回復魔法
「いやはや、これほどまでの才能をお持ちとは。感服いたしました」
「水町さん、まだLv.1だよね! ? これからどうなっちゃうんだよ」
もはや鬼才と言える強さに、ノアと俺は驚きの声を上げる。
「そんなことないですよぉ」
「過度の謙遜は皮肉にもなるんだよ? 俺なんてカンストしてもアルコールランプに火をつけるのが精一杯なんだから...」
「エッヘン! 私は強いのです! 」
俺の精一杯の揚げ足取りを華麗に捌いた水町さん。悔しいけど可愛いから許す!
俺達のやり取りに苦笑しつつ、ノアが話を戻す。
「さて、先程は一度の習得は難しいと申し上げましたが、ユイカ様でしたら回復魔法も直ぐに習得できるかもしれません。 続けて回復魔法の練習をなさいますか? 」
「はい! 是非よろしくお願いします」
ノアが、それでは... と言いながら胸ポケットから小さなナイフを取り出し、自分の掌を少しだけ切った。
「回復魔法は、大きく分けて2通りございます。生きている人間の怪我や病気を治す治癒魔法と、亡くなったものを生き返らせる蘇生魔法です。魔法の発動に詠唱は必要ありません。それでは、心の中で“この傷を癒したい”と強く念じて下さい」
水町さんがノアに歩み寄り、傷に手をかざす。
すると淡優しい光が傷を覆い、一瞬にして傷を消した。
「お見事です。蘇生魔法は・・・・・・流石に誰かに一旦死んでいただく訳にはいきませんし、またの機会にしましょう」
ノアの言葉を聞いた水町さんが残念そうに俺を見てくる。
なんだよ。俺に死ねって言うのか?
「サトウくん、1回だけ...ダメ?」
「ダメです」
「けど私、実際の戦闘中にサトウくんが死んじゃって蘇生できなかったと思うと心配で心配で...」
確かに、そう言われるとなぁ
「絶対、生き返らせてくれよ? 」
「うん! ありがとう、約束する」
とても嬉しそうな水町さんにお礼を言われる。
そうして...
水町さんの手から放たれた巨大な結晶により、俺は殺された。
「おかえり! お兄ちゃん! 」
いつぞやの、トイレの女神こと炎を司る女神ソルフが真っ白の空間で俺を出迎えた。
「ただいま。人の命が、たった今絶たれたと言うのにお前は呑気なもんだな。あと、俺はお前のお兄ちゃんじゃないからな」
「分かってるわよ。あんたは、味方の放った一撃で首を飛ばされて死んだわよ。ていうか、あんた冗談が通じないわけ? 馬鹿ねー」
俺の返答はお気に召さなかったらしい。そして一言余計だ。
「それより、お前に貰った加護なんだけど、塩と砂糖を間違えない加護って流石に酷くないか? 」
「そうね...確かに、気の毒だったとは思うわよ? 」
俺の体が輝きだし、宙へ浮かぶ
「ーーあ、そろそろ帰れるみたいよ。また遊びに来てね」
ソルフが寂しそうに手を振ってきた。
二度と来ねぇよ!と思う反面、きっと何時もひとりぼっちで寂しいのだろうなとも思った。
「機会があれば、な」
急に視界が明るくなり、深い底から意識が急に浮上するような錯覚を覚える。
「生き返った...のか? 」
目を開けて数回瞬きする。
「おかえり、サトウくん!」
「タケル殿、お疲れ様でございます」
横たわっている俺を見下ろすふたりに、労いの言葉をかけられた。
「それで、回復魔法は習得できた? 」
「はい、ユイカ様は、攻撃魔法、回復魔法共に完璧に習得なさいました」
ノアにも認められ、水町さんが嬉しそうに微笑んでいる。
「これでサトウくんの事を守ってあげられるね」
本来は俺が水町さんを守ってあげる立場のはずなのだが...仕方が無いか。
「それじゃあ、午後からクエストに行って力試ししようか」
「賛成! 」
こうして、水町さんが回復魔法を習得した。