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初めての会話

それから三日後の朝、おれとアンリは両親の部屋を訪ねた。


 両親の部屋は執務室も兼ねているためか書類で埋もれているといった具合で、話し合いをするには向かないが話が話だけに使用人のいるなかでするのは止めたほうがいいというおれの助言もあり、両親の部屋で話すことに決めたのだ。 


「お母さま、お父さま、入ってもいいですか~?」


「おやアンリ、ここに来るなんて珍しいね。入ってきなさい」


 アンリの両親はいつも仕事で忙しそうにしている。


 領民についてよく考えていて、月一回幾つかに領を区切って視察に訪れている。


 その仕事ぶりは本家の人からも信頼されておりよく本家からの使者を見かける。


 そんな二人だが、一人娘のアンリを可愛がっており、どれだけ忙しくてもアンリの質問やお願いを無下にすることはなく、どんな話でもしっかりと聞いてあげる優しい人たちというのが俺の印象だった。


「散らかっててごめんね~アンリちゃん」


「平気ですよ~慣れてますから~」


 母のマニラは、アンリのようにマイペースな性格だが、魔法が上手く紫がかった長い銀髪に紫の瞳がきれいな容姿とは裏腹にアンクレットで五指に入るほどの実力者だ。


 逆に父のレクスは魔法こそ平凡だが武芸全般に通じており、短く刈り込まれた茶髪と緑色の鋭い目から厳しい人という印象を受けがちだが、厳しい中にも優しさがある教官としてとても人気だ。


「それで、どんな用かしら~?」


「実は……」


―――――――――


「そんなことがあり得るのか……」 「にわかには信じられませんね~」


おれについてアンリが手短に話すと、二人は信じられないという顔をした。


 それはそうだろう、自分の娘の別人格が異世界からの転生者だとは思いもしないだろう。


 どうやって信用してもらおうと考えているとアンリが助け舟を出してくれた。


「本人と話してみて判断してはどうでしょ~」


「そんなことができるのか? ならそうしよう。マニラもそれでいいな?」


「ええ、いいですよ~」


「では少し待っていて欲しいです~」


 アンリは目を瞑ると俺に話しかけてきた。


「話は聞きましたよね? 覚悟、できてますか?」


(もちろんだ)


「上出来です~。では行きますよ~」


いつも通りの間延びした声に「ありがとう」と返すと同時におれの視界は白く塗りつぶされた。


 白く染まった視界が明けるとおれは違和感に身動ぎした。


 二人の部屋に行く前にお互いに起きている時に入れ替われるか実験はしていたがそのときからこの違和感は消えることはなかったので気にしないようにしつつ、いきなり身動ぎをした娘を怪訝な顔で見ていた二人に話しかけた。


「ええっと、話すのは初めてですよね? 初めまして五行伊織って言います。地球っていう異世界の日本ってところから来ました」


「ホントに異世界人の別人格なんですね~。びっくりです~」


「二年前に目覚めていたんですが情報が足りなさすぎるのとアンリさんを泣かせてしまったので黙っていたんですよ」


 おれはアンリでは難しかった異世界の話を二人に話した。


 二人は半信半疑だったがアンリでは話すことができない異世界について具体的に聞いたことでおれが異世界人だとわかってもらえたようだ。


「それで、あなたの願いとは?」


「いつまでもアンリさんの身体に居続けるわけにはいきませんから身体が欲しいんですよ」


「それについてアンリはなんと?」


「私のお願いも叶えてくれるなら協力すると言っていました」


「なら私たちも協力しないといけませんね~」


「そうだな。アンリがいいと言うのなら大丈夫だろう」


 それを聞いて、この世界の貴族って子供に激甘すぎないか? と思ってしまっても仕方ないだろう。


 少しだけこの世界の貴族に不安を持ちながらも身体を得た後のことを話し合うことにした。


「それで、身体を手に入れた後のことなんですけど、異世界の知識を使って恩返しが出来ないかと考えています。助けていただいたわけですし何かの形で返したいです」


 それに対して二人は微笑みながらアンリのお願いを叶えてくれるならそれが恩返しになるから気にしなくていいと言った。 


「……っ」


 こぼれそうになったなった涙をこらえていたらマニラさんが優しくおれを抱きしめた。


「二年も独りぼっちで寂しかったでしょ? 今だけ泣いてもいいのよ?」


 もう我慢が出来なかった。次から次へと涙がこぼれ、おれはしばらくマニラさんの腕の中で泣き続けた。


 二年間もの間誰とも話さず孤独と戦っていた。 アンリに話しかけたのも本当はもう孤独に耐えられなくなったからだ。 


「ありがとうございます。 もう大丈夫です」


 マニラさんの腕から離れたおれの目は赤く腫れていることだろう。恥ずかしくて声が出せないおれにレクスさんは準備は進めておくから休むこと、アンリと仲よくしてあげて欲しいと告げ、ガシガシと頭を撫でてくれた。


 その日の夜、この三日間で恒例になった二人の話し合いも両親との話し合いが上手くいったからか、いつもよりはずんだ。


「うまくいってよかったですね~」


 (ありがとうアンリ。アンリが協力してくれなかったらおれはうまく話せなかったよ)


「いえいえ~、私もどうしても叶えたいお願いがあったので~」


 そういえばアンリのお願いの内容は聞いていなかったなと思い出し聞いてみたが、「その時のお楽しみです~」と言われ聞き出すことが出来ず何を言われるのか不安に思いながらおれはその日を迎えた。

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