悪魔討伐へ
「詩歌、詩歌」
ベットに入ってしばらくして
何だか叫び声が聞えてくる。
ちょっとだけ揺すられてるようなぁ…
「詩歌!」
「後1時間……」
「もう! 悪魔だよ!」
「んー?」
必死な叫び声でゆっくりと目を開ける。
周囲は暗い、まだ夜だ……
もう1度寝ないと……
「詩歌!」
「んん!?」
不意に目の前に現われたもふもふの子。
ちょっと抱き枕にしたいかも。
「え!? ちょ、ちょっと! きゃう!」
「うへへ、もふもふぅ……」
「うぅ、暖かい……いや、それどころじゃ!
詩歌! 起きてよ詩歌!」
「あたた、うぅ、か、噛まないでぇ…」
「詩歌!」
「うぅ」
しばらくもふもふした子に噛まれて目を覚ます。
大きくあくびをしながら時計に目を向けた。
……まだ2時位だ、もっと寝なきゃ。
「詩歌! えい!」
「あたた! ほ、頬を引っ張りゃ無いでぇ」
「もう! しっかり起きてよ!
悪魔だよ悪魔!」
「あ、悪魔ぁ……?」
「いつまで寝ぼけてるの?」
「……あ!」
しばらくして、ようやく今日の事を思い出す。
そう言えば私はリックと契約して……
「え? あ、悪魔? ほ、本当にでたの!?」
「うん、近くだよ、急ごう!」
「そ、そうだね!」
自分が出来る事を思いだして、
すぐに布団から飛び出し
急いで扉の方に向って走る。
「し、詩歌! 寝間着で行くの!?」
「え? 寝間着…って、あ、本当だ!」
リックの言葉で鏡を見ると
確かにそこには寝間着の私が映った。
ピンクでシマシマの、可愛い重視の寝間着。
確かにこれで家から飛び出すのは恥ずかしいし
かなり動きにくい気がする。
い、急いで服を着替えよう!
着替えやすいので!
「よ、よし、スエットだけど良いかな」
「寝間着っぽいけど、さっきよりはマシだよね」
「さ、さっきのは可愛い重視だったし……
髪型はまぁいいや、整えてる時間ないし!」
「寝癖凄いよね、でも大丈夫だよ」
「よし、急ごう!」
あまり音を立てないようにして家から出る。
「それで、何処に行けば良いの?」
「うん、こっちだよ!」
リックの案内に従って悪魔の場所へ向う。
あまり人の姿は無い、結構辺鄙な場所だからね。
そう言えば、都会の方が悪魔って多いのかな?
まぁいいや、急いで悪魔を探そう。
「そう言えば、悪魔って見えるのかな?」
「普通の人には見えないけど
契約者なら見ることが出来るよ」
「じゃあ、私は見えるって事だね」
「うん、でも気配探知は精霊しか出来ないね」
「なんで分かるの?」
「自分でも良く分からないけど、
感覚としか言えないかなぁ。
こう、怪しい気配を感じるというか
そんな感じなんだよね」
リック達が悪魔に反応する理由は分からないんだ。
殆どが勘に近いって事なのかも知れない。
「そろそろだね、じゃあ変身しよう!」
「変身? どうすれば良いの?
て言うか変身って?」
「そのままの意味だよ、
詩歌、私を抱きしめて!」
「え? 抱きしめるだけで良いの?」
「うん、精神を私に集中して」
「分かった」
リックに言われたとおりに
彼女に意識を集中させ
言われたとおりに、彼女を抱きしめる。
少しして、体の中心から暖かい何かを感じる。
暖かい光りに包まれて言ってる。
そして、ゆっくりと慣れない感覚が……
頭がムズムズして、
背中辺りも何だかムズムズして。
うーん、あまり慣れない感覚だけど集中して……
(よし、良いよ!)
「う、うんって、あれ!?」
目を開けて、自分の姿を確認して動揺した。
桜の花びらがいくつかさ刺繍されてる
白色の和服だった、下は袴かな。
確か、剣道の部活で着たことがある気がする。
色々な部活から勧誘されてたから
体験で剣道もやった記憶がある。
筋がいいから入部してと懇願されたけど
殆どの運動系の部活で言われた。
当然かなり動きやすくて、邪魔にはならない。
下半身の方は黒く、右足には
金色で刺繍されてる桜の木がある。
そして、ふと視線に入った髪の毛。
私は髪の毛があまり長くないから
視線に入るはずも無いんだけど
不思議に思って髪の毛を触ると
妙に長い髪の毛になっている。
更に、当たり前の様に髪の毛の色も変わり
白色の髪の毛に……んん!?
「え!? な、何か触って……」
頭の方を軽く触っていると、何かに触れた。
あまり慣れない感覚で、
何かに触れられた感覚もある。
近くにあるカーブミラーで自分の姿を確認する。
本来なら暗くて見えないんだろうけど
妙に鮮明に自分の姿を視認出来る。
耳だ、私の頭の上に不思議な耳が生えてる!
そ、それに……尻尾がある! 犬みたいな尻尾!
耳の近くにはピンクのリボンがある。
「こ、これ、どうなって……」
(変身したんだ、私と一体化してる状態だから
私の特徴がいくらか出て来てるんだよ)
「そ、そうなんだ……
じゃあ、このピンクのリボンも
リックが着けてたリボンなの?」
(うん、そうだね)
「……でもリックは服を着てなかったのに」
(毛皮が服だからね、服を着ると凄く熱いの)
やっぱり服を着ると熱いんだね、
犬なんだし当然かも。
毛皮が服なんだし、
服に服を着るとかなりの厚着かも。
いやいや、今はそんな事を考えてる暇は無いや!
「と、とりあえず急ごうかな」
(分かった、それと武器なんだけど
どんな武器を出したいか思い描いて)
「武器? どんなのが良いの?」
(うーん……私が出せる武器はかなりあるから
詩歌がどの距離で戦うのが良いか
それで決めた方が良いね。
近接戦闘をやりたいなら剣が良いと思うよ。
中距離なら槍とかそう言うのが良いと思う。
長距離なら銃が使いやすいかも?
弓矢も良いけど。
他にも杖とかあるよ、
契約者の才能に左右されるけど
高い才能があれば
かなりの火力がある魔法が使えるよ。
広範囲でも魔法なら被害とかは出ないから
凄く耐久が凄い相手には強いかもね)
「い、色々出せるんだね…」
(うん、大剣も出せるし、斧も出せるし、
短刀も出せる。
銃だって全部出せるよ、爆発物も出せるけど
周りに被害が出るかもだから
あまりお勧めはしないかなぁ)
「どれが使いやすい?」
(まずは最初だし、剣が良いと思う。
1本だけね。
2本はまだ早いだろうし、
3本は使い切れないし)
「三刀流とかあるけど」
(いや、あれは普通は無理だけど……
でも、浮遊する剣も出せるから
上手く扱えば3本も4本も良いよ。
ただ、脳の処理が追いつかなくなるかもだから
実用性はあまり無いと思う)
「脳で操るの!?」
(うん、脳波コントロールって言う感じ。
でも、1つでも常人以上の
処理能力が必須だからね
普通は同時に扱えても3つが限度だね)
へぇ、色々な武器があるんだね。
でも、それだけ色々と扱えるなら
もしかしたら状況での使い分けとか
そう言うのが出来るのかも知れない。
「その武器って、すぐに色々と出せるの?」
(うん、だから使い分けが出来るなら強いよ。
でも、私が出来るのは詩歌の補助だけで
詩歌の体を動かしたりとか、
そう言うのは出来ない。
だから、詩歌が上手く使えないと無理かなぁ)
「分かった、色々と練習すれば
実用性が上がるね。
じゃあ、とりあえず今は刀でお願い」
(分かったよ)
私の腰辺りが光ると、刀がいきなり出てくる。
鞘と一緒に出てくるんだ。
(剣と刀で立ち回りは変わるよ。
今回は詩歌がイメージした刀だね。
日本刀と同じだけど、今回の場合は
抜刀術が主流になるよ)
「なんでそんなマニアックな……
確かに抜刀術って格好いいと思うけど」
(うん、だから今回は抜刀術が主流の日本刀。
詩歌がイメージした剣がそれだったからね)
私のイメージが反映されるのかも?
だとすれば、少し不便かも知れない。
でも、抜刀術が扱えるって格好いいし、
これで良いかも。
「うーん、とにかく急ごう」
(うん! それと今の状態なら
悪魔の位置が分かるよね?)
「確かに変な気配を感じるね」
(その方向に居るから、急いで!)
「分かった、すぐに行くよ! って、わぁ!」
急いでその方向に向うために飛ぼうとすると
予想以上に高く飛び上がった。
今の私は普段よりも
凄く身体能力が高いのかも!?
(今の詩歌は凄く身体能力が高い状態だから
上手く自分の力を制御してね!
出来るだけ、私の方でも制御するけど
私は大雑把にしか制御出来ないからね。
正確には詩歌の体が壊れないように
詩歌の力を抑える事が私に出来ることだから)
「え!? リックが居ないと
私の体壊れちゃうの!?」
(壊れるくらいに才能が開花してる状態だよ。
人間の身体能力を超えてる状態だしね。
私と契約した影響で
肉体も凄く強化されてるけど
体が強化になれるまでは
骨とかが持たないから
私がしっかり制御して
壊れないようにはしてるよ)
「そ、そんなに凄いんだ……」
(うん、そして武器の扱いも感覚的に分かる。
これは契約の影響で才能が開花してるからだね)
「凄いね、契約……でもそうだよね
強くなってないと悪魔に勝てるわけ無いか。
よし、今の状態、上手く制御して勝たなきゃ!」
周囲の家を上手く飛び越えながら
気配を感じる方へ移動した。
移動の間に、
自分の制御もある程度出来るようになった。
「あれだね、結構大きな狼さん。
思ったのと違うけど」
悪魔って言うのは、
もっとおどろおどろしいイメージがあった。
鎌を持った骸骨とか、そう言うイメージ。
だけど、実際に目の当たりにした悪魔は
2足歩行の大きな狼さん。
分類的には狼男かな
なら十分、悪魔なのかも知れないね。
(悪魔は人型だったり、動物型だったりするね。
動物型の方が出現する事が多いみたい)
「何処でならうの? それ」
(精霊の国である程度の教育は受けるんだよ)
「精霊の国なんてあるんだ」
(うん、凄く小さいんだけどね。
王様も年老いてて、少し心配なんだよね。
私達精霊のお母さんみたいな人だから
皆、凄く心配してるんだよ)
「そうなんだ、でも、
国があるならどうしてここに?」
(私達には悪魔を倒す使命があるからだよ。
私達が頑張らないと、
人間界も精霊界も困る。
だから、人間界と精霊界を
平和にする為に戦うの)
「でも、国があるんだったら、
死なないんじゃ……
時間が経ったら国に帰れば良いだけだし」
(一方通行なんだよね、
王様の力が衰えてるから。
王様もご高齢だからね、仕方ないんだよ)
そうなんだ、精霊達も大変なんだなぁ。
でも、そう言う理由なら私も頑張らないと。
あ、あの狼さんがこっちを向いた。
「がぎぁぁぁああ!」
「うぅ、大きな叫び声!」
(気付かれたんだ! 詩歌、構えて!)
「分かってる!」
私は自分の腰にある刀に手を置いて
臨戦態勢を取った。
絶対にあの大きな狼さんを倒して
困ってる周りの人を救う!