もう一つの物語
次回予告で舞台を移すと書きましたが予定を変更しました。 待ってた方はすみません。
このお話はエルとアンリが別れていなかったらというお話です。 以前エルが第二人格として宿ったままでも面白いかもという感想を頂きましたのでそれに答える形で時々「もうひとつの物語」を投稿します。
長くなりましたが楽しんでいってください!
これはもう一つの物語。 世界の可能性の一つだ。
さぁ、封を解いてみよう――――――――
薄暗い部屋のなか少女と男が向かい合っていた。
「おやおや、どんな娘が侵入者かと思えば侯爵家庶子の一人娘とはね。私はオリゲネス・ルキフェル。以後よろしくお嬢さん」
「あなたがリーダーのようですね~。さっさと倒させてもらいます~」
「強気の姿勢はいいけど冷や汗は隠せないよ?」
そう、私ではこの男には勝てない。でも騎士団が来るまでの時間稼ぎくらいなら!
「騎士団が来るのを期待しているのかい? あいにくと彼らは別の騒ぎを抑えるので手一杯だと思うからしばらくは来れないよ?」
「誰かが侵入するのは織り込み済み、というわけですか~」
「そりゃこっちは犯罪組織だよ? 侵入者と騎士団とを同時に相手するわけないだろう? さて、お喋りはこれくらいで大人しく捕まってもらうよ?」
一瞬で視界から消えたルキフェルを探していると脇に衝撃が走ると同時に体が浮く感覚がした。
蹴られたとわかったのは壁に激突してからだった。
「っ、やっぱり強いですね~。でもやられっぱなしも嫌なのでいきますよ~?」
――――――――――――
「もう終わりかい?」
ルキフェルに一撃でも入れようとしたがすべて躱され、何度も蹴られた身体は限界を迎えていて、私は膝をついた状態から動くことが出来なくなっていた。
「もう少し張り合いがあるほうが楽しかったけど、まぁよく頑張ったと思うよ。じゃあお休み」
振り下ろされる腕に目をつぶったとき「しかたないな」という声を聞きながら私は意識を手放した。
――――――――――――――
「おや? まだそんな力が残っているとはね」
私が振り下ろした腕は彼女が掲げた手に防がれた。寒気を感じてとっさに後ろへ下がると、さっきまで私がいた場所にエアバレットが五発以上着弾していた。
「なにをしているんだい? あれだけ近いと君も被害を受けるだろうに。相打ち狙いかい?」
晴れつつある煙に向かって思わず声をかけるが返答はなく、本当に相打ち狙いだったのかと困惑している私が見たのは誰もいない着弾点だった。
「っ!?」
倒れている状態からエアバレットを避けられるわけがない。
どこかに潜んでいる、そこまで考えたところで背中を蹴られ視界がブレた。
視界が戻った私が見たのは本来壁にさえぎられている隣の部屋だった。
「………」
無言で迫ってくる彼女に私は初めて恐怖を覚えた。
(不味い…… この子は想像以上に強い!!)
身体を確かめなくてももう近接はできないので今度はこちらの番だとばかりに魔法をぶつけたが全て軌道を変えて後ろに流れていく。
(これは障壁!? あれは高等技術、私でも使いこなすのは難しいと言うのに… 何者だ、彼女に潜んでいるのは…)
そうこうしているうちに私の前に来た彼女は一言「去れ」と言って踵を返した。
その言葉にハッとなった私は重い体を引きずりながら急いでその場から離れた。
その後聞いた話では私以外は全員捕まり、あのお嬢さんはフロアで倒れているところを騎士団に保護されたらしい。
私はあの家の周辺から撤収するよう部下に声をかけた……