第七話:王都へ 戦いと出会い
――へイスの街の南にあるダンジョン。
そこに二人の男の影があった。
「……実験は成功のようだ」
「素晴らしいぃ! これでぇ! 陛下に良い報告ができるぞぉ!」
真っ黒なローブに、真っ黒な仮面の装いの二人は喜ぶ。
「これで、あの国は我らの物。その時が待ち遠しい……」
「あぁっ! ほんと楽しみだねぇ!」
その言葉を最後に、二人は魔物の向かう先とは逆の方に消えていった。
そこには何の痕跡も残っていない。
―――――
――へイス南門城壁上
南門の外に広がる荒野には、この街の兵士と冒険者合わせて千五百人が配置についている。
城壁の上にも遠距離攻撃ができる者たちが配置され万全の態勢だ。
冒険者からの情報によると、敵はゴブリンやオーク、オーガなどの人系魔物の混成軍らしい。
現在、Aランク冒険者が先行して様子を見に行っているとのことなので、その冒険者が持ち帰る情報を待っているところだ。
「だ、大丈夫でしょうか……」
そう隣で呟くのはこの街の代官の男だ。
緊張しているのかずっとソワソワしている。
「問題ない。すでに救援要請は出している上、物資や人も時間稼ぎする分は足りている」
父上は落ち着いた様子で代官に語り掛ける。
確かに物資と人は足りているので問題ない。
「あとは、様子見に行った冒険者が戻るのを待つだけか……」
俺は思わずそう呟く。
少し心配だが、A級ならかなりの実力者。あまり心配してもしょうがないかもしれない。
「ジン。大丈夫?」
少し顔に出ていたか。
ケイリーが心配そうに手を握ってくる。
「問題ないよケイリー。むしろ僕の魔法で守ってあげるから安心しな」
「ん、わかった。じゃあ私がジンを守るね」
「ハハッ、それは頼もしい限りだ」
お互い軽口を言って笑い合う。
全く、ただ王都に向かうだけなのに災難だ。
せめて、俺の評価を上げる材料となってもらおう。
―――――
二十分後、A級冒険者が戻ってきた。
驚くことにエルフだった。想像通りの金髪長身の美女で、名前はジュリアという。
強力な精霊魔法が使えるらしい。
「ジュリア殿。敵にリーダー格はいるか?」
「ええ。オーガの中にひときわ大きい個体がいました」
父上の質問にそう答える。
どうやら強い奴が一匹混じっているらしい。
俺の魔法が破られないか心配だ。
「そうか……ならそいつは確実に狩っておいたほうがいいかもしれん。ジュリア殿、城壁の上から狙えるか?」
「はい。可能です」
ジュリアは頷く。
「よし、作戦を手短に言う。
遠距離攻撃で敵の勢いを減らした後、兵士と冒険者が一斉攻撃を行う。
ある程度敵を減らしたら街中に撤退。
次に、敵が城壁に接触する直前にジンの魔法で受け止める。浮足立ったところでリーダー格をジュリアの精霊魔法で排除。その後は時間稼ぎに徹するという流れだ。……質問はあるか?」
すでに俺の魔法のことは父上に説明してある。
作戦の要なので、絶対に成功させないといけない。
「……あの、辺境伯様。ご子息の魔法で受け止めるとのことですが……大丈夫でしょうか?」
ジュリアが言いにくそうに質問する。
これはしょうがない。貴族、それも辺境伯に「お前の息子の魔法は大丈夫なのか?」なんて聞きにくいのは当たり前だ。
そもそも十歳の子供が、街を守るなんて言われても、普通は信じない。当然の質問だ。
「問題ない。息子の魔法は一流だ。魔力量も多い。心配する必要はない」
「わかりました。ありがとうございます」
父上が自信をもって言い切ると、ジュリアは安心したようだ。
さすが父上。保身に走らず言い切るのは、皆を不安にさせないため。あと純粋に期待されているということ。
その期待に応えられるよう頑張らねば。
「おい、あれ! 見えてきたぞ‼」
警戒していた冒険者が叫ぶ。
――周囲に緊張が走る。
全員の目が荒野の先に集中する。
そこには土煙を上げながら走ってくる魔物の集団がいた。
後方にリーダー格のオーガも確認できる。
「よし! 全員作戦通りだ! 遠距離攻撃である程度敵の数を減らすぞ!」
「おう‼」
皆、一斉に動き出す。
魔物がある程度接近すると、魔法と矢が飛び始める。
「〈火柱〉!」
「〈火壁〉!」
ジュリアとケイリーの魔法が、敵のど真ん中に襲い掛かる。
――矢が刺さって悲鳴を上げる魔物、魔法を受けて吹き飛ぶ魔物。
確実に勢いが衰えた。
そこへ追い打ちがかけられる。
「かかれー、突撃だー!」
兵士と冒険者による追撃だった。
混乱する魔物たちに一斉攻撃を仕掛ける。
――身体強化を使ってなぎ倒す者、槍で安全に倒す者。
敵の前面が崩壊し、ついに三千ほどになった。
しかし、後方の敵が止まることは無い。倒れた味方を押しつぶしながら進み続ける。
「全員、後退せよ!」
味方が疲弊してきたところで後退の合図が出た。
魔法や矢で援護されながら、前衛達が門の中に駆け込む。
……ここからが俺の出番だ。
全員が避難したことを確認すると、両手を前に出す。
「〈樹海城壁〉!」
高さ三十メートル、幅五メートルもの木の壁が地面からせり上がり、敵の軍勢を丸ごと囲む。
敵が一点に集まっていたので、ただ壁を作るよりも囲った方がいいと考えた。
中から壁を殴る音がするが、敵は外に出ることができない。
作戦がうまくいったことに満足していると、周りが異様に静かなことに気づく。
振り返ると、全員が目と口を大きく開いて固まっていた。
……俺、もしかして何かやらかしたか?
少し不安に思っていると、父上が動き出す。
「……ジ、ジン。この馬鹿でかい壁はなんだ? あと、魔物はどうなった?」
「え……いや、最初に説明した通り、木の壁ですが――」
「――ここまでデカいとは言ってなかっただろう‼ 幾ら何でも予想外過ぎるぞ‼ ……だが、よくやった!」
父上に抱きしめられる。
とりあえず、結果オーライだったらしい。
――ウオオオオオオオオ‼
皆も勝利を実感したのか、歓声が広がる。
街にいる人達も歓声に気づき、声を上げ始めた。
「やったぁ! 勝ったぞ‼」
「俺たちの勝利だ‼」
「アトラス家万歳‼ ウルティア王国万歳‼」
両手を上げて喜ぶ者、肩を組んで声を上げる者。
街全体が喜びに包まれていた。
―――――
戦いが終結して日が真上に昇った頃。
俺たちは西門にいた。
生き残った魔物も全て倒し終わり、後の戦後処理は代官がやってくれることになっている。
これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと張り切っていたため大丈夫だろう。
「よし! 出発する!」
父上の一声で馬車は出発する。
が、なぜか数秒後に止まってしまった。
「どうした? 何かあったか?」
「そ、それが、エルフの方が道の真ん中に……」
「エルフだと?」
騎士の返答に困惑する父上。
「もしかしてジュリアさんじゃないですか?」
「そうです。その方が待ってほしいと」
「なら連れてきてくれ」
「か、かしこまりました」
騎士は慌ててジュリアを呼びに行く。
すぐに馬車のそばまで来た。
「ジュリア殿、一体どうしたのだ?」
窓越しに父上にそう問われると、ジュリアはいきなり土下座をする。
動作に無駄がない。お手本にするべき土下座だ。
「お願いがあります! 私をジン様の従者にしていただけませんでしょうかぁ‼」
「本当にどうしたというのだジュリア殿⁉」
ジュリア曰く、エルフの神話に植物を操る神がいて、それと同じことができる俺と出会えたのは運命だと思ったらしい。
「……なるほど、理解はした。ジン、お前はどうなんだ?」
「うーん……優秀なのは間違いないので、試しに従者をやらせてみればいいと思います」
「だ、そうだ。どうするジュリア殿?」
「あ、ありがとうございます! 精一杯お仕えします!」
というわけで、王都への道中でエルフが仲間になった。精霊魔法を使える戦力とはいい拾い物をした。
今度は経済力を強化したい。
アトラス領に戻ったら、父上に商会設立の許可を貰おう。
……それとケイリーが少しムッとしていたから、あとでフォローしておかないとな。
多分、午後も投稿します
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