猫は真夜中忍ぶ
長い道のりの先に、一軒家が見えてきた。猫はまず、そこの塀に飛び上がる。
「二階まで、遠いんだよ」
目的地まで、あと数メートル。
カチャン……
久しぶりに音もなくぐっすりと眠れた夜、窓を閉めたような音が響く。音もなくスーっと動いた気配が風をくすぐるように動き、眠っていた俺のそばで、
「やれやれ、来るって言ったのに、電気もつけていないのかい?薄情な君だな。なら、猫らしくこうしよう」
猫はずっしりと、颯真の顔に乗った。
「う…」
柔らかな毛や体に、気道を塞がれる。その憧れだった猫の添い寝とは、夢にも違いすぎる現実。
「睡眠時無呼吸症とやらがあるようだね。いったいどれだけ生きてられるのかは興味につきないよ」
俺は、目も開けられない異変に、ペタペタと顔に手をやった。
「意識覚醒。確認したよ」
猫は降りる。
そこで
「ぶはぁっ」
顔に乗っていたのは猫だった…と気づく。
ミケ猫は前足を丁寧にそろえて、まったくさっきの殺人未遂の行為をなかったことのように
「よく眠っていたね。颯真」
言った。
颯真は真夜中に音にきをつけながら、こそっと
「何気に無かったことにしようとすんじゃねぇ」
そしたら
「まったく。昼間も言った通り、君が思うほど僕は暇じゃない。ここに来るまで、猫の足でどれだけかかったと思ってるんだい?魔法で簡単に来たと思ってもらったら困るよ」
「それはスイマセンでした……」
いや、俺が謝ることなのか?
そしたら猫は
「完結に今日の事を説明しよう。君が見た穴。あれは魔法界に通じる穴だ。」
ふーん。
もう関係のない事のように聞いていたら
「君だって無関係じゃない。僕が魔法少女のために作った物を、君の内部に埋め込んでしまった。おかげで僕の苦労がおじゃんだよ。せっかく魔法少女のためにデザインした変身演出がゴミのようだった」
何気にひどい事いってる。って、なんか埋め込んだ⁉颯真は体をまさぐる。
内部…?
猫は
「残念だけど取り出せない。取り出せるとしたら君が死んだ時だけだ。」
重ね重ね、怖えぇぇよ
なのに、
「君には悪いことをしたと思っている。さて、説明の途中だった。あの穴は修繕はできそうもないよ。重機が入らない。こういった不備も想定しておくべきだった。魔法対策室には、想定外って言ってるやつを、仲間が口汚く罵っているところだ。おっと失礼。その音声はそっちまでいってないね。よかった。本当に汚い言葉だったから」
「……話、脱線してないか?」
「失礼。そう言った経緯で、まだ穴からは今日のような魔物がやってくるはずだ。ほっておけば、犠牲になる人間も増えるだろう。いきなり血を吹き出して死ぬ人が山ほど出たら人間はまともな判断ができなくなるだろう?自分の身だけがかわいいんじゃなく、身内や人類を守りたければ、力をかしてもらいたい」
いやいや……力を借す以外の選択肢なくないか?
猫は
「そのために、男にもてあそばれるのは嫌だけど、仕方ない。この体を自由にしていい。撫でるといいよ」
猫でなければ、恐ろしいセリフだ。俺のメリットが少な過ぎる。
颯真は考え込み、
「でもなー。あの服…なんとかならないか。」
それだけでもなんとかしたい。
猫はシレッと
「なんだい。僕のデザインした服の良さがわからないのかい?あのスカートの長さなら、ちょっと動くだけでパンチラが期待できるんだ。なのに、君の下半身はまったく誉められた物じゃないよ。ひどい有り様だ。」
俺が悪いみたいに…
「なら、変えられないのかって聞いてるんだ」
「無理だよ。データの書き換えには、手元に石がいる。その石は胸からえぐり出さないと取れないって言ったろ?」
死んだらって言ったけど、えぐるとは言われてない。
「サングラスとか言う黒いガラスがあるんだろう?目にはめ込むやつだ」
颯真は
「なんで、お前の言葉はちょくちょく怖いんだ。はめ込むって‼目⁉」
猫は首をふってやれやれと言った顔で
「通信と変換の相違だね。だいたい通じているだろう。よかったら、マイクを後ろの口汚く罵る友人の方に向けようか。」
「いや、いい。まとめよう。俺の力が必要なんだな。それで、戦って穴をふさげばいいんだな」
「話が早いよ。変身には僕が必要だ。僕はここで暮らすことにしよう。ここはペット可の建築かい?とても毛が抜けるし、爪もとぐよ。いいかい?」
「やめてくれ」
猫は
「善処する。」
猫は窓の方を向き、
「今日はやることが山のようにあるんだよ。始末書も山ほど書かないといけない。君がグースカ眠っている間も働き続けたんだ。それでも、まだ、過去のデータを探って、これからの対策をまとめた資料もお偉いさん達に見せなければならない。君が羨ましいよ。帰ってくるから鍵はかけないでくれ。帰りは朝の4:00だ。」
「はぁ、なんか、頑張って下さい……」
颯真はぺこっと頭を下げた。
「いいよ。美味しいご飯を用意してくれると嬉しいな。とびきり美味しいやつがいい。朝食は8:00きっかりで頼む」
ややこしいのが来たなー!!!
颯真は
「ああ。時間がないんだろ。気を付けて」
しっしっ。もう、早く行ってくれ。
猫は
「シーユー」
あっ、そこはシーユーのままなんだ。
猫はドアをひょいっと引っ張ると、その隙間から出ていった。
それを閉めながら
「俺の理想の猫はそうじゃない…」
何かがまちがっている。
そう、何もかも……
やれやれ、降りるのもまた困ったもんだ。早く家猫にしてもらって玄関からでよう。