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第三話:唐突のプロポーズ


 俺が手にした植物魔法という手札はとても強力だ。

 脳裏に浮かぶ様々な魔法はどれも便利かつ強いものばかり。あまり表に出さない方がいいのは明白だ。


「ねぇ、ヤバイって……結局どんな魔法だったの?」


 さすがに〈生命力操作ライフコントロール〉は教えられない。表に出すのは危険すぎる。他の魔法なら大丈夫そうだし教えてもいいだろう。


「俺の魔法は植物魔法って言ってね。例えば――〈植物創造クリエイトプラント〉」


 俺の手の上に、二粒のイチゴが生えてきた。

 一つ食べてみると、とてもジューシーで美味かった。


「……その赤いの、食べて大丈夫なの?」

「うん、全然問題ないよ。……ケイリー、あーんして」

「えっ⁉ あ、あーん……ん! これ美味しい⁉」

「でしょ?」


 ケイリーは頬を赤らめながらも美味しそうに食べる。

 美味しいのは当たり前だ、今までで一番美味かったイチゴをイメージしたのだから。


 しかし――この魔法、金儲けに使えるな。

 何せ、この世界にない食べ物だから、すでに差別化されている。今後のためにも経済力が必要だし、商会でも設立して大量生産させる計画でも立てるか。

 そんな野心的な考えをしていると、袖を引っ張られた。


「ねぇ、他にできることあるの?」

「おお、もちろんあるぞ。〈浄化クリーン〉」


 おぉ……これはなんとも心地よい。

 自分にかけてみると、全身の汚れが取れたのかさっぱりした。

 今度はケイリーにもかけてあげる。


「……んぁ、これすごく気持ちいい。癖になりそう……」

「そ、そうだな」


 なんだろう、男として反応してしまうものがある。

 お世辞抜きにケイリーは美少女だ。たまに見せる笑顔がとても魅力的な女の子だと思う。そんな彼女からお付き合いしようと言われている俺って、超幸せ者だ。


「ん、どうしたの? 私の顔、何かついてる?」

「い、いや何もついてないよ」


 思わず顔を眺めていたようだ。

 なんか、もう好きになっている気がする。会って一日しか経ってないのに、なんでこんなにも心惹かれるんだろう。


「うーん、適性は分かったけど、固有魔法だから私に教えられることがないね。……ジン、ごめんね?」


 ケイリーはシュンとしている。

 別に悪いことをしたわけじゃないのに罪悪感が半端ない。


「ケイリーは何も悪くないよ。それに器のこととか色々教えてくれたじゃないか。感謝しているよ」

「……でも、そのくらい調べればわかることだし――」

「――分かった! じゃあこうしよう。……これからも俺のそばにいてくれ。俺はアトラス家の嫡男だ。いずれ多くの人を引っ張っていかなきゃいけない。その時にそばで支えてくれる人がいたら、とても助かる」


 しっかりとケイリーの目を見てお願いする。

 勢いでプロポーズしてしまったけど、ちゃんと理由がある。きっと俺は覇道を進むことになるはずだ。正直なところ、そばにいてくれる人がいたら頼もしい。

 まだ会ったばかりでお互い知らないことだらけだが、それは時間が解決してくれるだろう。


 ……そういえば返事がないな。

 ケイリーに目を向けると、俯いてモジモジしていた。下から覗き込むと、真っ赤になった顔が確認できる。


「……ず、ずるいよ。こんな不意打ち。そ、そんな真面目な顔でプロポーズされるなんて思わなかった……」


 えぇ……ケイリー、可愛すぎるだろ。

 確かに急なプロポーズだけど、初対面でいきなり告白してきたケイリーよりはマシな気がする。


「それで、返事を聞かせてほしいんだけど……」

「……よ、よろしくお願いします」

「うん。よろしくケイリー」


 俺たちは互いの手を握りしめる。

 初めて触ったケイリーの手はとても温かかった。



―――――



 今、俺たちは両親に俺の魔法や婚約のことを報告しに来ていた。

 両親は手を握り合ってソファーに座っている俺たちを見てニヤニヤしている。


「さて、報告を聞こうか。……まあ、俺としては随分と仲良くなった二人のことが気になるところだが」

「そうねぇあなた。アランから聞いたけど、二人は家庭教師の間にお互いをよく知ってからお付き合いするんですってね」


 両親に俺たちを攻めるような様子はない。

 純粋に興味があるといった感じだ。


「そのことで報告があります。……僕、ケイリーさんと婚約することにしました」


 努めて真剣な顔で告げる。

 両親は少しだけ驚いた顔をするが、すぐに冷静な表情に戻る。


「……そうか。ジンがそう決めたなら何も言うまい。二人ともおめでとう」

「おめでとう。でも、さすがジンちゃんね。もう女の子を落としちゃうなんて。……ちなみに、どっちから言い出したのかしら?」

「僕からプロポーズしました。そばにいて支えてほしいと」

「……まあまあまあ、とっても素敵ね! よくやったわジンちゃん。ケイリーさんも息子のことをよろしくね」

「は、はい! ユリア様」

「あらあら、お母さまと呼んでもいいのよ?」


 母上はオロオロするケイリーを面白がってからかう。

 この光景を見ていると、何か新しい扉が開きそうな気がするので目を逸らす。


「ゴホン、二人ともそれぐらいにしなさい。……さて、本題の魔法適性のことだ。ジン、どうだった」

「僕の適性は固有魔法でした」

「何⁉ 固有魔法だと! 凄いじゃないかジン!」

「さすがうちの息子ね! たった一日で女の子と固有魔法を手に入れてくるなんて」


 ……母上、その言い方は別の意味に聞こえるのでやめてください。


「それでジン。どんな魔法だったのか聞かせてくれ」

「僕の固有魔法は植物魔法というものです。汎用性が高い強力な魔法ですね」

「……ふむ、植物を操れる魔法といったところか」


 さすが父上、理解が早い。まあ俺の魔法はそれだけではないがな。

 と、ここでケイリーが口を開いた。


「……それと領主様。ジンのことで報告したいことがあります」

「ん? わかった、話を聞こう」

「ありがとうございます。……ジンなんですけど、魔力の器が赤色なんです。魔力量を測ってみたら、オレンジ色を大きく上回っているのか測定不能でした」


 父上はポカンと口を開けて固まっている。

 話の内容を飲み込めないようだ。少しして、再起動したのか動き始める。


「あ、赤色? 魔力の器が? ……はぁ、今日は異様に疲れる日だな」

「も、申し訳ありません、領主様」

「いやいやケイリー、君は悪くない。とりあえず、魔力量が人よりも多いということだろう?」

「そ、そうです」


 頭を抱える父上に申し訳なく思う。

 でも、息子が多才なのはいいことのはずだから大目に見てほしい。


「まあいい、今日はめでたい日だ。息子が固有魔法持ちで、婚約者までできたしな」

「ほんと、めでたいわ。夕食は豪華にしないとね」

「ハハハッ、そうだな。料理長に言っておかねばな」


 盛り上がる両親に俺とケイリーは顔を合わせて苦笑いする。

 本当に俺の両親は親バカだ。でも、そんな両親が俺は好きだ。どんな敵が現れてもケイリーと両親は俺が守る。



―――――



 プロポーズしてから半年が経った。

 俺とケイリーの中はだいぶ深まっている。

 魔法の訓練をしたり、俺の勉強を手伝ってくれたりと毎日が楽しい。

 一緒にいることが多いため、ケイリーの性格も分かってきた。基本的に恥ずかしがり屋さんなのだが、一度慣れるとストレートで感情を伝えてくる子だ。

 プロポーズの三日後には、夜は寂しいから一緒に寝てくれと言うので、毎日同じベッドで寝ている。

 今は性欲がないからいいが、ケイリーの体温と香りにいつも心臓がうるさくなる。


「ねぇジン。今日は何する?」

「うーん、昨日は勉強したから、まだ使ってない魔法の試し打ちでもしようかな」


 ケイリーの家庭教師の任はまだ解かれていない。

 魔法以外にも勉強することがあるので、そちらをケイリーに教えてもらっている。


「ん、わかった。じゃあ行こ?」

「分かったよ、ケイリー先生」

「むぅ……その呼び方、ダメ。普通にケイリーって呼んで」

「ハハッ、りょーかいケイリー」


 ケイリーと二人、手を繋いで訓練場に向かう。

 手から伝わる温もりに幸せを感じながら。



―――――



「……〈土球アースボール〉」


 俺に向かって、ニ十センチほどの固そうな土の球が飛んでくる。


「〈木壁プラントウォール〉」


 それを地面からせり上がってきた木の壁が止める。

 今はケイリーと二人、軽い準備運動といった感じで魔法を使っている。


「……ジンは相変わらず、魔法の発動スピードがえげつないね。嫉妬しちゃいそう」

「フフッ、ケイリーにそう言ってもらえるってことは、俺もなかなかの使い手ということだな」

「それどころじゃない。宮廷魔法師レベルだよ」

「それは大袈裟おおげさじゃないかなぁ」


 宮廷魔法師は王国最強の魔法使いたちのことだ。戦争では魔法使いたちを率いる役割があるらしい。


「ううん、大袈裟じゃないよ。魔力量、発動スピード、威力の全てがトップレベル」

「そうなんだ……。じゃあケイリーの婚約者として恥ずかしくない実力はあるってことだな」


 ニヤニヤしながらそう言うと、ケイリーは顔を赤くして逸らしてしまう。未だに不意打ちには慣れないようだ。


「も、もう……不意打ちはやめてって言ったでしょ?」

「ごめんごめん。……それじゃあ、使ってない魔法を試してみようか」


 試すのは〈花国降臨かこくこうりん〉という魔法だ。周囲一帯を自分に有利な花畑のフィールドに変えることができる。


「〈花国降臨かこくこうりん〉」


 そう唱えると、地面からたくさんの花が生えてきて、視界を埋め尽くすほどの花畑が誕生する。

 ……こ、これは凄いな。頭でわかってはいたが、実際に見ると迫力が違う。でも範囲が広すぎるため使う機会が少なそうだ。


「すごい……きれい……。凄いよジン! こんな魔法使えるなんて!」

「ありがとケイリー。せっかくだし、ここでピクニックでもする?」


 ケイリーは何度も首を縦に振る。

 そうだ、父上と母上も呼ぶか。こんなにきれいな光景、そう簡単には見られないからな。



―――――



 両親をピクニックに誘ったところ使用人たちも総出で楽しむことになった。


「こ、これは……凄い光景だ。本当に訓練場が花畑に変わっている」

「本当に凄いわジンちゃん! こんなに綺麗な花畑を作れちゃうなんて!」


 両親は感激している。

 母上に至っては、俺に抱き着いてくる始末。色々と柔らかくて幸せだ。


「す、すごい……これがジン様のお力……」

「あそこで寝ころんだら気持ちよさそうだなぁ……」


 近くにいる使用人達からそんな声が聞こえてくる。

 確かにど真ん中で寝ころんだら最高の気分だろう。ナイスアイデアだ。


「じゃあ、皆好きに過ごしていいよ。魔法を解かない限り消えることは無いから」


 そう言うと、皆は一斉に花畑に入っていく。家の料理人が作ったと思われる料理を片手に楽しむ者、すぐに眠りにつく者などそれぞれ楽しそうにしている。

 両親も花畑の片隅でイチャイチャしている。

 ……これは負けてられないな。


「ケイリー、俺たちも行こう」

「ん、わかった」


 何も言うことなく自然と手を繋ぎ、花畑の中心に向かう。

 シートを敷いて一緒に座ると、脳裏に憧れた光景が浮かぶ。


「ねぇケイリー。ちょっとお願いがあるんだけど……」

「ん、なあに?」

「……その……膝枕してもらえないでしょうか」


 ケイリーは少し目を丸くすると微笑んで頷いた。

 許可を貰ったので、遠慮なく膝に頭をのせる。嗅ぎなれたケイリーの香りがフワッと漂ってきてドキドキする。


「フフッ、ジンが甘えてくるなんて珍しいね」

「……夢だったんだよ。この状況」

「そうなんだ。じゃあ夢が叶ったね」

「ああ、嬉しい限りだ」


 頭を撫でられる。

 ケイリーの手つきから相手をいたわる感情が伝わってくる。この幸せを言葉にして伝えたい。


「ケイリー、好きだよ」

「……ん、私も好き」


 その後もケイリーと二人、幸せな時間を堪能した。


明日も午前中と午後に分けて恐らく連続投稿します。


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