高魔力な肉を食べさせたい件
「お父さん、起きて! 」
なんか、中性的な声が聞こえた気がする。
けど、俺はシルトの屋敷で寝てるから子供の声など聞こえるはずがない。
「お父さん、朝だよ! 」
あ、また聞こえた。今度は俺の顔をツンツンしてやがる。
ふざけやがって。怒だ。激おこプンプン丸である。
ベッドから這い出して、辺りを見回す。
「誰だ! 人の部屋で騒ぎやがって!」
子供であっても、侵入者は厳しく扱わなくては。
可哀想とは思いつつ、少しだけ大きい声を出した。
「お父さんおはよう! お腹減った! 」
誰だよマジで。俺はまだ童貞だぞ。
お父さんになった記憶なんて...記憶なんて...あったわ。
「ティアロ...お前、喋れたの? 」
「うん! 」
目線を下げると、昨日より大分大きくなったティアロが俺を見つめている。これじゃあ、もう肩には乗せられないだろう。
「喋れるのって、魔力が強い肉を食べたからかな? あと、俺はお父さんじゃないから」
「パパ、ご飯食べたい! 」
言い方を変えただけじゃないか。
それに、口を開けば、ご飯ご飯言いやがって。
まるで雛鳥じゃないか......あ、雛鳥だったわ。
「俺はティアロの親じゃないんだよ。言うならば・・・・・・ご主人様だな」
「ご飯は? 」
俺は時計を眺める。
うん、そろそろノアが料理を準備してくれる時間だ。
「よし、それじゃあ食堂に行こうか」
「やったー! 」
部屋を出て廊下を進む。
ティアロが歩くスピードに合わせて、ゆっくりと歩く。
「ねね! もう少し早く歩かない? 」
おい...合わせてあげているつもりが、合わせてもらっている側だったとは。
速度を上げてみるが、俺の普段の歩くスピードで全然大丈夫みたいだ。
「ティアロは歩くの上手だな」
「飛ぶ方がもっと上手! 」
ああ、そうですか。
産まれた直後に空を飛べて、産まれた次の日には言葉をペラペラ喋るなんて。異世界って凄いな。
俺達は朝食を食べたあと、ティアロに高魔力のご飯を食べさせるため討伐に出かけた。
昨日の夜に両手に抱いて帰ってきたウルフの肉も今日で食べ終わってしまいそうな勢いなのだ。
そういえば、ティアロの体がまた大きくなった気がする。
「一太刀猿って、どんな猿なの? 」
昨夜、タメ口にして欲しいと改めてシルトに言われたので少し緊張しながらタメ口で話し掛けてみた。
「人より一回り大きいお猿さんが、ニッポン刀と呼ばれる剣を持っているの。ニッポン刀の切れ味はとても凄くて、お猿さん自身も剣の達人よ。言葉を理解して貰えるなら、仲良くなって技術を教えて貰いたいほどなのだけれど...」
ニッポン刀って...似た言葉を日本でも聞いたが事ある。
森に入って15分ほどで開けた場所に出た。討伐ポイントは、ここの筈だ。
「ティアロ、どこにお猿さんが居るか解るか? 」
「多分あっちー」
右の翼で草むらの中を指している。
「見つかっては仕方ありません! チンさん、パンさん。懲らしめてやりなさい! 」
黄色っぽい杖を持った、大きなお猿さんが俺達を指差す。後半のセリフ、聞いた事あるかも。
「「は! 」」
護衛っぽい2匹の大きなお猿さん達が斬りかかってくる。
てか、何でこいつらも話せるんだよ。
1匹をシルトが相手取り、恐るべき剣戟をみせる。
「あなた、なかなかの技術をお持ちね。よろしければ教えて頂きたいのだけれど」
「ご老公の御前である! 」
互いに剣を交えながら会話を交わす。
「ちょっと何言ってるか分からないのだけれど」
「頭が高い! 」
もう1匹のお猿さんも参戦して2対1となるが、それでもシルトの剣術は劣らない。
てか、話が通じないってこの事か。
「水町さん、俺達も付いてくる必要あったか? 」
「あったんじゃないかな? 応援団...みたいな? 」
助太刀をしたいが、万が一狙いを外せばシルトに致命傷を与えかねないので何も出来ない。
「ふたりとも後ろ! 」
シルトの声で後ろを振り返ると、真っ黒のお猿さんが空を飛んできた。羽もないのに、どーゆう原理だよ。
「あれの名前はフライモンキー。武器は持たないけど、武術の達人よ。任せられると助かるのだけれど」
「分かった! 」
俺はクロスボウを構える。
しかし・・・・・・
「ティアロ倒してみたーい! 」
「ちょ! 待て! 」
俺の制止を聞かず、ティアロが飛び出した。
大きく息を吸ったティアロが真っ黒の息を吐き出す。
フライモンキーは一瞬にして灰となってしまった。
きっと食べれば高魔力だったはずなのに。
もったいない。
「倒した! 褒めて褒めて! 」
ティアロが俺の胸元に飛び込んできた。
頭をゴシゴシと撫でてやるが...また大きくなってる。
朝までは俺の腰よりも低かったのに、今では胸と同じ高さだ。
モンスターを倒すと経験値が入るのはティアロも同じなのだろうか。
「お手柄だったな! 」
「うん! 」
「ティアロが戦えるなんて驚きなのだけれど」
大きいお猿さんと戦っているシルトが声をかけてくる。
刹那の隙が命取りとなりそうな戦いの中で、どこに話す余裕があるのだろうか。
激しい剣戟の中で、シルトが半歩後ろに引いた。
その半歩は距離にして僅か、時間にして刹那であるがコンマ何秒の世界における戦いにおいて、この半歩が勝敗を分ける事となった。
シルトのククリナイフが美しく舞い、的確にニッポン刀猿の急所を抉る。
血飛沫を上げてニッポン刀猿がその場に倒れた。
「さて、残るはボスの貴方だけかしら」
シルトが黄色い杖のお猿さんに話し掛ける。
「こう見えて、儂も若い頃は剣豪でしてな。まだまだ若い物にはーー」
「えい! 」
水町さんが詠唱すること無く魔法を発動。
可哀想なことに、決めゼリフを最後まで言わせてもらえずに命を絶った。
「水町さん容赦ないね」
「そうね、決めゼリフを言っている時や変身中に攻撃するのはタブーなのだけれど」
「え?えええ? 私はただ、シルトさんにばっかり戦わせたら申し訳無いなって思って・・・・・・ごめんなさい」
水町さんがシュンとしてしまった。可愛い。
きっと、水町さんは日本にいた時にアニメを見ていなくて“暗黙の了解”を知らないのだろう。
「じゃあ、お猿さんを持ち帰るか」
俺はテキパキと3匹のお猿さんを捌いて、皮と肉と骨に別ける。
「頭って持ち帰る? 」
「要らないわ。美味しい出汁が出るわけでもないし」
俺は頭を落とし、更に部位ごとに切り分けた。
「おし、それじゃあ帰ろう! 」