エル(オリゲナ)VSアンリ
「さぁまずはこれだ!! ちゃんと耐えろよ?」
その言葉と同時に無数のエアバレットが飛んでくる。私たちは慌てず同じ魔法で相殺し、その爆風で視界が塞がれているうちにみんなを塔の外に転移させた。
「全て相殺しさらに負傷者を避難させたか。それくらいはやってもらわないとな!! では次はこれだ!!」
次は火属性の最上級魔法のコロナフレイムだが、身体強化で素早くかわしてそのままオリゲナに向かって走り出す。
だが次々飛んでくる魔法でなかなか近づけず防戦一方になっていった。
「っ、魔人形召喚!!」
ついに魔法をかわせなくなってゴーレムを呼び出して時間を稼がなくてはいけなくなった。
「ほらほら、そんなものでは俺に勝つことはできないぞ!!」
「エルちゃんどうする? 向こうのほうが魔法の使い方が上手いみたいよ?」
(……)
「……? エルちゃん?」
(これだけはしたくなかったんだけどね…… 私の魂をアンリに統合しよう)
「でもそれだとどちらかが消えることにならない?」
(わからない…… 本で読んだ魔法だけどこの魔法を使ったあと統合した片方がどうなったのかは書かれていないんだ……)
「なら止めましょう!!」
(そんな余裕はないよ。それになんの対策もなく私がそんな提案をするはずないでしょ? 統合できるなら分離もできるはず。だからお姉ちゃん、その方法を探してほしいな)
止めようとした私の耳にゴーレムにひびが入る音が聞こえた。
(それじゃあやるよ!! 統合魔法!!)
エルちゃんが管理していた魔力と一緒に「よろしくね、おねえちゃん」という思いが入り込んできた瞬間、コロナフレイムでゴーレムが崩れていった。
――――――――――――――
「ふん、こんなもんか」
他の奴らよりかは楽しめたがそれでも魔力と経験が違いすぎるんだろうな。この国で俺にかなうやつはこれでもういない。
もう用はないのでさっさとこの国を滅ぼそうと思ったが、後ろから膨大な魔力を感じ振り向くとアンリ・コレットが立っていた。
「なんだ? その姿は?」
奴の髪はエルミリーのように銀に光り、目は七色に光っている。その容姿は女神のようで敵だとわかっていても見とれてしまうほどだった。
「エルちゃんが託してくれた力のおかげです。これであなたを倒すことができる」
これは本気を出さないとやられると直感した俺は完全にものにした魔力で身体を変化させていく。銀だった髪は黒く、身体をもっと高く、がっしりしたものへと。そして最後に頭に角を生やした。
「あなたは魔族の一族だったんですね。それなら先々代の国王が村丸まる一つを滅ぼしたわけもわかります。当時悪の象徴だったんですから。だからといってこの国を滅ぼすのを許すわけではありませんが」
「もともと誰かに認めてもらおうとは思っていない。俺は殺された仲間の無念を晴らすだけだ」
「そうですか…… 終わらせましょう」
「……ああ」
―――――――――――
びっくりですよ。オリゲナがいきなり変身するんですから。ただ納得できる部分もありました。
オリゲナの村が滅ぼされたと聞いておかしいと思ってたんですよね。いくら国王でも逆らった村の人を皆殺しにするはずがありませんし。
昔の魔族は現在と違って迫害にあったり奴隷として扱われたりしたようですし逆らったからという理由で皆殺しにするということは十分あり得そうですね。
まぁとりあえずオリゲナには大人しくしていて欲しいので全力で倒してしまいますか。
「コロナフレイム!」
私は身体を傾けるだけでコロナフレイムを躱す。オリゲナの驚いた顔が見えるが気にも留めず真っ直ぐオリゲナに向かって歩いていく。
エルちゃんと統合したことで得たものは膨大な魔力だけではない。
妖精が見えるようになる、魔力の制御が完璧にできる、エルちゃんが沢山の本を読んで得た知識を好きなだけ引き出せるなどエルちゃんがどれだけ規格外だったかわかるチート具合だ。
「なぜ魔法の軌道がわかる!? まさか…… 魔力が見えているとでもいうのか!?」
「そのまさかですよ。魔法の軌道が事前にわかっているなら避けるのは簡単でしょう?」
「それなら!!」
身体強化を使って殴りかかってくるオリゲナだがそのこぶしをあっさりといなし腹を蹴って壁に叩きつける。
「がっ、ごほごほ…… 身体強化を使わず俺の攻撃をいなしただと?」
「簡単な話ですよ~。身体強化も魔法。なら魔力の流れが必ずできるわけで、ならどういう動きで来るかは予想できてしまうというわけです~。さぁ、終わりですよ」
「……そうだな」
「聞き分けが良いですね~。そのまま自爆するための魔法を使わなければの話ですが~」
「この魔法はいざというための俺の村の禁呪だぞ!? なぜお前が知っている!?」
「実は私が知っているあなたの村の出来事はあなたの語っていることとは違っているんですよ~。私の知る物語ではこの国では村から逃げてきた村人を保護したこと、村の跡地に今のウリエーナを造ったことが書かれているだけです」
「は?」
「王国の庇護下に入った村の人たちは今もこの地に住んでいますよ~。もともとの数が少ないせいで純血の魔族はごくわずかなようですがね~」
「だが俺の家族が皆殺しにされたことに変わりはない!!」
「そこが気になっているんです。あなたの家族は皆殺しにされている。だがその一方で保護されて者もいるんですよ。何かあなたが覚えていることはありませんか?」
オリゲナは少し考えているようだったが覚えているのは村を燃やす炎だけで、村に戻って来た時には騎士団らしき人たちが焼け跡にいるところが見えただけのようだ。
「うーん…… そうですね~。騎士団の本部に当時の記録が残ってるかもしれません」
「本当か!?」
「騎士団が動いているなら必ず記録に残っているはず。逆に残っていなかったらあなたが見た集団が騎士団じゃなかったか国王がもみ消したか、資料が何らかの事故で消失しているかですよ~」
「だがどうやって騎士団の本部に行くんだ?」
「簡単ですよ~。だって私の友人に王族いますし~。というか完全に存在を忘れてましたけどクロノさんは大丈夫ですか~?」
声をかけられたクロノが不機嫌そうに屋上に上がってきた。
「はぁ…… エルと言いお前と言い俺が王族だと本当に思っているのか?」
「思ってますよ~」
「それにしては扱いが雑なような気がするが…… まぁいい。騎士団本部だろ? 何回も訪ねてるから大丈夫だ」
「ならまずはこの塔を崩して休みましょ~。色々あって疲れました~。それとオリゲナさん、あなたはこれから私とともにエルちゃんを元に戻す方法を模索してください~。それであなたのやったことは許しますから~」
「わかった。俺の村の事件の真相がわかればそれでいい。その後の人生は迷惑をかけた人に償おうと思う」
「じゃあこの塔崩しますよ~。はい、さ~ん、に~い、い~t「おいちょっとまt」ぜろ~」
一瞬で塔が消えて三人そろって自由落下していく。クロノのバカヤロ~という叫びが聞こえた気がするけど無視無視。
まずはフライの魔法を自分にかけて、それから二人にも。
いきなり塔が消えたことに驚いたみんなが上を見上げる中ゆっくりと降り立つ私にみんな何故か膝をついていく。
私は女神じゃないんだけどな~。女神なのはエルちゃんだよと思いながら学園長や騎士団長に事情を説明した。




