第二話:ケイリーと植物魔法
魔法の先生が来る日となった。
すでに応接間にいるらしいので、父上と一緒に向かう。
中にいたのは、白いローブを着ている長い青髪をストレートに伸ばした、眠そうな目をしている美少女がいた。
隣には杖が置いてあり、いかにも魔法使いといった風貌だ。
それにしても、若い。おそらく十五歳程度だと思われる。
しかし、彼女から感じる魔力はとても強い。察するに、魔法の実力もかなり高いのだろう。
立ち上がった少女に父上が座るように促し、俺たちも座る。
「よく来てくれたなケイリー、紹介しよう息子のジンだ――って、どうしたケイリー?」
一体どうしたのだろうか。
ケイリーと呼ばれた少女は俺を見て目を見開いている。ついでに顔も赤くなっていた。
「あの、ジン・アトラスです。これか――」
「――一目惚れしました。付き合ってください!」
ケイリーは勢いよく立ち上がってそう言い放つ。
……彼女はいったい何を言っているんだ。状況が飲み込めない。
「ちょ、ちょっと待てケイリー。お前はいったい何を言っている。ジンに一目惚れしたのか?」
「……そう、一目惚れ。領主様、第二夫人だろうが愛人でもいいのでお付き合いしてもいいですか?」
「ダメに決まっているだろう! 本人の意思を全く確認していないではないか‼」
父上は立ち上がってそう叫ぶ。
そっちかよ。立場の問題とかではないんかい。
「……じゃあ、ジン様がいいと言えばお付き合いしてもいいですか?」
「構わん。ただし、第一第二夫人は不可能だと思っておけ」
「分かりました」
ケイリーはコクリと頷く。
見た目に反して、割と情熱的な子のようだ。
「どうですかジン様。お付き合いしてくれますか?」
さて、どう返答しようか……。
正直、お付き合いしてもいいと思っている。可愛いのはもちろんだが、何よりも魔法に優れていそうなところが決め手だ。
それに父上が選んだということは、身分や経歴に問題がないということ。人材確保のチャンスだ。
「――家庭教師をしている間に、お互いのことをよく知ってからであれば考えます」
「ほんと? ありがとうございます!」
ケイリーは花が咲いたような笑顔になる。あまりのギャップの差にノックダウンしそうになる。
……それにしても、まだ決まったわけではないのに随分嬉しそうだな。
ちゃんと魔法を教えてくれるか心配になってきた。
―――――
魔法の訓練は北の訓練場で行うことになった。
「……じゃあさっそく始めようか」
「その前に、ケイリーのこと教えて。僕、何も知らないし」
「ん、そうだった。改めて、私はケイリー・オルコット。オルコット子爵の長女でハーフドワーフの十八歳、よろしくね」
「ああ、よろしくケイリー」
なるほど、ハーフドワーフだったのか。
ドワーフはエルフと同じく長命種のため成長が遅い。どうりで若く見えるわけだ。
ちなみに、敬語は使わないと約束している。
「……それじゃあ今度こそ始めるね。領主様から魔力操作はできるって聞いてるから、まずは魔力の器を確認するね。ジン、魔力を纏ってくれる?」
「分かったよ、ケイリー先生」
言われた通りに魔力を纏うと、全身が赤く光る。
「はい、纏ったよ。これでいい――」
「ちょ、ちょっと待って、何その光。何で赤く光ってるの⁉」
「――え? 何でって言われても……元からこうだったし」
ケイリーは理解できないといった様子で俺を見ている。
「……ねぇ、それ領主様と奥様に見せて何も言われなかったの?」
「いや、両親には一度も見せたこと無いよ。騎士団長のハンクとは訓練の時に使うから見せてるけど」
「……ハンクって人は何も言わなかったの?」
「うん。不思議ですな、って言われただけだったよ」
「……そうなんだ」
ケイリーは深く考え込んでいる。
赤い光だと何か不味かったりするのだろうか。少し不安になってきた。
「なあケイリー。魔力の器が赤いと何か不味いのか?」
「……ジンは魔力の器がどういうものか知ってる?」
「もちろん知ってるぞ。体内にある魔力が溜まる器で、大きさによって最大魔力量と魔法の最大威力が決まるんだろ」
「正解。じゃあ器の大きさって何で判断すると思う?」
「それは……もしかして――」
「そう、魔力の色。最小が薄い青色で最大がオレンジ色。赤色なんて聞いたことない」
なるほど、驚いていたのはそういうことだったのか。
「……でも十中八九、オレンジより大きいはず。はい、これ持って」
そう言って、透明でツルツルとした石を渡してきた。
「空の魔石か。これに魔力を込めればいいのか?」
「そういうこと。これで大体の魔力量が分かるはず」
分かった、と頷いてゆっくりと魔力を込めていく。
――が、ものの数秒で見事割れてしまった。これはどういう結果になるのだろう。
ケイリーの方を見ると、ポカンと口を開けてマヌケな顔をしていた。
「……そ、測定不能。やっぱりオレンジよりも上なんだ」
「ちなみにケイリーは何色なの?」
「ん、私は黄色。かなり多い方だよ。……とりあえず、魔力量がとんでもないことは分かったから、次は適性を調べるね」
ようやく俺の魔法適正が分かる時が来た。
魔法がある世界に来たというのに、ずっと使えなかったのは割と苦痛だった。だが、今日でこの苦痛ともおさらばだ。
「ジンは魔法の種類、ちゃんと知ってる?」
「もちろん知っているよ」
この世界には火、水、土、風、光、闇の六つの属性魔法が存在する。
そのことを答えると、ケイリーは指を横に振る。
「ちょっと足りない。魔法はね、大きく二つ――属性魔法と固有魔法に分けられるの」
「そんな魔法があったのか。……それで固有魔法ってなんだ?」
「……固有魔法は魂の魔法とも呼ばれる超希少な魔法。何故かはわからないけど、自身の適性に気付いた瞬間に魔法の使い方を全て理解できるらしいよ」
「魂の魔法ねぇ、なんか強そうだな」
聞いているだけでワクワクしてきた。
火の魔法とかカッコよさそうだけど、固有魔法も強そうでロマンを感じるな。
そんなことを考えていると、ケイリーはローブの中から水晶を取り出した。
「……じゃあ、これ持って。ほんの少し魔力を注げば適性が分かるから」
りょーかい、と返事をして受け取る。
片手に水晶を持ち、魔力を少しだけ込める。すると、水晶が七色の光を放った。
「嘘っ! 固有魔法⁉」
ケイリーは目を見開いて叫ぶ。
マジか、固有魔法はかなり希少だったはず。これは期待できそうだ。
数秒後、水晶の光が収まった――その瞬間、激痛が襲ってきた。
「うっ……なんだこれ、頭が割れるようだ……」
「ジン! 大丈夫っ?」
「だ、大丈夫だ……」
あまりの激痛に頭を抱えるが、すぐに痛みは治まった。
何だったんだ、今の痛み。変な病気じゃないといいけど……。
「――って、あれ? なんだこの知識は……植物魔法?」
なぜか魔法の使い方を全て理解していた。
かなり汎用性の高い魔法のようで、あらゆる植物を操れるのはもちろんのこと、植物の本質的な力も操れるとわかった。
どのような力なのか大雑把にまとめると、次の通りになる。
『生命力』――自分と植物の生命力を操ることができる。
『浄化力』――汚れ、病気、毒、細菌、ウイルス、呪い、アンデットを浄化できる。
『吸収力』――魔素や魔力を吸収することができる。
『放出力』――魔素や魔力を放出することができる。
『記憶力』――植物の記憶を見ることができる。
と、このような感じだ。
この他にも、一度見たことがある植物を生み出すこともできるらしい。
「……固有魔法の使い方を理解したみたいだね。おめでとうジン」
「あぁなるほど、今の痛みはそういうことか。……しかし、ヤバいなこの魔法」
理解したから分かる。俺はとんでもない魔法を手に入れてしまった。
特に『生命力』を操れる魔法がヤバすぎる。〈生命力操作〉というのだが、植物の生命力を吸収して自分や他人の寿命を増やせるらしい。
これ以外にも、汚れや病気、毒、呪い、細菌、ウイルス、アンデットを浄化できる〈浄化〉や一度見たことのある植物を生み出して操ることができる〈植物創造〉など多種多様な魔法が使えるようだ。
……これは天啓に違いない。
これほど素晴らしい力を手にいれたんだ。必ず王座を手に入れてみせる!
10時頃も出します
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