今日も頑張って『愛』を学びます-2
真歴20XX年の現在では、七つの属性が確認されている。
炎・水・空気・大地・光・夜――そして、『愛』。
この魔法属性:『愛』だが、実は三百年振りに発見された新しい属性と言われている。
その属性は、世界にたった一人だけ――この東の日の国にて発見された少女。
流々宮ハルル、だけが使用できるのであった。
だが、発見されたとはいえ、属性内容が今までの『自然エネルギー』からなる六属性と異なるもの。
そのため、彼女の母国である東の日の国にて3か所のみあるといわれる魔法学校に入学し、その魔法属性:『愛』について調べることになったのであった。
「のはずなのに、なんだいこの有様わ」
そう言ってハルルの保護者である理事長は、映像保管室から報告された今回の『聖なる決闘』の内容を読んで頭を抱えた。
「私は『愛』について学べと言ったはずだよ。なのに、次から次へと上がってくるのは『聖なる決闘』や学園外でのストーカーとナンパ撃退とかの報告書ばかりだ!」
「それほどでも」
「褒めてないんだよ!」
報告書を叩きっ付ける程に怒りでいつもの品性がなくなっている理事長。
綺麗なお顔のはずなのに、眉間の皺で台無しである。
それでも、僕と並んでソファーに座るハルルはどこ吹く風かの如く紅茶を飲んでいる。
「まぁまぁ、理事長。彼女なりに、『愛』の勉強をしているのですよ」
「スイン。あんたはハルルを甘やかし過ぎじゃないんかい? 怒るときはちゃんと怒りな」
「あら、スインはちゃんと怒ってくれますよ」
「おや、そうですか?」
どうやら、理事長の言葉が心外であるようで。「そうよ」と、口元からティーカップを離して指を折り始める。
「朝寝坊したとき『ちゃんと起きてください』って言って起こしながら怒ったり、私がお肉ばかりを食べていた時も『健康に気をつけてください』って言って野菜サンド作ってくれたり、あとは――」
「それを甘やかしているって言わずしてなんだっていうんだい!?」
そろそろ血圧上がり過ぎて危ないのでは、と言いたくなるくらいに怒りで顔が真っ赤な理事長だが、それでも彼女は反省の色を見せないまま、今度はクッキーにその手を伸ばす。
「理事長。スインの言う通り、これでも『愛』について学ぶことを頑張っているつもりです」
「はぁ……頑張っているなら、もっと同級生と交流するなど、暴力以外で『愛』を学んでほしいわ」
彼女の毅然とした態度に、理事長はソファーに座りなおして少し冷めてしまった紅茶を飲む。
「勿論、『友愛』についても学んでいます。この決闘だって友人との『友愛』のもとに行ったものですしね」
そういって、今回の『聖なる決闘』の内容が書かれた報告書を片手に持って読みながら、彼女は今回学んだ『友愛』について理事長に説明をし始める。
「彼女、ヒリナさんはゲス野郎と交際して幸せだったらしいです。……でも、その幸せは偽り。同時期に何人もの女性と付き合っていて、誠実さに欠けていました。それどころか、騙される方が悪いと男どもに言いふらして笑いものにする……どう思います?」
僕からしてみれば、三流ドラマの話を聞いているみたいだ。いつの時代だ、と。
あ、でも最近はこういう何股男をぶん殴ってから違う恋にいく逞しい女性漫画が増えてきているともいう。
今度、ハルルとデートに誘う理由にして一緒に買いに行こう。
東の日の国の漫画文化は飽きがなく、本当に面白い作品が多くてたまらない。
……おっと、話を戻しましょう。
「私は彼女の『愛』が侮辱されたと思い、腹が立って仕方がなかったです」
そう言って、彼女はカップの中に紅茶を見つめる。
どうせ、先程お礼を言ってきた……確か、ヒリナさんって方を思い出しているのだろう。
彼女、涙を流すほど喜んでいて、その姿にハルルは微笑んでいた。
そう、「自分のやったことは間違えなかった」と、自身がありながらも安心したような微笑み。
……まぁ、そのあと想像通りなことが起きてしまったので、その微笑みも好きな僕でも、彼女を狙うライバルが増えてしまって残念な感じもあったりする。
「幸い、彼女の『愛』は守れましたし。結果三股された内の二人は友情が芽生えて、『今度こそ素敵な恋をするぞー』と張り切っていました」
「……で、そこで学んだ『愛』は?」
「ゲス男を乗り越えた女の友情は固く、輝かしい『友愛』である」
「コメントし辛い友愛を語るな!」
再び頭を抱える理事長。
頭痛薬買ってきましょうか?
「レディー、紅茶のお変わりは?」
「ん、ありがとう」
そう言って慣れたようにカップをこちらに向けるハルル。彼女と出会って、今年で二年目だが、周りの方々がいうには、黙っていれば『お嬢様と執事』のように見えるらしい。
まぁ、僕は彼女の執事ではなく『旦那様』になりたいのだが。周りにはそう見えないらしい。残念だ。
「ふぅ……あんたは本当にスインに感謝しなくては駄目だねぇ」
さて、理事長もどうですか、と声を掛けようとしたとき、ようやく頭から手を離した理事長が口を開いた。
「あんたの魔法の源はわかっているね」
「……わかってますよ」
今までの魔法属性は『自然エネルギー』と関係がある。
水魔法を使用するなら水属性と親和性の高い魔法使いが、自分の魔力と自然エネルギーを融合させて『魔法』という形にして発動する。
そのため、魔法とこの世界を流れる『自然エネルギー』との関係は切っても切れない関係である。
……と、今までの教科書には書かれていたが。その情報も古くなりそうだ。
なぜなら、新しい魔法属性:『愛』は、『自然エネルギー』と関わりのない、まったく新しいエネルギーであると言われているのだから。
「あんたが愛し、愛されることでその魔法は今までのどの属性より強く、素晴らしい魔法になると言われているのはわかっているね」
「はい。現に釘バッドのように、一つの属性で物を形作るなんて考えられなかったって言われてますもんね」
「その考えられなかった力を何故釘バットにしてしまったのか……」
教科書に載ること確定の、それこそ歴史に名を刻む事柄なのに、そのものが釘バッドとは……本当に、彼女の発想は想像を超えていく。
「だけど、その釘バッドこそ、彼女である証でもあると思いますけどね」
「あのね、別に私だって釘バットにしたかったんじゃないわよ。勝手にこうなっているだけ」
「もう、釘バットは諦めてるわ……。でも、それができるのも、あんたが愛されているからなのよ」
机に散らばる報告書をまとめながら、理事長は深い深い溜息を付く。
理事長自身、ハルルのことを心配しているのだ。
三百年振りに発見された新しい属性。
それは世界中から貴重な実験サンプルとして見られるということ。
そんな誰もが手を伸ばして欲しがる彼女を、実の父親は価値もわからず、なんと一千万如きで売ってしまったのだ。
まず、子を売るということ自体で非難ものなのに、その売った父親は現在どこにいるのか全く分からない。
驚くほどに見つからない父親について、彼女は頭を抱えながらこう言ったのだ。
「運に全振りしているのよ、あいつ」と……
本当に、神が味方をしているのか思われるぐらい、魔法使いが探査魔法をかけても見つからないらしい。
だから、彼女には身寄りがない。
必ずしも悪い魔法使いだけではないが、それでもいい魔法使いのみが彼女に近づいてくるわけではない。
そんな彼女の身の安全を守るために、理事長は彼女を養子に迎え入れたのだ。
「お願いだから、人を愛する努力も頑張って頂戴。別に博愛主義者になれってわけじゃないのよ、ただスインのようにあなたを一途に想ってくれている人もいることを忘れないで」
報告書の束を傍らに、理事長はハルルの手を優しく包む。
血のつながりはないとはいえ、養子にした我が子。僕が彼女を愛するものとはまた別の愛がそこにある。
「妬けますね……」
その愛を感じ取っているであろう彼女の姿。
はっきり言って、それは僕だけにしてほしい。
難しいのあわかっている。だが、彼女に愛を広げろというが、その愛は僕だけが独占したいのが本音だ。
―ーだけど、今は無理だ。
「理事長。こんなあたしを心配してくれてありがとうございます」
そんな理事長の手を優しくほどきながら、彼女は優しく微笑んだ。
「……でも、心配はご無用です。――あたしには、『母の愛』があります」
そう言って、心臓に手を当てて、彼女は自分の鼓動に意識を向ける。
ドックンドックン、と――奏でているであろう、彼女の心臓。
――あぁ、妬けますね
「母は私を世界一愛していましたし、私もまた世界一母を愛しています。そして、この想いは永遠に不滅。世界一であるこの『愛』がある限り、私は大丈夫なのですよ」
無償の愛は子どもから親にあげるものだと、私の母は言ってましたよ。
さて、この腹黒紳士書いてて面白い。
物語の主人公でありますが、
色々な『愛』を書いていく予定なのですので、その『愛』の中心は色んな登場人物になります。
色んな登場人物が書けるのが短編の面白いところよな。