神官だけど冒険者です!?
「あの~」
「はい! 始まりの村 道具屋へようこそ!」
居住まいを正した妹が少女神官を営業スマイルで迎える。
「何をお探しですか?」
「え、と。あの」
少女神官はオドオドとしていてなかなか話し出さない。
「お客様?」
妹がイライラし始める。
「何か欲しい道具でもあるのか?」
「ひゃい!?」
青年が近付くと少女神官は肩を跳ね上げる。
「あ、あの。薬草はありますか?」
「薬草? 回復薬じゃなくて?」
「私、お金なくて」
回復薬はそんなに高かったかと青年は首を傾げる。
「兄さん。回復薬が出回っているのは、それなりの街ぐらいですし、稼ぎの少ないうちは手が届かないんですよ」
「へえ。じゃあ君は新人の子?」
「は、はい。一週間前から冒険者になって」
「じゃあ色々揃えないとな。職業は神官だよな」
身なりからどう見ても神官だろう。これで戦士とか言われたら衝撃だ。
「はい。この間まで教会で務めを」
「神官さんが冒険者になるんですか?」
「回復職はどこでも引っ張りだこだからな」
妹の疑問に青年が答える。
「ん? でもどうして薬草を? 回復職なら必要ないだろ?」
「私、まだ魔力が低くて。覚えている術も【回復】だけですし。これからのために備えておきたいと思いまして」
恥ずかしげに少女神官は苦笑する。
「でも準備金は修行時代に貯めた僅かなもので。街は物価が高いし、魔物は強くて戦える自信もなくて」
自分の言葉で徐々に肩を落としていく少女神官。
「そんなときに優しくしていただいた冒険者の方が始まりの村を紹介してくださって。ここなら私でも頑張れるかもしれないと思いまして」
完全に俯いてしまった少女神官。
「どうして冒険者になりたいんだ? 教会で平和に暮らすことも出来たはずだろ?」
「憧れだったんです」
少女神官は呟く。
「幼い頃に村が魔物に襲われて家族も友達も殺されて。そこに駆けつけてくれた冒険者の方が助けてくれて。私も誰かのために戦いと思ったんです。でも幼い私には支えが必要だったので教会に入って、やっと夢の冒険者に。だけど現実は甘くなくて」
少女神官は苦笑する。
「冒険者の方って本当に凄いんだなって改めて思いました」
「そうか。金はいくらあるんだ?」
「銀貨二枚に銅貨が十枚。私の全財産です」
青年は妹に振り返る。
「いけるか?」
「兄さん、うちも商売してるんですよ。お金がないんじゃ商売になりません」
「始まりの村は新人冒険者のためにあるんだろ? 何とかならないのか?」
「私は道具屋の娘。冒険者のことなんて分からないです」
でも、と妹は微笑む。
「新人冒険者を支えるのが始まりの村のモットーです。それに手がないわけではないです」
「本当か! さすが俺の自慢の妹だぜ!」
「褒めても何も出ませんよ」
快活そうに笑う青年に呆れた表情の妹。
「あの、私はどうすれば?」
不安げな少女神官に妹は優しげに微笑む。
「うちは売るだけではなく買い取りもしています。でも元手がない。そんなときは村の外で素材を集めるんです。それを売るなり、アイテムと交換することだって一つの手なんですよ」
「そういえば俺も最初は素材集めがメインだったな」
青年は転職前を懐かしむ。
「魔物と戦わなくても冒険者なんですか?」
「そうだな。討伐より採取を専門にする冒険者も居るぞ。まあ、どっちにしても戦う力は必要だけどな」
「私にも出来ますか?」
「出来るさ。君が始まりの村を去る、その時まで」
青年がポンと肩を叩くと少女神官は嬉しそうに微笑んだ。
「宿と食事は、うちで良いですよ」
「いえ、いえいえいえ!? そこまでしていただくわけには!?」
「値段は安いとはいえ宿代はかかりますよ? 食事もタダではないですよ?」
「うっ」
妹の言葉に少女神官は言葉を詰まらせる。
「お世話になります!」
深々と頭を下げる少女神官に妹は強く頷く。
「早速、冒険に行ってきます!」
「これを持っていけ。この辺で採れる素材の図鑑だ」
「ありがとうございます!」
少女神官は図鑑を受けとると道具屋を去っていった。
「兄さん、彼女は神官ですよね」
「そうだな。聖職者にしてはけしからん胸だったーーがはッ!?」
「どこを見てるんですか、この変態は。そうではなくて、彼女戦えるんですか?」
「錫杖一本じゃ無理だろう。スライムはなんだかんだ物理攻撃に強いから彼女の腕力じゃ倒せないだろうし、攻撃魔法が使えないんじゃどうするんだろうな……」
「………………」
「……様子見てくる」
「行ってらっしゃい、兄さん」
慌てて飛び出す青年に妹はひらひらと手を振った。