いているの」
流々宮ハルルの母親もまた、魔法機関から『魔女』の名を与えられた。
彼女の母――流々宮ナツカは大地の魔法使いとして人々に恩恵を授けた。
死にゆく大地を救い、作物のための環境を。建物を建てるための地場を。塞がれた道に新たな道を。
そんな人々の生活から経済まで大きく貢献した彼女が、何故あんな男と結婚してしまったのか。
魔法界とってはいまだに解き明かせない謎の一つとされている。
「……なによ?」
理事長室からの帰り道。
僕は定位置である彼女の隣を歩いて、その善美な姿を眺めていた。
「いえ、相変わらずお美しいお姿だって思って」
「ありがとう。……ママの顔ではないけどね」
彼女は自分の顔があまり好きではなかった。
理由は簡単。敬愛する母親似ではないからだ。一緒に出掛けるたびに関係を聞かれるほど似ていなく、それがとても寂しかったと言っていたことを思い出す。
同時に、それは父親似を表すため、自分を売った父親の血がより濃くその身に流れていることに落胆するらしい。
「そうですね。それは貴女だけの顔だ」
でも、僕にとってそんなことはどうでもいい。
僕が愛しているのは、ハルル。彼女なのだから。
「……ありがとう」
僕の言葉に少し愕然としたのか、それでも少しの間を置いて小さな声で彼女の口からお礼の言葉が出てきた
同時に、はにかむその姿は傍にいながらも中々見れないレアな表情なので、逆に僕の方が一驚して声が裏返りそうになってしまう。
勿論そんなカッコ悪い姿は彼女の前では絶対に見せたくないので、必死に表に出さないようにいつもの通りに取り繕うのだった。
「ところで、僕のレディー。今日の放課後、何かご予定は?」
「そうね。借りていた本も読み終わったから、新しい本でも図書館に探しにいこうかなぁって思ってた感じだわ」
「では、僕もご一緒しますね」
「あなたはいつでもご一緒でしょ?」
「当たり前ですね」
「ちょっと、あんた!!」
彼女と会話を楽しんでいると、後方から甲高い声が向けられ、歩みを止めた。
「あんたね! 私のダーリンに怪我をさせたのは!!」
そう言って、足をドスドス鳴らしながら近寄ってくる女子生徒。
黒髪ツインテール、許されている限りのモノトーン中心制服ファッション、赤系アイシャドウ。それにプラスして不気味な人形を腰に付けている。所謂、地雷系ファッションといえばいいだろうか。
「……誰?」
「知りませんね。僕らの認識外の女性みたいです」
「知らないはずないでしょ!! ダーリンのハニーなんだから!!」
なんか面倒臭いのに絡まれてしまったらしい。
それは彼女も同じようで、会って数秒しかたっていないのに辟易した顔をしている。
「あのー誰かと間違っていません? 本当にわからないんだけど」
「間違えるはずないでしょ!! さっきダーリンをあんなにボコボコにしたくせに!!」
「……あーなるほど」
「わかったの?」
「えぇ、おそらくはあのゲス男の三股の一人ではないかと」
あの時、聖なる決闘に立ち会ってきた女性は二人と、一人足りない状態だった。もう一人はどこにいるのか、とは考えていたが、まさかこんな地雷系少女だったとは夢にも思わなかっただろう。
「私のダーリンをあんな風に恥かかせて!! あんた呪われる覚悟はできてんでしょうね!!」
「え、なに。私、このメンヘラ女の相手しなきゃいけないの?」
「無視していいのでは? 呪いだってそこら辺のものなら跳ね返せるでしょう?」
彼女の魔法属性:『愛』のいままでにない特性の一つは、悪意ある呪いが通じないことだ。
何処かのお伽噺のように、『愛』は『呪い』に勝る。
それも、悔しいが彼女が一番に想い信じる『母の愛』ならなおのこと強いってものだ。
「いいの!? 呪うわよ!!」
「呪ってもいいし、ここで聖なる決闘をしてもいいわよ。丁度、第三者立会人もいるし」
「はい、お任せください」
学園内における聖なる決闘のルール、その一。
聖なる決闘を行う際は、第三者の立ち会いの下に行う。この場合、第三者はいかなることにも偽りなく、真実のみを伝える証明人であれ。
ちなみに、もし第三者が偽りの報告をすると全身に雷の鉄槌を食らうというオマケつきである。
「いやよ、不正とか卑怯なマネする可能性あるじゃない」
「呪いの方がよっぽど卑怯じゃない?」
「あたしは自己申告しているからいいのよ!!」
「こいつメンヘラじゃなくてキチガイか」
「同じでは?」
僕としては同類のような気がするのですが、どう違うのですかね。
「あぁあもう!!」
しかし、僕たちの会話に痺れを切らしたのか(元々我慢していなかったような気もしますが)、彼女――メンヘラ女は怒りで顔を酷く歪め、腰に付けていた不気味な人形を彼女の前に突き付けた。
「『ドゥッルルバッキャ、ドゥッルルバッキャ』……!!」
「おや、これは……」
「呪いね」
専門外の自分たちでもわかる呪い語。
呪い語には法則性はなく、『呪いたい相手をどうしたいかという感情』から自然的に唱える呪文。
ちなみに、呪いにも種類がある。なんせ、呪いとは「まじない」とも読むのだ。
相手を憎み災いを降り注がせる『呪詛』。相手の幸せを願い繁栄をであることを祈る『祝福』。
まぁ、どう見てもメンヘラ女の呪いの種類は『呪詛』であるようだが。
「『グッシャラヅゥキャラ』!!」
足元から赤黒く渦巻く炎。どうやら、彼女の魔法属性は『炎』のようだ。
それならば、と僕は右手の手袋を外した。
「いいわよ? このぐらい釘バットで打ち返すから」
「それでは乱闘扱いになってしまいますよ。ここは穏便に片付けましょう」
「これで、終わりよ!!」
ようやく呪いが完成したのだろう。メンヘラ女の目が赤色に変わる。
「『グシャラティア』!!」
呪い語を叫び、大きく渦巻いた呪いの炎がリアルな骸骨の形変化する。
バロォオオオオオオオ!!
炎のガイコツは憎悪で満ち、ひどく醜い姿でがハルル向かって襲いかかってくる。
―ーだが、遅すぎる呪いだ。
「閉じ込めろ――『水鏡』」
印を作り、僕が魔法を唱えた終えた時、ハルルの前に巨大な水の鏡が出現した。
そして、そのまま炎のガイコツを吸い込んでいく。
「へっ――!?」
メンヘラ女はその予想外の展開に、間抜けな声を上げた。
だが、僕はそんなことを気にすることなく放出された呪いの塊を余すことなく水の鏡へと閉じ込めていく。
炎と水の相性は最悪だ。炎が大きければ水を蒸発し、水が多ければ炎を消す。
つまり、最終的には所持魔力量での戦いになる。
まさか、自分の魔力が下回っていたとは思わなかったのだろう。メンヘラ女は目を見開きと零しながらその場から動けないようだ。だが、そうしている間にすべての炎のガイコツを水の鏡へと閉じ込め終える。
「わ、わたしの魔力が……!?」
「僕の勝ちのようですね」
「そ、それになんで……!? あんたの魔力は『夜』属性のはずでしょ!?」
「おや、ご存じでしたか? もしや先程の聖なる決闘をご覧になっていたのですか?」
「まさか、あんた……『二種魔属保持者』!?」
普通、魔法使いが持つ魔力は一種類のみ。
だが、稀に二種類の親和性の高い魔力を保持する物が生まれてくることがある。
これは先天性才能であり、その者たちを人々は『二種魔属保持者』と呼ぶ。
僕の場合は、水と夜の属性保持者だ。
「あら、スインは結構有名よ。入学当時の先生の取り合いは凄かったわね」
「それは貴女もでしょう。まぁ、師匠を決めていた僕たちににとってはありがた迷惑の話でしたよね」
当時の出来事を思い出して辟易しながら僕は印を結んだ手をメンヘラ女へと向ける。
「ひっ!?」
その意味が分かったのか今度は顔色を真っ青にして、腰を抜かし尻もちをついた。
「Chickens come home to roost ――『人を呪わば穴二つ』。さぁ、交渉しましょう」
「こ、交渉……?」
怯えるメンヘラ女にワザと足音を鳴らしながらゆっくりと近づく。
そんな僕の行動にハルルがため息をついているのが見なくてもわかる。
そうです。僕、性格悪いんですよ。
「はい。あなたのその怯え方からして、この呪いは貴女にとって強力なものなのでしょう。これを鏡のように貴方に打ち返したらどうなりますかね?」
「そ、それは!!」
「貴方が込めた通りの呪いが貴方へと降り注ぐ。怖いですねぇ、貴方が想像する恐怖がどんなものかわかりませんが」
メンヘラ女の目の前。ゆっくりと膝をついてしゃがみ、顔色と正反対の赤色の目へと印を結んだ目を突き付ける。
「さっさと呪いを消しなさい。でなければ、容赦なく打ち返しますよ」
「はひっ!?」
「それ、交渉じゃなくて脅迫よ」
背後でハルルが突っ込んでいたが、僕の耳には聞こえません。
魔法ってだけでなんでもありなので、結構好き勝手書いてます。
楽しー!




