魔帝は婚約せんとす
映画館に向かいながら、この金髪二人はアニメの映画なんてみるのか?
とも思ったのだが、今日は桃華とも見る映画きめてあるし、これでいいか。
街を歩けば、目立つ集団の俺達はやたら見られる。ハデな金髪の二人がいるせいだ。その二人はまるでモデルのようなので、日本人は見てしまうらしい。映画に向かう雑多な人通りの中、振り返ってまで見ている人は多い。
そして桃華も……
じー
ミケランジェロを見ている。どうやら何か良からぬ恋が芽生えたなら、兄としては全力で潰したい。そんこんなしてたら、メアリが
「颯真。颯真はやはり顔がいいのだな」
そういって、ピンとそでを引っ張った。
苦笑いで
「俺は顔だけの男だろうか?」
そう言ったら、メアリはあわてて
「いや、それ以外も………」
言葉を濁した。
それを見たミケランジェロが
「やらしいな。わざわざ顔以外も誉めさせようなんて。君は本当にたらしだな」
目ざとく責めてくる。
まったく。さっきまでフィッシュバーガーとやらを気にしていたくせに。桃華も
「お兄ちゃん……たらしなの?」
ほら、本気にするから。
颯真は動じる事なく、
「そいつが言ってるだけだ」
そしたら、
「ほら、なまじ自分に自信のある男ってやだね。僕に勝ってるって思っているんだよ。やれやれ」
お前には勝ってる所がある。まずは常識、モラルだ。
颯真は
「まぁ、俺は普通の男だから」
そう言うと、とたんにメアリは
「なんて事を言うんだ。颯真以上の男がいるわけないだろ。あんなチャラチャラしたやつなんかに負けるべくもない。もっと自信を持て」
真剣に言われた。颯真も苦笑いしてしまうぐらいだ。
桃華は
「どっこいよ。どっちもいいんじゃない」
そこで、もはや兄の肩を持ってくれない桃華になってしまった事を感じた。
兄離れは突然に。もうしばらく続くであろうと思われた時間は思ったよりも短いって事か。しかし、ミケランジェロだけは許さない。
颯真は
「ミケランジェロも、あとは性格が良ければな。あと、おしゃべりだ」
そしたらミケランジェロは
「ああ。性格が良すぎても嫌みになってしまうだろ。僕は完璧であればあるほど嫉妬されるよ。これは言わば処世術だよ。そして、おしゃべりはチャームポイントだろ」
これが本気で言ってるなら怖いもんだ。
颯真は
「さぁ、映画館に着いた。みんな、超えもん(デラエモン)でいいか?」
人気シリーズの猫型ロボットの名古屋奮闘気。
サブタイトルは
『エビフリャーの冒険』
このシリーズが桃華は大好きなのだ。
二人はわからないだろうが、ミケランジェロは
「そう言うからには面白いんだろうね。いいよ。見てあげようじゃないか」
メアリは
「颯真におまかせする」
ミケランジェロは若干ムカつくが、いいようだ。颯真は細かい所は突っ込まない。どうせイライラするのがわかっているからだ。
「じゃあ入ろうか」
もう、サクッと入った。
映画館初めての二人に、大声でしゃべらないとか、席を立たないとか、軽く注意をしておいた。
映画がはじまった。
エビフリャーというキャラが、まさかいい奴で一緒に大冒険するとは……エビテンペラー(てんぷら)をやっつける話だった。なかなかこれで感動すらさせてしまうのは、やはり、このアニメならではの魅力だろう。
映画やアニメがわからない二人だけど、いたく感動したのは間違いない。
ファーストフードの店に入って、そこで飲み物でも飲みながら話し合う。
ミケランジェロは
「僕はデラテモンと同じ猫でよかったと思うよ」
そんな感想をもらした。もはや、これはスルーしよう。
「メアリはどうだった?」
メアリはなんか感じ入る物があったらしい。
「もう……世界征服なんてやめようと思う。こんなのエビテンプラーと同じだ。私だってエビフリャーになりたい。テンペラーになりたい訳じゃない」
魔テンペラー……ではない。魔帝は言う。
ミケランジェロは
「僕もそれがいいと思うよ。そして、魔界と天界は手を取り合うべきだと思う。それこそ、エビフリャーと超えもん(デラエモン)みたいに」
颯真は黙って見ている。なんか、いい流れだ。桃華も静かにオレンジジュースを飲んでいる。
そして、ミケランジェロと、メアリは握手する。
「ここに、平和協定を結ぼう」
「ああ。でも1つ……条件が……」
メアリは頬を赤らめる。
ミケランジェロは力強く
「条件か。言ってみてくれ」
メアリは颯真を見る。まさかどもる。
「そ………そ………颯真を………その、フィアンセとするなら………」
颯真は
「………ぐっ」
油断して、コーラ飲んでいた。炭酸が喉に……
変わりに桃華が
「待って‼なんでお兄ちゃんがそんな事しないといけないのよ‼」
桃華が味方してくれてる。
ミケランジェロは
「桃華。颯真の変わりに僕をお兄ちゃんと呼ぶといい。淋しくないようにそばにいてあげるよ。さぁ、お兄ちゃんと呼んでごらん」
颯真は
「この……何ふざけて……」
桃華は
キュン
もう、手遅れだった。
俺の妹がーーーーーーーーー‼‼
メアリは
「そ……………そ…………ま。やなのか?」
颯真は答えに困っている。桃華のキュンも止めたい。
と、ミケランジェロが囁く。
「もう変身しなくていいって事だ」
悪魔が囁く。
颯真はいやいや、と考え直す。とにかく、婚約は早い。相手が若すぎる。
「いや……君はまだ若いだろ。成長すれば、もっといいと思う男にも出会うと思う。なのに、その年で決めてしまってはいけないと俺は思う。勢いだけでは後悔する時もあるんじゃないか」
ミケランジェロが、
「で、颯真と仮に婚約すると言う事で、メアリが嫌いになったら振ってくれ。颯真は今の所、彼女はいないし」
「話を聞けーーーーーー‼」
思わず颯真はミケランジェロのほっぺた引っ張った。猫じゃないから思いっきりできる。けど、すぐはなす。
ミケランジェロは
「堪え性のない男だな」
意外とシレっとしている。
メアリは
「なら……なら、颯真に好きな人ができてなくて、わ……私が成人したら……考えてくれ」
カタカタジュースを持つ手が震えてる。メアリは本気らしい。
なら、本気で答えないといけないかもしれない。
颯真は
「………そんなに好きでいる事ができるのか?長いぞ、その年からの数年は」
まだ子供の少女が何年を思っていられるのだろうか。その成長の早い。一年一年積み重ねる物も多い年頃だ。桃華のように変わるかもしれない。女の子の成長はあっという間で、綺麗な女性にかわって、誰かを好きだというのかもしれない。
メアリは
「魔帝は直感で探すんだ。自分の伴侶を。そしたらもう変わらない。颯真も、颯真の世界も、きっともっと好きになる」
そしたら、ミケランジェロは
「あーぁ、何で颯真ばっかり」
桃華がこそっという
「なら、あんたもあたしと約束したら?」
颯真は気づく。桃華は本気なのだと。
二人だけのこそっとした話。颯真は気づかないふりをした。妹は女の子じゃなくて、女性になったのかもしれない。兄にべったりだった少女は離れていくのだろうか。悲しくて淋しい……それを気づかないふりをした。
メアリは
「どうだろうか」
不安に揺れるメアリの目を見ながら、颯真は
「なら、また大人になって話をしよう。俺には子供すぎる。そこの変態猫もだ!桃華、お前も成人まで我慢しろ」
そしたら桃華は
「女は16才で大人なの。あとちょっとよ。ね、ミケランジェロ」
ミケランジェロも
「まぁ、いいけどね。僕の答えは決まっているよ」
なんか怖い。いいとも、悪いとも言われても殴ってやりたい……桃華に不満があるとも言われてもやだ。付き合うってなってもやだ。
颯真は
「なら、この話は持ち越しだ」
すまして言った。
平和協定ができてから、次元パトロールも縮小。
ミケランジェロはすぐにこの人間界に転がりこんできた。
そして、近所で暮らしはじめて、毎日颯真の家にだべりにくる。
喋らないと死んでしまうと言われた。
一度死んでみるか?