魔導書作成
あれから数日が経過し最初に調合したインクを見る日になった。
レオンとクロノはアンリの監督の下、身体強化の魔法を修得しようと毎日頑張っている。
寝る時間を削ってまで練習しているらしく、授業中にこっそり欠伸をしている姿をよく見かけるようになった。
魔法陣が描かれた本は先日届いたのでいざ描いてみようと思ったがインクが入った瓶を開けて直ぐ失敗している事に気づいた。
込めた魔力が少なかったのか魔力がインクに浸透していなかったのだ。
「駄目だ。魔力が浸透していない」
「それって見ただけでわかるの?」
「私は昔から魔力が見えるんだ。例えばここ辺りに多いのは水の魔力でここだといつもより水の魔法が使いやすい、とかね」
「それは便利ですけど他の人に話しちゃいけませんよ〜?」
「そうなの?」
「普通の人は魔力が見えることは無いんだ。魔力が見える目の事を妖精眼と言うらしい」
「これまでも何人か妖精眼を持っていた人がいたみたいで、その人が魔法とは妖精の力を借りて魔力を操る技術だと言っていたみたいだよ」
「とても稀少な能力なのはわかったけど何で他の人に話しちゃいけないの?」
「妖精眼を持つ人は悪い人間によく狙われるし実験材料として眼を欲しがる人もいて危ないんだ。エルもこれから先の長い人生をずっと狙われながら過ごしたくは無いだろう?」
そう問われてコクコクと頷く。
「わかったよ、気を付ける」
「ああ、そうしてくれ。……誰だ!?」
いきなり叫びながらドアを開けたクロノに何をしているのと聞こうとした私の耳に見知らぬ声が聞こえてきた。
(誰かがこっそり聞き耳を立てていたんだよ)
(気を付けてエルちゃん、彼はエルちゃんの依代を狙ってる)
誰かわからない声に戸惑ったが、周りからサワサワという音が聞こえ、妖精たちが警告してくれたのだと気付いた。
「警告ありがとう。ところでいきなり言葉がわかるようになったけどなんでかわかる?」
(それはね、エルちゃんが私たちを正しく認識したから)
(妖精眼を持つ人は私たちの友達)
(でもこれまでエルちゃんは私たちを魔力の塊と思ってた)
(だから私たちの意思は届かなかったけど今は妖精だと認識してくれているからちゃんと意思が届くの)
「そうなんだ……気づくのが遅れてゴメンね?」
(気付いてくれたから嬉しい。だからみんなもう気にしていないよ)
「ありがとう」
と妖精たちとの会話を楽しんでいると逃げていった男を追いかけていた三人が戻ってきた。
「逃げていった男は?」
「エルちゃんあの男を追いかけてなかったよね? 何で逃げていったのが男だって知ってるの?」
「妖精たちに教えてもらったから」
(教えた〜!)
【教えた〜!】
可愛らしい妖精たちに頬を緩めていると驚いていた三人が妖精たちの声が聞こえるのか聞いてくるので私は妖精たちから教えてもらった事を話した。
「妖精たちを見て、妖精だと認識していれば会話できるのか……」
「みんなにも妖精が見えるかもしれないよ?」
「え? 妖精眼って先天的なものじゃないの?」
「私みたいに先天的な人もいるけどこの世界のどこかにいる妖精王か、各地にいる各属性の妖精龍から加護を貰えれば見えるようになるみたい」
「妖精王に妖精龍ですか〜。凄そうですね〜」
「なぁ、妖精たちに協力を頼んでインクは作れないのか?」
「試しに聞いてみるよ。ねぇ妖精たち。魔導書を書くのに魔力が宿ったインクが必要なんだけど協力してくれないかな?」
(いいよ! その代わりこれからもお喋りしてね!)
「うん、ありがとう」
「できるみたい。早速やってみよう」
(わかった!)
魔力が宿ったインク(以下魔刻インク)の作り方は単純。
用意したインクに魔力を注ぐだけ。後は数日待って魔力が定着すれば完成。
これだけ聞くと簡単に思うかもしれないけど魔力をどれくらい注げばいいか割合がわからないととても苦労する。
ただ、妖精たちがどれぐらい注げばいいか教えて、魔力の定着にも力を貸してくれたお陰でその日の間に一冊の魔導書が完成した。
「これで……完成なのか?」
「うん。ちゃんと魔力が定着してる。妖精たち、ありがとう」
【どういたしまして〜♪】
もう日が暮れていて、演習場の許可が取れなかったので早く授業よ終われと念じながら授業をうけ、そして放課後……
いつもの四人に会長、そして前回の反省を活かし監督者として学園長の六人で完成した魔導書を試すことにした。
「学園長、監督を引き受けて下さりありがとうございます」
「構わない。私も君たちがいつ魔導書を完成させるか楽しみだったからな。学生が自力で何かを試す、素晴らしいと思うよ。さぁ、始めてごらん」
「はいっ! それじゃ、アンリお願い」
「それじゃあ、いくよ〜?」




