ハマった
(ここからタケルに戻ります)
ツンツン、ツンツンツンツン
「起きてー朝だよー」
朝か...ティアロの声が聞こえる。
今日からは俺達もご飯の用意を手伝い、全員で食卓を囲む約束をしているため6:00に起床だ。
「うん...起きるかー」
俺は目をつむったまま、ティアロの頭を撫でてやる。
なぜ目をつむったまま撫でれるか? そんなの勘だ。
やけに人間らしい触り心地だ。
擬人化の魔法か? そうなら有難い。
ティアロが大きくなってから、もしも街へ連れて行くとなれば、混乱は避けられまい。
さて、起きるか。
俺が目を開けると、顔を紅潮させた水町さんと目が合った。
「ちょ! 水町さん!? そんな赤い顔して...夜這い? もう朝だよ? 」
「そんなんじゃないよぉ! 起きて来ないから起こしに来たの! 顔が赤いのはいきなりサトウくんが頭撫でるからだよぉ...」
もう一度試しに頭を撫でてみる。
ティアロと水町さんの2人にゴミを見るような目を向けられた。
「サトウくん、事故なら仕方ないけど故意的にやったらセクハラだよぉ」
「そーだそーだ! セクハラだよ! ユイカだけ撫でてもらるなんてズルい!」
あー多分、ティアロはセクハラの意味を理解してないな。
てか、ティアロがまた大きくなったな。
首を傾げないと天井に頭が当たるサイズだ。
僅かに羽が退化し、尻尾と胴体が伸びた典型的な“ドラゴン体型”に進化している。
日本にいた時から疑問だったが、大きな体に対して小さな翼で、どんな原理で空を飛ぶのか。
「それじゃあ、着替えるから水町さん部屋出てて」
「うん」
「ティアロも外出るー!」
部屋を出る水町さんを追ってティアロが部屋をーー
“ガツッ”
つっかえた。と言うよりもハマった。
「ご主人様ぁ! 助けてぇ!」
ティアロが泣き声を上げる。
「水町さん、事情を説明してノアさん連れて来て! 」
「うん、わかった! 」
程なくして、水町さんがノアとシルトを連れて戻ってきた。
「あらあら、完璧にハマったように見えるのだけれど」
「シルトさん、ノアさん、何とかなりそう? 」
壁とティアロを挟んで声を掛ける。
「はい。擬人化の魔法をティアロ様にご習得いただくか、お手数ではございますがシルト様の魔法で小型化させるかの2択がございます」
あ、擬人化の魔法ってやっぱりあるのか。
是非覚えさせたい。
「ティアロちゃんの今の精神状態を見ると魔法を覚えさせるのは悪手ね」
そう言い終わると共に、禍々しい力が渦巻き一点に集中するのが分かる。シルトが魔法を発動させているのだろう。
一拍置いて、ティアロの体が風船の空気を抜くように小さくなった。
ドラゴンと言うよりもトカゲと表す方が近いサイズ感だ。
「ごじゅじんじゃまぁ!! 」
一匹のトカゲが・・・・・・じゃなくて、ティアロが俺に駆け寄ってきた。
「この魔法は、相手を一時的に小型化させる魔法よ。一応戦闘用魔法なのだけど、半径1メートル以内しか効果が無い欠陥魔法だから実用したのは久しぶりね」
逆に最後は何時実践で使ったんだよ。後で聞いてみよ。
「いやぁ、朝からご迷惑をお掛けしてすみません。ありがとうございました」
改めてみんなにお辞儀する。
「全然、お易い御用よ」
「ええ、事なきを得て何よりでございます」
「それより、ご飯食べたらティアロに擬人化魔法覚えてもらおうよ。日に日に大きくなってきて、私怖いよ...」
「怖くないもん! 」
いや、確かに怖いよな。
「ま、まぁ、ティアロの見た目が怖いか怖くないかは別としても、これからもっと大きくなったら街を歩きにくいだろう。だから擬人化魔法を覚えて欲しいっていうのが俺の本音かな」
「ご主人様がそーゆーなら覚えてもいいけど...」
「よし、それじゃあ早速ーー」
“グゥゥーー”
お腹の音と共に水町さんが赤面する。
「私、ご飯食べたいかもです」
「あ、うん。先にご飯にしようか」
「ええ、私も賛成よ」
こうして、少し遅めの食卓を屋敷の住民全員で囲った。