死観少女
はじめての短編、純文学なので、おかしなところが多々あると思いますが、ご容赦ください。
人は死を悟ることがある。いや、あるとされている。文中でも出てくるだろう。『その時、〜〜は死を悟った』と、言ったように。では、それはいつか。おそらく、死の数瞬前でしかないだろう。なら、もっと前から知れたなら。せめて、数日前にでも知れたなら。欲を言えば、数週間、数ヶ月。数年。数十年。生まれた時から。もし知れたなら、人はどう変わるのだろうか。
私には、幼い頃から視えているものがある。それは、4桁から14桁まで、稀に15桁の数字で、人の頭の上に視える。
幼い頃は、それが何かわからなかった。ただ、下4桁が延々と減り続けるのを視ていた。いつだったか、「おかしい子だ」と言われるようになり、他の人はこの数字が見えないのだと知った。
小学生中学年になり、15桁の数字が何かようやくわかった。それは、時間だった。年、月、日、時間、分、秒、コンマ秒。でも、それが何を表しているのかまでは分からなかった。
中学生になっても、何かは分からなかった。
でも、今なら分かる。わかってしまう。
ーー私には、人が死ぬまでの時間が視えるーー
中学三年生の時、私の友達が目の前で弾け飛んだ。丁度、数字がゼロになった時のことだった。
高校一年の春、親友に『視える』ことを伝えた。すると、必死の形相で「自分はいつ死ぬのか」と聞かれた。後十五年だと答えると、急に泣き崩れた。
高校二年。別の友達にもそれを伝え、相談した。一人には、鼻で笑われた。もう一人は、しっかり聞いてくれた。ただ、数年で死ぬと伝えると、「なぜもっと早く伝えてくれなかった」だの、「お前は人でなしだ」などと激しく罵倒された。
大学二年。飲み会の時に、そこに居た全員に、各々が死ぬまでの時間を伝えた。皆酔っていたからか、大笑いしたり泣き出したりと、反応は三者三様だった。
大学三年。どうして自分はこの力のことを、その人が死ぬまでの時間を伝えるのだろう、と考えた。至った結論は「どんな反応かを愉しみたい」からだった。
さて、今からは人がどのような行動をとったか、語っていこう。
ここは大通りを曲がり、少し歩いてまた曲がった道。この道には、あまり街灯がなく、かなり暗い。
そして私は、交差する道に一番近い、薄暗く光る街灯の下に机を置き、フードを深くかぶって椅子に座り、通りかかった人に声をかけている。
また、人が一人通った。
「ねえ、そこのお姉さん」
「なに?あたし?」
「そう、あなた」
今日は、この人でいいだろう。
「あなたが死ぬまでの時間、知りたくなぁい?」
「なーに言ってんのあんた?大丈夫か?びょーいんいくか?」
病院に行くよう促すのは、いたって『普通』の人だ。
「そう簡単に信じられないよね。ほら、あの人を見て」
私は、道を見渡してもうすぐ死ぬ人を見つけ、指を指す。
「え?あの人がどーしたの?」
「後、15秒で死ぬわ」
私がそう告げると、女性はブッと吹き出した。
「あ、あんたなに言ってんのよ、あはははは。そーんな簡単に死ぬわけ」
「はち、なな、ろく」
「……え、え?ほんとに?」
「みて。に、いち」
私が「ぜろ」と言った瞬間、後ろから猛スピードで走ってきたバイクに跳ねられ、宙を舞って地面に落ちた。
「…………あ、ああああ」
「ね?これでわかったでしょ?」
だが、女性は何を言っているのかわからないと言った表情でカバンからスマホを取り出している。
「そ、そんなこといってる、ひ、ひまなんて、ないでしょ!?ほら、は、早く助けないと!!」
全く、物分かりの悪い女性だ。
「無駄よ。どうしても信じないっていうのなら、見てきたら?」
私がそう促すと、女性は走って跳ねられた人の方へ向かっていった。
そして、十数分後、青白い顔で戻ってきた。
「わかったかしら?もう、死んでるのよ」
「……………………」
どうやら、驚きすぎて声も出ないらしい。面白い、面白すぎる。
「ふふっ……」
ああ、ダメだ。面白すぎて、声が出てしまう。でも、今は抑えないと。
「話を戻すけど、あなた、自分が死ぬまでの時間、知りたくなぁい?」
私がそうたずねると、女性は黙って首を縦に振った。
「じゃあ、財布出して」
その言葉に、一瞬驚いたものの意味を理解して財布を丸々私に渡してきた。
私は構わず札を全て抜き取り、すっからかんになった財布を返す。
「さて、じゃあ教えてあげるわ。あ、その前に一つだけ。私のことは、誰にも言わないで頂戴」
女性は、こくこくと首を振った。それを確認して、私は再度口を開く。
「じゃ、教えてあげるわ。ズバリ、あなたが死ぬまでの時間は……後、二十分ね」
それをきいて、女性は吐いてしまった。それに続けて、手に持っていたカバンを落として机を叩きながら泣き崩れた。
どうして予想もできないのだろうか。自分の精神の弱さと今目の前で起きたことを合わせれば、死ぬまでの時間を聞いたら自殺してしまいそうなほどに狂う事ぐらい分かりそうなものなのに。まあ、私はそれが面白くて今こうしているのだが。
「きゃっ」
ずっとうずくまっていた女性は急に机を倒して走り出して行ってしまった。そして、時間がゼロになりーー案の定、車に轢かれて死んだ。
「うふふふふ、どうして、人間はこうなのかしらねぇ……」
道を変えて、再び声をかける。
「ねえねえ、そこのお兄さん」
今度は、ガタイのいい男性。
「どーした姉ちゃん、こんなところにいて。犯されたいのか?」
馬鹿を言う人もいるものだ。
「そんなわけないわ」
「もうおせえけどな」
「待って?あなた、自分が死ぬまでの時間、知りたくなぁい?」
それを聞いて、こちらに伸びてきていた男性の腕が止まる。
「分かるわけねえだろ、さてはねーちゃん、馬鹿だな?」
馬鹿が馬鹿なんて言葉を使うものじゃないけれどね。
「あの人、見てみて?」
私は、女性の時と同じようにもうすぐで死ぬ人を指差した。
「あの人、後24秒で死ぬわ」
「あ?」
私の言った事に興味を持ったのか、男性は私が指差した人をじっとみている。
「じゅうご、じゅうよん、じゅうさん……」
男性の顔は、まだ平常だ。これから、この顔が歪むのが楽しみでならない。
「ろく、ご、よん……」
男性が唾を飲む。
「いち、ぜろ」
『いち』でその人は通り魔に刺され、『ぜろで』死んだ。
「は……ああああ……」
「どう?わかってもらえたかしら?」
「あえあ……」
戸惑っている男性の事は気にせず、話を続ける。
「話を戻すけど、あなた、自分が死ぬまでの時間を知りたくなぁい?」
男性は、「ぉぅ……」と小さく返事をした。
「じゃあ、財布を頂戴?」
私がそう言うと、男性はきょとんとした。
「当たり前でしょう?何事をするにもお金が必要なのよ」
「い、いくらだ」
この男性は、値段を聞いているらしい。
「そうね、あなたの手持ち全てで良いわ」
「な…………」
私の返答を聞いて、理解できていないようだ。やっぱり馬鹿なのね。
「まぁ、出せないなら良いわ。教えないだけだもの。ほら、早く何処かに行って?」
大抵、こう言えば人は慌てふためくものだ。その様子が可笑しくて仕方がない。そして、この男性もそう。
「ま、待ってくれ!わか、わかった、はらう!」
彼は手をバタバタさせながら、ポケットから財布を取り出して、私に渡した。
私は札を全て抜き取り、財布を返す。
「さて、それじゃあ、教える前に一つ。私のことは、誰にも言っちゃあダメよ?いーい?」
私がそう伝えると、男性はぶんぶんと頷いた。
「じゃ、教えてあげるわ。あなたが死ぬまでの時間は………うふふ、あと十二秒よ」
そう告げた瞬間、男性は発狂して私に掴みかかってきた。よくいるのだ、こう言う輩は。私が元凶だと思って殺せばどうにかなると思っている人間が。それが惨めで仕方がない。
もちろんこういったことは今まで何度もあったので、対策済みである。
掴みかかってきたところにスタンガンを最大電力で浴びせる。
「ぐ…………お……」
そのまま、男性は倒れていった。これで、十二秒。
今日は、あと二人ほどにしようか。
「ねえねえ、そこのお兄さん?」
今度は、制服を着た学生さん。二人ペアだ。
「な、なんですか?」
「あの人を見てみて?」
ここからは、同じだ。私のカウントダウンが終わるとともに人が死に、学生さんが震える。そして財布からお金を抜き取り、時間を伝える。
「あなたが死ぬまでの時間は、後一日と五時間よ」
この人は、長い。恐らく、一度冷静になって思い出し、絶望して自殺するんだろう。
「そ、そんな…………そんな早くに……」
学生さんのメガネから、涙が零れ落ちる。その表情は絶望に満ちている。
「それで、もう片方の子。あなたが死ぬまでの時間は……」
その子は、ぐっと拳を握っている。その手のひらから血が滴る。
「後、六時間よ」
学生さんが、私の方をまっすぐ見た。
「そう、ですか。ありがとうございます。この六時間を、この世の誰よりも有意義に過ごそうと思います」
そう、この少年のように、残りの時間と真摯に向き合える人間もいるのだ。こういう人も、面白い。
「そう。じゃあ、そんなあなたに朗報よ。あなたがその気持ちを忘れない限り、そして、そっちの子をしっかりと守れる限りは…………」
私は、こういう子が、好きだ。だから、助言をする。
「あなたたちの死は、遠ざかっていくから」
こういう子は、先の二人のように馬鹿な行動には出ない。そのおかげで他人からは良く見られ、好かれる。そうなると、馬鹿でないのも合わさって自然と周りに幸福を還元するから死の要因が消え、死までの時間が伸びていくのだ。
「じゃあ、私は行くわ。良い人生を歩んでね」
この様に、死までの時間を知った人間が起こす行動は三者三様である。この話はフィクションだが、もし自分が死ぬまでの時間が知れたなら。
あなたは、周りの人は、どんな行動に出るだろうか。
読了ありがとうございます。
初めて純文学というものを書きましたが、人生を生きる上で考えることの一つになれば幸いです。主題は公表いたしません。もしよろしければ、感想でご意見いただければな、と思います。